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アスファルト、ホイコーロー、大富豪

 アスファルトが熱せられている。

「暑い」

 日差しが強い。

 アスファルトに陽炎が立っている。

 遠くには、逃げ水が見える。

 今日はもう夏だなあ、と思ったところで、風が吹いた。

 風自体は涼しく感じるけれど、吹き付けるものはアスファルトの熱を孕んでいて熱い。

「あー・・・・・・」

 これはだめだ。

 本当にしょうがない。

「アイス買お」

 ぼくは近くのコンビニに避難した。

 どうしてこんな暑い時に外に出なければならないのか、といえば、やっぱりぼくが学生だから、になる。

 大学を終えて、ぼくは買い出しに出ていた。

 今日は、はなさんの家に招待されている。

 招待というとちょっと大げさか。

 遊びに行くよ、と言って、いいですよ、と応じてもらった。

 ナオさんも一緒で、今日は晩御飯をはなさんの家でごちそうになる予定だ。

 その前に、ちょっとアパートに寄って、と思っていたのだけれど、

「あー・・・・・・」

 コンビニに入れば、冷房の効いた店内に汗が一気に冷える感じがする。

 ちょっと肌寒さすら感じるほどで、そのすー、とした感じが気持ちいい。

「うい」

 アイス売場の箱の中を眺める。

 ソフトクリームか、アイスバーか。

 汗が引くまでの間、しばらく考えて、

「ん」

 キャンディーアイスを一つ取って、レジに向かう。

 会計を済ませて、店外へ出れば、やはり熱が吹き付けてくる。

「うー」

 呻きながら、端へ寄る。

 道路の真ん中はだめだ。

 端っこなら、街路樹の近く、緑のある方向がいい。

 影になるところを選びながら進み、アイスを頬張る。

 歯を立てて、しゃくしゃりとアイスを食べすすめて、

「ふー・・・・・・」

 喉を氷菓子が落ちていけば、喉の奥を冷たさがすー、と通っていく感じがして、喉の潤う感じがとてもよい。

 食べきってしまうと、体の熱が取れた感じで、涼しさを感じる。

「さて、と」

 ちょうど、アパートについた。

 部屋に入り、冷蔵庫を真っ先に開けて、中から冷えたペットボトルを引っこ抜いて、一気飲み。

「ふい。落ち着きました」

 独り言ちて、部屋を見る。

「えっと、確かこっちの箱に・・・・・・」

 ごそごそ漁って、

「あったあった」

 取り出した袋を手に、ぼくは部屋を出た。


+++


「はなさん。今晩の晩御飯は何だい?」

「ホイコーロー、ですよ」

「回鍋肉。・・・・・・中華だね」

「ちょっとジャンを多めにして、辛味マシマシにするつもりです。大丈夫ですね?」

「ぼくは辛いのは、大丈夫」

「うちもいいぞー」

 はなさんがとんとんと包丁を動かしている。

 ぼくは、リビングの方でその音を聞きながら、ナオさんと向き合ってトランプをしていた。

「・・・・・・さあ、サンよ。ババはどっちだ?」

「む」

 ナオさんの手にあるトランプは二枚。

 ぼくの手にあるものと合わせて、あたりを引けば、それで勝ち。

「・・・・・・・・・・・・こっち・・・・・・」

 そっと手を寄せるけれど、ナオさんはにやにやした顔のまま、表情が変わらない。

「・・・・・・いや、こっちだ!」

「おうし。ババをもってけ―!」

「あー! くっそう・・・・・・」

 引かされた、と思ったそれを後ろに回して、二枚をシャッフルして、

「さあ、どっちだ!」

「おうし・・・・・・」

 ナオさんに突き出せば、

「サンは、分かりやすいなー」

 くっふっふ、とナオさんは笑って、ババじゃない方を抜いていく。

「あれ?」

「ふははー! うちの勝ちだー!」

 ぺい、とペアになった二枚が置かれて、ぼくの手にはババが残る。

「・・・・・・なんで分かったの?」

「カン!」

「えー・・・・・・」

 それは納得できない、と思ったところで、

「いや、カンでこっちだ、って言ったら、サン、ちょっと動揺してたぞ?」

「え? マジすか」

「マジだー。超分かった!」

「くっそう・・・・・・」

 それは悔しい、と思いつつ、三枚のトランプを集める。

「しかし、いきなりクライマックスババ抜きとか、どうなんだこれ」

「いや、二人でやる場合、大体どうせこの状態になるから、そこに至るまでの過程をショートカットしてみようかと」

 ジョーカー一枚と普通のトランプ二枚で、ジョーカー以外を揃えたら勝ち、というルールだ。

 どっちがジョーカー持っているかは丸わかりで、どっちを引かせるか、と考える。

 ゴロキュー先輩考案のショートカットゲームだが、

「・・・・・・ゴロキュー先輩曰く、ポーカーフェイスが鍛えられる、とか言ってたけどね」

「どうだろうな? クライマックス過ぎて、終わるまでが早すぎる気もする」

「まあね」

 頷いたところで、キッチンの方から、じゅー、と焼ける音が響いてきた。

「おおう。いいねえ、この音」

「ねー。音だけでおいしそう」

 ナオさんの言葉に同意する。

「肉、キャベツ。からしみそ」

「味噌なのかなあれ」

「豆板醤」

 中華に入れれば大体辛味が増しておいしいやつ。

「・・・・・・唐揚げに添えてもおいしいよね」

「いいよな。肉類は辛味を添えると美味いしなー」

 ナオさんも頷いている。

「・・・・・・はなさーん。まだかなー?」

「もう少しですよー」

 うふふ、と笑いながら、はなさんはフライパンを振っている。

「白いご飯。ホイコーローの辛味。美味いだろうね」

「うち、なんだかんだ、はなの手作り飯初めてだけどなー」

「バーベキューしたじゃん」

「あんなの手作り飯とは言わん」

「暴論だ」

 ナオさんの言葉に笑う。

「さあ。二人とも、できましたよー」

「おー。待ってたぜー」

 ナオさんが喝采をあげている。

 ホイコーローの載った大皿をテーブルに置き、取り皿が置かれて、

「ごはんをよそいますよ」

 はなさんが、白いご飯を三人分並べていく。

「うまそー」

「美味しいよ。これは絶対」

「口に合えばいいんですが」

 ふふふ、とはなさんは笑っている。

「では、召し上がれ」

「「いただきます!」」


+++


 おいしかった。

 夕飯を食べ終えて、食器を洗っているはなさんに声をかける。

「・・・・・・そうそう。はなさんに贈り物ー」

「ん? なんですか?」

「うん。前、言ってたじゃん? 暑くなってきたし、ちょっと腕時計しづらくなってくるって」

「ええ。バンドとの間に汗かきますから」

「それを解決する手段の一つ」

 アパートから持ってきた袋を取り出す。

「リストバンドだよ」

「その上から時計を巻くんですか?」

「そ。ぼくは夏場はそうしてる」

「なるほど」

 はなさんが頷いている。

「サンー」

「ん? 何? ナオさん」

「シャッフル。そして、大富豪するぜー」

「あいさー」

 リビングのナオさんの方へ向かう、そのぼくの背に、

「サン。ありがとうございます」

「どういたしまして」


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