ナンパ客の末路
「ねえ君すごい可愛いね。もしかして今一人?なんならさ、俺たちと一緒にちょっとそのへんで遊ばない?あ、勿論お代は俺達がおごるからさ」
他にも客がいるにもかかわらず、堂々とナンパをする男たち。というかいつのまにあんな男達がいたんだよ。全然気付かなかったぞ。
「あいにく今私はパフェを待っているんだ。だから君たちの誘いを受けることはできない」
そう言って東雲は断るが、男達は案の定食い下がってきた。
「なら君がパフェを食べ終わってからでもいいよ。だから少しだけ遊ぼうぜ」
「いや、食べたら私はすぐ帰るから」
「なら俺達が送っていくよ!それならいいでしょ?」
「いや、だから・・・」
食い下がってくる男達に少しずつイライラし始める東雲。あー・・これはあの3人組終わったな。
木島が、ナンパされている東雲に気づく。
「あれもしかしてナンパ?だとしたら止めないと_!!」
「待て待て」
言いに行こうとする木島の腕を掴んで引き止める。
「ちょ、ちょっと!!何勝手に汚い手で私の手を掴んでるのよ!」
汚いって失礼だな。少し傷ついたぞ。
「放しなさい!あの子を助けないと・・・」
「その心配はない。というかむしろあっちに行くと巻き添えを喰らうかもしれないぞ」
「は?あんた何を言って__」
その時、ガラスが割れた音が聞こえたかと思うと、一人の男が外に吹っ飛ばされていった。その音に、客どころか、スタッフ全員が注目した。
「しつこいと言っているだろう!ったく・・」
東雲は手をはらうと、倒れている男のもとへ向かっていく。そしてそのまま胸倉を掴んで持ち上げた。
「私はしつこい男が嫌いなんだ。特にお前のような対した実力もないくせに無駄なことばかりしているような輩がな。次私の目の前に姿を見せたら殺すぞ?」
そう言って東雲が思い切り殺気を込めて睨みつけると、男は泡を吹いて気絶してしまった。それを見届けたあと、今度は残りの二人の元へと行く。
「さあ次は誰だ?お前か?」
「ひぃっ!!」
男達は完全に腰を抜かしたようで、立てないようだった。そしてそのまま、後ろに後ずさる。
「これでもまだ私と遊びたいか?私はいつでもいいぞ」
東雲が笑顔でそう言うと、男達は悲鳴をあげながら店から去っていった。
根性のない奴め・・と言ったあと、東雲は他の客たちに頭を下げる。
「驚かせて済まなかった。ちょっとナンパされてうざかったのでつい投げ飛ばしてしまった。窓ガラスを割ったことについては本当に申し訳ないと思っている。お代はちゃんと払__」
「え、ちょっとちょっとこれ何事!?」
その時初めて店長が現場にやってきた。店長は粉々に割れているお店の窓ガラスと、泡を吹いて気絶している男を見て、何かを理解したかのように手を打った。
「なるほど、修羅場だね」
「は?ちが_」
東雲が否定するが、店長は一人で勝手に納得するとこう言った。
「もーいくら彼氏が浮気したからって女の子が店の中でぶっ飛ばしたらダメでしょ。後片付けが面倒だし・・」
え?気にするとこそこなのか。もっと大騒ぎになるかと思ったのだが、店長のその声のおかげで緊張気味だった空気も緩和され、元の店内へと戻っていった。
店長は先輩たちに掃除するように言うと、東雲の元へとやっていく。
「ほら、君も早く手伝ってね。もう弁償とかはいいから。どうせナンパでもされてイラついたんでしょ?」
「いや、しかし・・」
いいからいいから、と言って店長は再び厨房へと戻っていった。
って、知ってたのならなんで適当に言い換えたんだよ!
