ホットコーヒー、温泉卵、本
「・・・・・・サン」
はなさんに声をかけられて、振り返る。
「こんにちは。はなさん」
「はい。こんにちは」
今日は、休日だけれど、はなさんと約束をして会っている。
ちょっと行きたい場所があったので、もしよければ、と誘った結果、ぜひ、と応じてくれたのだ。
いつもは大学で会うので、今日は近くの駅前で待ち合わせとしてみた。
「それで? 今日はどこへ?」
「うん。これを見て」
ぼくはカバンから一枚のチラシを出す。
「あら。物産展ですか」
「そう。ここから二駅行ったところの近くのデパートの地下でやってるって」
「何かお目当てでも?」
「うん。ネット巡回してたら、アニメキャラのコラボ商品が出てるって言ってたから」
「え? それでですか?」
「うん」
頷く。
「ああ。別にわざわざ調べて出向くほどにはオタクじゃないよ?」
手をひらひら振って否定はしておく。
「じゃあ、どうしてです?」
「いや、物産展やるのは知ってて、美味しいものは食べたいなー、とは思ってたんだけど、面倒くさいなあ、と」
「で、コラボを見て行こうか、と?」
「うーん。コラボはついで、かなあ? たまたま近くでイベントがあって、普段そういうところって行かないからさ。近くでやっているなら、まあ、いい機会だし一度行ってみようかなって」
「いい機会だから?」
「うん。いい機会だから」
タイミングが合った、ということだ。
「あと、九十九先輩にそこの物産展で使える割引チケットもらったし、これはもう行けって言われてるな、と」
「なんで九十九先輩が?」
「デパート地下の売り場は、食品売り場だから、いい食材探す時はよく利用するんだって。それで、よく買い物行くから割引チケットもらったって言ってた」
「自分で使わないんでしょうか?」
「どうせ使いきれないくらいあるから、とか言ってたけど、どんだけ買い物してんだろうね。あの人」
「九十九先輩のことだから、単純に親切でしょうけど」
はなさんも苦笑している。
「まあ、とにかく、行く理由がいくつかできちゃったし、タイミングもいいから、行こうかなと。で、もしよかったら、と思ってはなさんをお誘いしました」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
顔を見合わせて笑い合い、ぼくは腕時計を見る。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
+++
到着してみれば、結構な人がいる。
「やっぱ、イベントごとは強いね、おっと・・・・・・」
押されてたたらを踏むぼくを、はなさんが手を引っ張って支えてくれる。
「はぐれないようにしてください? 面倒ですから」
「そうだね。入り口に戻ってくればいいとは思うけど、はぐれたら面倒だね」
手をつなぎながら、はなさんと二人で物産展を見て回る。
「・・・・・・北海道産。のぼりが立ってるだけでおいしそう」
「バターの焼けるにおいがします」
「匂いだけでも強烈だね。ソース系の匂いもするし」
屋台が結構出ていて、その匂いが強烈だ。
「おなかすいてくるなあ」
「昼前ですからなおさらですね」
「今日はここでお昼にしようと思ってたけど、時間間違えた感じ」
「お昼時にここはきついかもしれませんね」
むう、と唸りながら、人の流れに乗って進む。
「・・・・・・とりあえず、何か食べたい」
「・・・・・・手分けしますか」
「なんか美味しそうなのを適当に買って、入り口付近に、三十分後に」
「了解です」
つないでいた手を放すと、ほんとうすぐに離れていってしまう。
「むう」
しょうがないな、と思いながら、ぼくははなさんから離れて、屋台を歩いていく。
幸い、客の回転は早く、いくらかの商品を買って、ぼくは入り口付近まで戻った。
「はなさんは。どこですか、っと」
少し高いところに立って、背伸びをして見回す。
「いない?」
「こっちです。サン」
声をかけられた、袖を引かれる。
「はなさん」
「ちょっと、外に出ましょう。外にもベンチとか用意してありましたし」
「オッケー」
二人、デパートの外へで、空いていたペンチに座る。
「人、多いですねえ」
「うん。半分くらいまでしか進めてない」
「食べたら、また行きましょう? サンが言っていたコラボって、結構奥の方でやっているみたいですし」
「そうだね」
買ってきたものを取り出す。
「肉巻きおにぎり。温泉卵。ホタテのバター焼き」
「お好み焼き。肉串。ホットコーヒー」
二人で買ってきたものを間に並べる。
きちんと二人分あるものもあれば、一つしかないものもある。
とはいえ、分け合って食べる分には困らない。
「・・・・・・おいしいね」
「ええ。出てきた甲斐はありましたね」
大した違いがあるとは思わないけれど、それでも美味しく感じるから不思議だ。
しばらくはなさんと二人、買ってきたものを食べている。
「甘いものも買ってくればよかったかな?」
「食べ終わって、ゆっくり回りながら考えましょう? たくさんは食べられないですし」
「そうだね。結構たくさん売ってたし」
プリン。チーズケーキ。ロールケーキ。スフレ。シフォンケーキ。ドーナツ。たい焼き、そのほか。
「ふう・・・・・・」
程よく温くなったコーヒーをすすり、一息吐く。
「・・・・・・なんかもういいかな」
「こら」
ぼそっと呟いたら、はなさんに叩かれた。
「初志貫徹しなさい」
「いや、別にコラボの方はそこまで熱意なかったし。おいしいものでおなか膨れたし、もういいかなって」
「デザートが残ってます」
「おっとそうだった!」
立ち上がる。
近くのゴミ箱に容器類を捨てて、ちょっと考える。
「・・・・・・はなさん」
「はい?」
「とりあえず、コラボのやつ見に行ったら、なんかケーキかなんか買ってさ。ぼくの部屋で食べない?」
「サンの部屋?」
「いや、ここでデザートは落ち着かない」
「なるほど」
はなさんも頷いてくれた。
「じゃあ、今度こそ行こうか」
「ええ」
「ちなみに、何が食べたい?」
「・・・・・・今の気分は、チーズケーキで」
「了解」
ホールのチーズケーキを買って、ぼくの部屋でイベント限定配布の冊子と、原作本を読みながら、はなさんとお茶をして、その日は終わった。
100話目だけど、記念も何もない。
こういう話だけど。
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