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第22話:侵入者たち、そして金(かね)の平手打ち

安物のアンモニアの臭いが、まるで塹壕の毒ガスのように室内に立ち込めていた。トイレの個室はあまりにも狭く、拓真は脇を固く締め、決して乾くことのない黄ばんだタイルの床に膝をつきながら、便器の陶器を磨き続けなければならなかった。蛇口から出る氷のような水で指先の感覚はとうに麻痺していたが、彼は狂ったような執念でブラシを動かし続けた。便器を輝かせさえすれば、隣の部屋に残るロード・ケザールの痕跡を消し去ることができるとでも信じ込むように。


エイミーは合板のテーブルの前に腰掛け、脚を組んで、火のついていないタバコを唇に挟んでいた。もうほとんどガスの残っていないライターを無駄に消耗したくなかったのだ。朝の8時の灰色の光を浴びたシルバーのスパンコールのトップは、もはや鎧には見えなかった。それは、水から揚げられて久しい魚の鱗のように、生気を失って見えた。


その時、4階の廊下が軋んだ。

それは、寒さによる建物のきしみといった生易しいものではなかった。外のコンクリートの踊り場を叩く、ブランド物のピンヒールが奏でる規則正しく、鋭く、容赦のない足音。それも、3組の異なる靴の音だった。


拓真は便器の中のブラシを止めた。ピンク色のゴム手袋から汚れた水を滴らせたまま、完全に凝固した。


エイミーはゆっくりとテーブルから立ち上がった。鍵をかけに走りもしなかった。そんなことをしても無駄だと分かっていたからだ。彼女がドアへと一歩近づいた瞬間、合板のドアが乾いた爆音とともに吹き飛んだ。蹴りを入れたのはティファニーではなくステイシーだった。エナメルの赤いアンクルブーツを高く振り上げ、4階分の階段を駆け上がってきた荒い息を吐きながら、彼女が先頭を切って踏み込んできた。


ステイシー:――左手にフレーバー付きの電子タバコを握りしめ、血走った目で――「言っただろ、ティフ! この階段のクソみたいな油の臭いは、安物の売女の肥溜めから漂ってきてるに決まってるってさ!」


彼女の後ろからティファニーが入ってきた。髪の毛一本乱れておらず、汗ひとつかいていない。ヒョウ柄のドレスはまるで第二の皮膚のように彼女の完璧な肢体に張り付いており、グッチのサングラスがその瞳を覆っていた。彼女はゆっくりとした動作でサングラスを外すと、肉体的な嫌悪感を露わにした冷ややかな瞳で穴蔵のような室内を一瞥した。最後尾はジェニファーだった。彼女はまたしても裸足で、階段の汚れをそのまま足の裏につけ、近所の地蔵かどこかから盗んできたに違いない、萎びた白いユリの花束を抱えていた。


ティファニー:――エルメスのシルクスカーフで鼻を覆いながら――「おやおや……人間って本当にこんな場所に住めるの? それとも労働者階級向けの感覚遮断実験か何かなの?」

――彼女は部屋の真ん中で毅然と立つエイミーに視線を突き刺した――

「そこをどきなさい、安物。私たちの所有物モノを引き取りに来たのよ」


エイミー:――胸の前で腕を組み、一ミリも動かずに――「そのドア、敷金から1万円引かれるんだけど。その汚水バケツであんたらの前歯を叩き折る前に、きっちり弁償してもらうよ」


ステイシー:――ヒステリックな高笑いを上げ、青い煙の雲を吐き出しながら一歩踏み出し――「弁償? ハッ! あんた、自分が誰に口を利いてるか分かってんの、この一文無しが? あんたごとこのビルを丸ごと買い取って、更地にして自転車置き場にしてやってもいいんだよ!」


ジェニファーは、古い畳の上ではなく、まるで雲の上を歩いているかのような浮遊感のある足取りでステイシーの脇をすり抜けた。そして、浴室の入り口の境界線でピタリと足を止め、中を覗き込んだ。


拓真はそこにいた。便器と全自動洗濯機の隙間に身を縮め、プラスチックのブラシを手に持ち、アンモニアで曇ったメガネの奥で目を見開いていた。その姿は、デザイナーズブランドをまとった3匹のコブラに追い詰められたネズミそのものだった。


ジェニファー:――恍惚とした笑みを浮かべ、虚ろな瞳を彼に固定したまま――「ああ、私のタク……見て。人間性の堕落の極みである便所を掃除しているわ。ヒーローが、石灰の奴隷に成り下がるなんて」