そこで俺はずっと木島の腕を握りっぱなしなことに気づく。俺は慌てて腕を離すと木島に謝った。
色々と罵倒されることを覚悟していたが、、木島の言葉は意外なものだった。
「もういいわ。確かに私が行っていたら巻き込まれていたかもしれないし・・」
そしてそのまま掃除を手伝いに行ってしまった。俺は、店内に残っている客たちにそれぞれ謝ったあと、東雲のもとへと向かう。そしてそのまま小声で耳打ちをしてこういった。
「流石にやりすぎだぞ。先輩たちが怖がったらどうするんだ」
「私も最初は相手にしていなかったのだが、しつこいものだから段々苛立ってしまってな・・。それに空腹ということもあってつい手が出てしまった」
「はぁ・・・店長に感謝したほうがいいぞ。ああやって丸く収めてくれたんだから」
店長は普段はあまり仕事に対して意欲のないだらしがない人間だと思っていたが、ここぞというときの行動は素早い。いつもああだったらいいのに。
「確かにそうだが、あの理由はない。なぜ私がこんな輩の彼氏なんだ・・・。死んでも嫌だぞ」
そう言っていまだに床でのびている男の頭を少し蹴る東雲。
「こらこら蹴るんじゃない。俺は今からこいつを運んでいくから、ちゃんと掃除するんだぞ」
「言われなくともそのつもりだ」
本当にわかっているのか・・?まあいい。
俺は男をひょいっと担ぐと、そのままスタッフルームへと運んでいく。
長ベンチに横たわらせると、俺は男の頬を何度かはたいた。
「おい、起きているんだろう。バレバレだぞ」
「・・・ちっ、バレていたか」
どうやら男は気絶したあとすぐに意識を取り戻したらしいのだが、恥ずかしくて立てなかったのでそのまま気絶の振りをしていたという。どちらにせよ恥ずかしいことだけどな。
「まあ相手が悪かったな。というかナンパするのは勝手だが、店の中でやるな店の中で」
「・・・俺だってあんなやつだと知ってたらナンパなんてしなかったし!なんだよ、見た目は小さくて可愛げな感じしてあんな暴君とか世の中理不尽すぎだろ」
俺と全く同じことを言っているし。嫌だなー俺こいつと同じこと思っていたのか。
「とにかく、次店の中でこんなことしたら出入り禁止だから。ブラックリスト乗るから覚悟しろよ」
「あーはいはいわぁーったよ。言われなくともこないっての」
そう言うと男は立ち上がった。しかし、俺を凝視するとこう言った。
「つーか俺どこかでお前見たことあるかもしれね」
「俺はお前みたいなナンパ野郎は存じ上げないけどな」
「ちっ、ぶん殴ってやろうか?」
「やめとけやめとけ。お前じゃ話にならん」
俺が馬鹿にするように無理無理と手を振ると、男は自尊心を傷つけられたのか、怒り始めた。
「はぁ?お前俺のこと舐めてるだろ。ちょっと面かせや!!」
そのまま右ストレートが飛んできたのを俺は受け止めると、握り返してやった。
「いてててて!!」
「今ちょっと俺は機嫌が悪いんだ。あまり゛ゴミ゛の処理を増やさないでもらえると助かる」
「てめ、誰がゴミって_」
さらに強く握り返す。
「イイッ!?痛い痛い痛い!!」
「わかったか?」
こくこくと何度も頷く男を見た俺は、男の手を開放してやる。
「クソッ!覚えてろよ!!」
雑魚が言いそうな捨て台詞を吐いて、男はそのまま裏口から逃げていった。追いかけてもよかったのだが、もう家に帰る時間なのでやめることにした。そこへ木島と先輩がやってくる。
「あれ?さっきの男は?」
「目を覚ました途端逃げた」
「はあ!?どうして拘束しておかないのよ!」
怒り始めた木島に、俺は別に犯罪を犯したわけじゃないだろうと説明したのだが聞いちゃくれなかった。
そのまま俺は何故か木島に説教をくらったのだった・・。途中から面倒くさくなって家に逃げ帰ったのは言うまでもない。




