第21話:現実主義者の絶叫、あるいはプラスチックの檻
拓真は震える手を青い毛布へと伸ばしたが、それを被る勇気は出なかった。ここで冷気から身を隠してしまえば、彼女の存在からも逃げてしまうような気がしたのだ。そして、エイミーの頑なな背中を見つめることだけが、自分が地下鉄のトンネルの真ん中で完全に狂ってしまったわけではないと証明してくれる、唯一の現実だった。
拓真:――消え入りそうな声で、涙が頬の埃を拭って2本の灰色の筋を作りながら――「エイミー……君には何もあってほしくなかったんだ。本当に。ここなら……ここなら彼女たちも来られないと思ったんだ。ここは、普通の場所だからって」
エイミー:――乾いた高笑いを漏らし、それが最後はハスキーな咳へと変わりながら、ゆっくりと振り返って流し台に背中を預けた――「普通の場所? ここが?」
――彼女は両腕を広げ、打ちっぱなしのコンクリート壁、山積みの服、そして灰色のブラウン管テレビを指し示した――
「ここはね、週払いで家賃を払うようなドブネズミたちの穴蔵だよ、大馬鹿野郎。ここにいる連中はね、生きるために来てるんじゃないの。借金取りや、ストーカーになった元カレから身を隠すために来てるんだよ。それなのに、あんたはサーカス団の団長(元締め)を連れてきやがった」
彼女は重い足取りで彼に近づいた。左の厚底ブーツが、かかとの破れた縫い目のせいでギシギシと不快な音を立てる。地下鉄のホームで見せていた冷笑的な優位性はもうどこにも残っていなかった。そこにいたのは、包丁一本だけを持ってレーザー銃の戦争に放り込まれたことに気づいた、ただの疲れ果てた少女だった。
エイミー:――彼の前にしゃがみ込み、無理やり目を合わせにいかせる。洗い流された顔の灰色のクマは、窓からの汚れた光の下でまるでブラックホールのように暗く沈んでいた――「私を見なよ、拓真。よく見な。これが見える? 22年分のクソみたいな人生が積み重なった顔だよ。母親と一緒に秋田の田舎でキャベツを収穫する生活に戻りたくないがために、ジジイどもに5万円で髪の匂いを嗅がれるのだって耐えてきた。あんたなら触ることもビビるような、他人の体液がついたシーツだって掃除してきた。私はね、透明人間だから生き延びてこられたんだよ。四条のH&Mの雇われ店員に何が起きようが、どこの誰一人として知ったこっちゃないからね」
彼女は人差し指で、拓真の心臓の真上をドンと強く突き刺し、彼を後ろへ一ミリ後退させた。
エイミー「だけどあんたの神様は……あのゴールドのカフスボタンをつけたクソ貴族は、私を見た。私の顔を認識した。まるで暗記してるお笑いのネタみたいに、私の名前を呼びやがった。それもこれも全部、あんたが本物の人間になる努力を放棄して、自分のご機嫌を取ってくれる3人の彼女とママゴト遊びをしたかったからだろ」
拓真:――今度は本気で涙を流し、両手で顔を覆いながら、ヒステリックなリズムで肩を激しく上下させて――「ごめん……! ごめん、エイミー……! 出ていく……今すぐ出ていくから。リュックを持って、路地裏に出るよ。二度と戻らない、君をこんなことに巻き込まないから……」
エイミー:――猛烈な怒りを込めて拓真のパーカーの襟首を掴み、互いの顔を至近距離まで引き寄せた。拓真の鼻腔に、彼女の唇から漂う柑橘系の消毒液の臭いが突き刺さる――「どこにも行かせねえよ、この役立たずが! あんたが今そこへ一歩でも出たら、あの3匹のハイエナどもに最初の角で仕留められるに決まってるだろ。そうなったら、ケザールは私の存在を知ってるんだから、口封じのためにここへ戻ってくるんだよ。あんた、ここが主人公が旅立って、サブヒロインが家で留守番しながらご飯を作って次の話を待っててくれるアニメの世界だとでも思ってんの? あんたが今消えたら、その死体を押し付けられるのは私なんだよ!」
彼女は手をパッと離し、拓真を湿った畳の上へ仰向けにひっくり返した。エイミーは立ち上がり、まるで電車の進行方向とは逆に全力疾走したかのように激しく肩で息をした。彼女は残っていたマスカラを引きずるように両手で目をこすり、その顔をまるで戦場マップのようにめちゃくちゃに汚した。
彼女は部屋の隅へ向かうと、青いプラスチック製のバケツを掴み、部屋の真ん中へと投げ捨てた。金属製の取っ手が床に激突し、畳の隙間に埋もれていた1970年代の埃を舞い上がらせるような爆音を轟かせた。
エイミー:――硬直した人差し指でトイレを指差しながら、近隣住民が警察を呼ぶレベルの絶叫を必死で堪えるような、引き裂かれた声で――「そのクソバケツを持ちな。冷水をなみなみと注いで、便器の陶器の表面に自分のクマが鏡みたいに映るまで、ひたすら磨き上げなよ。磨きながら、あのヒョウ柄のアマが今朝の烏丸線の時刻表を調べ始めないように、神様にでも祈ってるんだね」
拓真は一言も返さなかった。彼は床を這い、震える手でバケツの金属製の取っ手を掴むと、まるで死に場所を探す手負いの獣のように、狭いトイレの個室へと逃げ込んだ。
エイミーは穴蔵の真ん中で一人きりになった。彼女は、先ほどまでケザールが腰掛けていた安物のプラスチックの椅子を見つめた。そこにはまだ、肉眼では捉えきれないほどの僅かな、数日経たなければ溶けないような透明な霜の線が残っていた。彼女はコートのポケットに手を入れ、クシャクシャになったタバコの箱を取り出すと、3回不発を繰り返した後にようやく火がついた広告用のライターで、最後の1本に火をつけた。
深く煙を吸い込み、目を閉じ、煙が喉を焼いていくのを感じる。彼女の人生で初めて、四条の穴蔵がシェルター(避難所)ではなく、生きたまま埋められた靴箱のように思えた。
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