――彼女は青いプラスチックのバケツの中に、萎びたユリをポトリと落とした――

「その零落した姿も素敵だけど、あなたの詩は私のものよ。お家に帰りましょう」


ティファニー:――エイミーには目もくれず、トイレに向かって歩みを進めながら――「拓真、立ちなさい。そんなプラスチックのゴミは捨てて、歩くのよ。下にエンジンをかけたままリムジンを待たせてあるの。こんなうらぶれた路地裏でこれ以上駐車違反の切符を切られるのは御免だわ」


拓真は動かなかった。プラスチックのブラシが指先から滑り落ち、汚水の中に静かな水音を立てて落ちた。洗濯機と便器の間に挟まれた彼の身体は、まるで石に化してしまったかのようだった。


彼はティファニーを見なかった。狂信的な笑みを浮かべるジェニファーも見ず、獲物の血の匂いを嗅ぎつけようとしているステイシーも見なかった。


エイミー:――ティファニーがトイレに入る前に、その行く手を遮るように立ちはだかり――「ダメ。こいつはあんたたちには渡さない」


彼女の声は、本人が望むよりも高く、か細く響いた。しかし、そこには確かな意志があった。


ティファニー:――まるで、自分の超高級な靴の上を這うゴキブリに初めて気づいたかのように、ゆっくりとエイミーの方を向き――「……今、なんて言ったの?」


ティファニーはエレガントな動作でエナメルのヒールを脱ぎ捨て、まるで汚染物質であるかのように床へと放り出した。完璧に手入れされ、血のような赤に塗られた爪を持つ彼女の裸足が、埃っぽい畳を踏みしめる。


彼女は焦ることなくエイミーへと近づいた。急ぐ必要などなかった。彼女の存在感そのものが、静かな嵐のように部屋を満たしていたからだ。


エイミーは退かなかった。ティファニーがまとう超高級香水の濃厚なフローラルの香りに圧倒されそうになりながらも、彼女は微動だにせず、目の前の完璧な肉体が発する人工的な熱量を感じていた。


ティファニーは、エイミーからわずか数センチの距離で足を止めた。完璧に施されたパウダーファンデーションとリキッドダイヤモンドの輪郭コントゥアリングに彩られたその顔には、怒りも軽蔑もなかった。ただ、絶対的な「虚無」があった。まるで、格式高いディナーの最中に自分の膝の上に落ちてきた羽虫を見るかのような、そんな冷徹な眼差しだった。


ティファニーは何も言わず、爪を長く鋭く尖らせた右手を持ち上げ、その人差し指をエイミーの胸の真ん中に添えた。そして、シルバーのスパンコール越しに、ゆっくりと押し込んだ。


エイミーは、その指先が外科手術のような精密さで自分の胸骨を圧迫していくのを感じた。それは強い衝撃ではなかった。だからこそ、余計に恐ろしかった。こちらの抵抗力を推し量るための、冷徹に計算された力加減だった。


ティファニー:――囁くような、親密ささえ感じさせる声で――「いいこと、雇われ店員さん……。酔っ払いの怒鳴り声に耐えて5万円もらうだけの生活で、自分が勇敢にでもなったつもり? でもね、あんたは本当の『力』というものを知らないのよ。あんたにとっての現実は、掃除して、働いて、生き延びることでしょうけど」

――彼女はクロコダイルのハンドバッグに手を入れ、刷りたてのインクの匂いが漂う、真新しい1万円札の束を取り出した――

「これが、現実よ」


閃光のような速度で、ティファニーの手がエイミーの顔を横ざまに払った。札束の平手打ちだった。


肉体的な衝撃こそそれほど強くはなかったが、高級な紙幣がエイミーの頬を叩いたその乾いた「パチン」という破裂音は、鉄のビンタのように静まり返った部屋に響き渡った。札束は一部がバラけ、3、4枚の紙幣がひらひらと宙を舞い、エイミーの破れたブーツのすぐ脇の、湿った畳の上に落ちた。


ティファニー:「この豚小屋の3ヶ月分の家賃よ。それとドアの代金。ついでにあんたの尊厳の代金もね。四条の安宿を這い回るような女に、そんなものが残っていればの話だけど」

――彼女はエイミーに顔を寄せた。シャネルの5番の香りが、室内のアンモニア臭を完全に圧殺する――

「あんたはヒロインなんかじゃないのよ、エイミー。祇園での一晩のディナー代で買い叩ける、ただの小汚い障害物に過ぎないの」

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