腑に落ちる、高校生、デッサン人形
手遊びに、ノートの端っこにくるくると絵を描いてみる。
楕円形をいくつかつなげて人型にすると、デッサン人形みたいな形になった。
ちょっと違うな、とその隣に次を描く。
三角二つ、横長の丸、目と口。
猫っぽい何かになった。
「む」
ちょいちょい、とヒゲを付け足し、ネコにしてみる。
「・・・・・・」
横長な胴体。しっぽをつなげていって、動物にしてみる。
だけれど、手足の生えている位置がおかしい。
「・・・・・・?」
尻尾は丸い。手足は同じ長さじゃなくて、といろいろいじっていたところで、
「遊ばない」
ぺし、と隣から手を叩かれて止められた。
「・・・・・・はあい」
落書きを消して、ぼくは前を見る。
講師が書いた板書を写し取りつつ、ふい、とため息を吐いた。
+++
「何かありましたか?」
講義が終わった後、はなさんから声をかけられた。
「ん?」
「いえ。なんかため息吐いていたでしょう? 集中もしてないみたいでしたし」
「んー。そういう日もあるよ?」
「いえ、サンは集中できない日でも集中してるフリするのはうまいですから」
「お、おう・・・・・・」
貶されてるのかな、と思うけれど、はなさんの表情はどちらかといえば心配そう、という感じだった。
「いや、別に大したことはないよ?」
「本当ですか?」
心配そうな表情だ。
「んー」
ちょっと、考える。
「昨日ね、ちょっと久しぶりに地元の友達と話してさ」
「あら?」
そのおかげで、少し思い出したことがあった。
「昔、ちょっと悪さしちゃった時があったんだけどね」
「・・・・・・悪さ?」
「いやあ。あの頃は若かった」
冗談めかして笑ってみる。
「万引きでもしちゃったんですか?」
「犯罪はしてません。ぼくはまじめないい子ですー」
「はいはい」
はなさんが苦笑している。
「ちょっと喧嘩ね? 腹立ったやつを思いっきりぶん殴ったら、ちょっと病院送りになっちゃって」
てへへ、と頭をかきつつ軽くいってみたけれど、はなさんは軽くドン引きしている。
「・・・・・・どんな力で殴ったんですか?」
「いや、そこまでじゃないよ? ただ殴った時に転んで、手を突いた拍子に、なんか手首を骨折しちゃったんだって」
「そんなことあるんですか?」
「さあ? なんか知らないけど、力のかかり方によっては簡単に折れたりすることはあるって」
そこは本題ではない。
「なんで喧嘩なんて・・・・・・」
「友達が街でからまれてたので、手をひっつかんで逃げたら、回り込まれてしまった、ていう感じ?」
「逃げようとして逃げられなかった、ていうことですか?」
「うん。まあ、友達の方で煽りに煽ってたから、途中で引っ込みつかなくなっちゃったのかなって」
「それは大変でしたね」
結局、それで殴った後に動けなくなっているのを無視して逃げた。
そうしたら、
「学校に殴りこんできやがってさあ」
「いつの時代の不良ですか」
はなさんが信じられない、という顔をしているが、
「ごめん。ちょっと話を盛りました。実際にはそいつ同じ学校の生徒だった」
「あらまあ」
「手首に包帯巻いた先輩と、かばった友達と歩いているところを、おもいっきり遭遇しちゃって」
「うわあ」
「うわあ。だよ。まあ、さすがに両方とも高校生だったし、向こうも冷静じゃなかったのは認めてくれてさ。互いに謝って、それで終わりにしたんだけど」
「けど?」
「友達の方は収まりつかなくて」
「お友達の方が?」
「まったくだよ。ぼくは止めてるのに、なんでそこまで毛嫌いするのっていう感じ」
さすがに呆れるしかなかった。
一応友達だから最後まで味方はしたけれど、途中からぼくもなだめる側に回っていた。
「あらまあ」
「あとで知ったところによると、実は二人は幼馴染で、高校入る前に喧嘩別れしていた、ということでした」
「変な因縁があったんですね」
「あっちゃったの」
理由を聞いたら、
「なんかね、その先輩と、友達のお姉さんが付き合っていて、だけどその先輩が浮気をしたせいで別れた、と」
「ほう?」
「それまではそれなりに仲良かったけれど、その事件を機に縁を切ったとも」
「それを聞いてしまうと、そのお友達の方にも言い分があるように感じてしまいますね」
「で、結局それを機にぼくを挟んで喧嘩するようになりやがって」
「・・・・・・うざかったんですね?」
「あー、うん。喧嘩なら一対一でやれ。人を挟むな、と」
非常に疲れた事件だった。
「で、どうやって収めたもんかな、と考えていたんだけど」
「だけど?」
「途中で面倒くさくなったので、喧嘩両成敗ということで両方ぶん殴ったの」
「・・・・・・・・・・・・」
胸を張って言う。
「おかげで、先生に呼び出されて、事情聴取。ちゃんと聞いてみれば、別にその先輩さん。友達のお姉さんとは別れてなくてさ」
「え?」
「浮気っぽい事件があったのは事実だけど、それは勘違いで、断片的に事情を聞いた友達が、まあ、誤解がひどいことになったと」
友達の方は、なんかいろいろ思い詰めていたけれど、お姉さんにたしなめられて、先輩に謝っていた。
「互いの話し合いの結果、ぼくの方にも謝罪が来たし、まあ、いいかな、って」
その時は、それで手打ちになった。
「・・・・・・それで? それが今日のサンの調子が変なのと、どういう関係が?」
「いやね?」
しょうがない話なんだけど、と肩をすくめる。
「なぜかそのあと、先輩カップルになつかれて」
「懐かれた?」
「そう。なんか、友達と喧嘩するたびに仲裁を依頼してくるようになった」
「そんなしょっちゅう喧嘩してるんですか?」
「だって、その友達シスコンだったんだもん」
「あー・・・・・・」
はなさんがなんとも言えない顔でうめいている。
「とても、とても、面倒なことでした」
「お疲れ様でした」
「ぶっちゃけ、当人同士で話し合え、と思ったことが何度あったか」
「本当に大変でしたね」
「うん。手がかかる友達だったよ。まあ、それ以外は欠点なかったけど」
違う大学に行ってしまってからは会っていないけれど、時々は電話している。
「・・・・・・で、その友達からね?」
「はい」
「ついに、その先輩とお姉さんが結婚する、という報告を受け増して」
「あら。めでたいですね」
「めでたいよ?」
だから、
「ちょっと、感慨にふけってた」
「なるほど」
はなさんが、腑に落ちた、という表情を浮かべた。
「ご招待を受けたので、近いうちに地元に戻って結婚式に出てくるよ」
「はい。気を付けていってらっしゃい」
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