予期せぬ来客
猛ダッシュでバイト先に着くや否や、俺は先輩たちに頭を下げた。
先輩は大丈夫と言ってくれたが、木島からはかなり言われた・・・。
「シフトの時間も守れないなんてどういう教育を受けていたのかしら。親の顔が知りたいくらいよ」
まあ親はいないんだけどな。そんなことを言っても空気が悪くなるだけだろうから黙るけど。
「ごめん。今回は完全に俺の落ち度だ」
「もういいのよ神崎くん。誰だって遅刻する時ぐらいあるもの。そんなに気にすることないわ」
先輩がそう言ってくれるのが気に入らなかったのか、木島が更に突っかかってきた。
「ゆみ先輩。こんな奴に情けをかける必要なんかないです。今すぐ罰しましょう」
「もう、そんなこと言わないの」
先輩が木島をたしなめる。俺は再び頭を下げると、着替えることにした。
更衣室にはいると、店長がいた。俺に気づくなり、手を振ってくる。
「おお神崎くん。君も遅刻かい?」
「え、店長もですか?」
「ああ。また急にイベントが入っちゃったから徹夜しすぎたんだよなぁ・・・。寝るときにはとっくに日が昇っていてびっくりしたよ」
「そんなのでよく生活していけますね」
「勿論さ。俺は家と飯とオンラインゲームさえあれば生きていけるからな~。女も子供もいらん」
何故か得意げに胸を貼る店長。そういうのを人はニートって言うんだけどな。でもまあ、ちゃんと仕事しているならいいか。
着替えた後、店長と共に更衣室をでる。先輩たちは既にそれぞれの仕事に就いていた。
俺はホールに回り、接客をこなしていく。既に人は満杯で、なかなかきつかったが、なんとか耐える。
やがて人が止んでくると、騒がしかった店内も少しずつ静けさを取り戻していく。ずっと動きっぱなしで疲れていた俺は休憩の時間を貰ってスタッフルームへと入っていく。
部屋内には有栖川先輩と木島がいた。
「ふぅ・・」
今日もひたすら動き回ったせいで足が棒になっていた。こりゃもしかしたら明日大変かもしれないな・・・。
「お疲れ様神崎くん」
「あ、先輩。ありがとうございます」
先輩に労いの言葉をかけられ、少し嬉しくなる。
「ちっ、要らないのが来た」
「おい、聞こえてるぞ」
先輩とは対照的に、俺をまるで邪魔者のような視線で睨んでくる木島。
木島は先輩の腕にぴったりとくっついていた。先輩はすこし困っている感じだったが、まあいつものことなので俺は特に気にすることなく椅子に腰掛ける。
「今日も人多かったねー」
「そうですね。最近なんでこんなに混雑してきているんでしょうか」
普段なら、祝日はともかく平日はそんなに人は入らないはずなんだけど・・。でもまあ良い傾向なのでいいか。店長も嬉しそうだったし。これで儲けたら今月はいつもより多めに課金できんじゃん!!とか言ってたことは気にしないことにしよう。
「ゆみ先輩みたいな素晴らしい人がいるお店なんだから、繁盛して当然じゃない」
「私はあまり関係ないと思うんだけど・・」
「そんなことないです。ゆみ先輩目当てにここに来る人も多いんですから。
・・・まあ全員私が始末しましたけど」
「え?」
先輩には聞こえていなかったようだが、地獄耳をしていた俺にははっきりと始末という単語が聞こえた。冗談だと信じたいところだ。
「あ~あ。世の中から男が全員いなくなればいいのに」
突然そんなことを言い出す木島。ここに一人男がいるんだが。
そんなことお構いなしに木島はこういった。
「なんでこの世界に性別とかいう概念ができたのよ…。そんなのいらないのに」
「いや、いるだろ。そうじゃないと人類滅びるから」
思わず突っ込んでしまったが、杵島はそれを無視し、先輩から離れると、立ち上がった。
「ん?どこ行くんだ」
「あなたには関係ないでしょ」
そういって部屋から出て行ってしまった。先輩と苦笑すると、俺も立ち上がる。
まだ足の疲れがぜんぜん取れていないが、あまり休憩ばかりして入られない。
「じゃあ戻りましょうか」
先輩とともに再びホールへと戻る。
その後、俺は黙々と仕事をこなしていく。
「いらっしゃいませ」
次の客が来たので、俺は出迎える。
「ほう、まさか本当に働いていたとは」
「東雲…」
「何だその嫌そうな顔は。私は客だ。店員が客にそんな態度をとっていていいのか~?
せっかく食べに着てあげたのに」
にやにやしながら見てくる東雲。
「ぐっ…。席へとご案内いたします」
東雲を席へと案内した後、俺は逃げるようにして去っていく。
なんで東雲が来ているんだよ…。そこで俺は急いでいたあまり東雲にバイト先を言ってしまったことを思い出す。くそ、俺としたことが失態を…。東雲がへんなことしないように見張っておかないと。
「あ、えっと東雲さん…よね?」
先輩が東雲に気づき、話しかける。東雲は驚いていたが、すぐに何かを納得したらしい。
「生徒会長もこちらに働いていたんですね」
「ええ」
そこへ、木島もやってきた。
「ゆみ先輩。この人は?」
「神崎くんと一緒に部活を始めた子よ。東雲さんって言うの」
先輩がそういうと木島がちらっと俺を見た後、東雲に向き直る。
「東雲…って、もしかして転校生?」
木島の問いに東雲がうなずく。
「ああそうだ。君は?」
「私は木島 沙羅よ。あなたと同じ学年で同じ学校にいるわ」
「おおそうなのか。宜しく頼む」
木島と東雲が握手をする。女性が相手だと木島も普通に話してくれるようだ。
東雲が実は不良なんだぞって言ったらどうなるのだろうか。
そうして俺が思案にふけっていると、東雲が声をかけてきた
「ところで神埼裕人。お前はどうしてそんな所にいるんだ。もっと近くにきたらいいじゃないか」
「あいにく今はバイト中だ。注文で呼ばれない限りは普通は行ったらいけないんだぞ」
「そうか。なら注文をするからこっちにこい」
いや、目の前に先輩と木島がいるんだからどっちかに言えばいいだろと思ったが、俺は渋々ながら東雲の元へと向かう。
「じゃあご注文をおうかがいいた_」
「このジャンボチョコレートパフェとか言うのを3つだ」
「は?」
1個2000円するパフェを3つ…?
「聞こえなかったのか?このジャンボチョコ__」
「いやいや、聞こえていたけど。本気で言っているのか?」
冗談だろうと思ったが、東雲は本気なようで、
「当たり前だ」
「後悔しても知らないからな」
先輩と木島もこれには驚きを隠せないようで、すぐに準備に取り掛かった。
ジャンボチョコパフェは標準サイズの5倍という大きさのパフェなので、大体みんなで分け合って食べる人がほとんどなのだが、一人で3つはどう考えてもおかしい。それに夕食にパフェっていうのもなー・・・。
東雲はパフェが楽しみなのか微笑を浮かべていた。こうして見ている分には普通に美少女としか思えないが不良だというのだから世の中は理不尽だ。
時刻を見ると、バイトをあがるまであともう少しというところだった。
まあ東雲のパフェが出来上がるころには帰れそうだな…と思っていると、東雲の席に3人組の男がやってくる。少し悪そうな感じの輩だった_。




