羽毛布団、超高層ビル、チキンカツ
「・・・・・・・・・・・・ふうむ」
きょときょとと周囲を見回してみる。
「どうかしましたか?」
はなさんが、そんなぼくを見て、首を傾げていた。
「いやさ。この辺、割と田舎なのかな、と思って」
「あら? どうしてです?」
「んー・・・・・・」
ぼくらが通っている大学は、小高い山の上にある。
すくなくとも、周辺の土地より標高が多少高いのは事実だ。
そして、正門からはまっすぐに坂になっているわけだ。
だから、正門に立って周囲を見回すと、割と遠くまで見える。
ぼくとはなさんは、正門を出たところだった。
ぼくは周囲を見回して、
「なんだかんだ言ってさ。この辺りってあんまり高い建物ないじゃない?」
歩き出しながら、ぼくははなさんに言う。
「高い建物」
「そう。超高層ビル、とまではいわないけど、二十階以上ありそうなやつ」
ぼくの地元では、そもそも十階建ての建物でも相当に高かった。
この辺りだと、
「駅前のビルくらい?」
「そうですね。あのビルが、この辺りでは一番高いビルになるでしょうね」
ビルというと、全面ガラス張りで、四角くて光っている印象があるが、そんな建物はこの辺りではまず見ない。
どちらかというと、マンションやアパートの集合住宅の建物の方が圧倒的に多い。
そして、そういう建物には、大概学生が住んでいる。
「でも、いきなりどうしたんですか?」
「いや、アニメで超高層ビルの高いところでワイングラス片手にかっこつけてるシーンがあったからさ。そういえば、そういう建物ってこの辺ないなって」
「日照権の問題とかありますし、あまり高くは建てられないんじゃないか、とも思いますが」
「なるほど、そういうところにも気を遣うのか・・・・・・」
高い建物だと日陰も多い、と。
たしかに、マンションやアパートなどの建物は割と集中して建てられているし、北側や西側に道路や駐車場が多い。
「・・・・・・超高層ビルって、どのくらいの高さから、超高層だろうか・・・・・・」
「百階、くらいでしょうか」
「実際、そんな建物あるのかな?」
「さあ? あっても、わたしは用なんてないと思いますし」
「確かに・・・・・・」
縁遠い場所、というイメージはある。
「都会で働くと、そういうところで働くこともあるかもしれないけどね」
「ブラック企業ですか?」
「なんでよ? そういう大きなところを使えるなら、むしろホワイトな職場になるのでは?」
まだまだ学生の身分では、社会の仕組みなんてわからないけれど、
「高給取りな仕事だったら、やってみたいと思うけどね」
「お給料は高い方がいいですよね」
「年収一億」
「それは会社の社長とか、そういうレベルでは?」
「毎年宝くじを当てれば・・・・・・」
「それを年収とは言わないでしょう。というか確実に当てられるとか、どんなインチキですか」
「まったくだね」
ははは、と笑う。
「はなさんは、お金があったら何を買う?」
「お金があったら・・・・・・」
「いや、もっと簡単に、今好きなものを一つ、何でも買えるとしたら?」
坂を下りながら、ぼくはちょっと腕を横に広げて、
「ほしいものなんでも一つ」
「・・・・・・なんでも、ですか・・・・・・」
はなさんは、じっくりと考えて、
「・・・・・・何か、美味しいものを、サンと食べに行きたいですね」
そう言った。
「もう。はなさん、それはないよ」
「ないですか?」
「いつだって行けるんだから、そういうんじゃなくて、もっと特別感が欲しい」
「別に、何でもいいんじゃないですか? ほしいものなんて、挙げていったらキリがないですし、だから、働いてお金を稼ぐんですし」
「まあ、そうかもしれないけど」
「サンだったら、何が欲しいんですか?」
「よく眠れるお布団」
「羽毛布団とか?」
「あれは、なんか違う。・・・・・・ぼくとしては、羽毛布団はなんか落ち着かない。そういうんじゃなくて、こう・・・・・・」
むー、と唸る。
「低反発マットのやつとかは、結構いいんだけどね。ああいう感じ」
「そうですか」
「ビーズクッションとかさ。こう。体をリラックスして全身べたあって預けられるようなそういうのが欲しいんだよね」
ぐったりと体重を預けるのは、意外と体が痛くなる。
そういった、体が痛くなるのが、ない、クッションがほしい。
「探せばありそうですが」
「高い」
「高いですか」
「簡単には買えないって。・・・・・・アパートの部屋は広くはないし、ね」
そこは惜しい。
「そういう意味で言うと、広い部屋に住みたい、かも?」
「ふふふ。一つ欲しいものを挙げるはずが、どんどんほしいものが出てきますね」
「ほんとだ。・・・・・・困るねー」
くすくすと笑い合う。
「・・・・・・ま、これからも欲しいものを考えては、広告見たり、カタログ見たりして想像するんだろうけど」
「そして、それを手に入れるために、いくら稼げばいいのか、とか考えて、貯金をするわけです」
「ちっともたまらないから、宝くじアタレーって、なるわけね」
「当たらないですけどね」
「あたれー」
言いながら、サイフを取り出す。
「・・・・・・・・・・・・ちょっと、お金あるかな」
「そうですか」
「晩御飯を買いに行かなきゃ」
「美味しいものを、食べたいですね」
「安くてもおいしいもの」
「鶏肉でしょうか」
「唐揚げ?」
「そういうのもいいですが」
「チキンカツ」
「わたしは、チキンカツはトマトソースで似て、ごはんに載せるのがおいしいと思います」
「何それおいしそう」
はなさんと歩く。
ほしいものはたくさんあるけど、はなさんといるなら、別にいいや、とも思える。
ただ、こういう時間が、一番欲しいものかもしれない、、なんて、つまらないことを思った。
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