第20話:崩壊する偶像、そして魂の代償
エイミーは何も言わずに彼の前に膝をついた。それは決して愛情深い仕草でも、優しい仕草でもなかった。極限のプレッシャーの中で、一つの決断を下した人間の動きだった。彼女は素早く、しかし力強い手つきで拓真の顔を両手で挟み込み、真っ直ぐに見つめた。睡眠不足で腫ぼったい彼の目、昨夜の化粧の残りが滲んだ青白い肌を。
拓真は、ここ数ヶ月で誰もしてくれなかったその直接的な接触に身体をビクつかせ、曇ったメガネの奥で目を丸くした。
エイミー:――低い、しかし切迫した声で早口に――「拓真……よく聞きな。あんたのあの彼女たちなんかよりも、もっと、もっと危険な『誰か』か『何か』がいる」
彼女は鍵の閉まった玄関のドアへと視線を向けた。
エイミー:――単刀直入に――「あいつは誰?」
拓真:――取り乱して――「あいつって!?」
エイミー:――威圧的に――「そうだよ、あいつさ。赤い肌に黒い目、象牙のステッキを持って、あんたたちのことを知り尽くしているあの男だよ」
拓真はあまりにも強くつばを飲み込んだため、穴蔵の重苦しい静寂の中にその音がはっきりと響いた。言葉を発する前に彼の唇が震える。まるで一文字一文字が物理的な重量を持っていて、肺から口元まで動かすのに多大な労力を要するかのように。
拓真:――かすれ、途切れ途切れの声で――「ロード・ケザール……あの方は……この世界じゃ神様みたいな存在なんだ。あの、ギリシャ神話に出てくるような綺麗な神様じゃなくて……」
――彼は乾いた唇を舌で湿らせた――
「どっちかっていうと……ヨーロッパの貴族の皮を被った、悪魔なんだ」
エイミーは、自分の手の中に収まっている拓真の身体が激しく震えるのを感じた。少年は泣いていなかった。泣くことさえ忘れるほど、完全に恐怖に支配されていた。
エイミー:――ようやく手を離し、正座の姿勢に戻りながら――「それがあんたと何の関係があるわけ? なんであいつが私の部屋にまで来て、私を脅すのさ? 私のことなんて知りもしないくせに」
しかし、彼女の脳内ではすでに答えが出かかっていた。
拓真は両膝を抱え込み、まるでその場から消えてしまいたいかのように額を膝の間に埋めた。床の冷気がズボンを通じて這い上がり、骨を麻痺させていくが、内側から溢れ出てくる恐怖に比べればそんなものは大した問題ではなかった。
拓真:――早口の、囁き声で――「あの方が……あの方が、彼女たちのことも、俺のことも、全部決めてるんだ」
――彼は潤んだ瞳をエイミーへと向けた――
「あの3人の女の子たち……ただの元カノなんかじゃないんだ。俺の『ハーレム』なんだよ。ある日突然、ロード・ケザールが彼女たちを俺の人生に配置したんだ……」
それを聞いた瞬間、エイミーの胃の奥に鉛のような質量がズシンと落ちた。
エイミー:――奥歯を噛み締めながら――「……つまり、あんたが自分で、あの男を招き入れたわけね」
拓真:――必死に――「違うんだ! 俺だってこんなの望んでなかった! ケザールが……あの方が俺を見つけたんだ。京都のどこにでもいる貧乏な男みたいに、普通にアニメを見てただけの普通の日に……突然、あの男が目の前に現れた。そして、俺の人生について語り始めたんだ。まるで……俺自身よりも俺のことに詳しいみたいに」
彼は一度言葉を切り、必死に空気を吸い込んだ。
拓真:――今にも消え入りそうなほど声を落として――「俺みたいな人間は滅多にいないって言って……俺に、ある『取引』を持ちかけてきたんだ……」
エイミー:「それを、あんたは受け入れた」
エイミーはそれを疑問形としては口にしなかった。それは裁判の判決文のように、二人の間にコンクリートの墓石のようにのしかかり、毛布に残っていたわずかな柔軟剤の香りを完全に押しつぶした。彼女の声は、もはや部下を叱りつけるH&Mのセクションマネージャーのものではなかった。返せる見込みのない莫大な借金の明細書を、ただ突きつけられただけの少女の声だった。
拓真は彼女を見ようとしなかった。畳の一点を見つめたまま立ち尽くしていた。その場所にある古い湿気のシミは、この穴蔵にあるものは遅かれ早かれすべて腐っていくのだという事実を無情に物語っていた。彼は頷いた。犬が蹴り飛ばされるのを待つ時のような、あまりにも小さく、惨めな首の動きだった。
エイミー:――靴の裏でガラスの破片を踏みつぶしたような笑い声を漏らして――「ハッ……。なんだ、お似合いじゃん。あんたは金持ちの狂ったアマどもから逃げ回る、哀れで怯えた可哀想な男の子なんかじゃなかったわけね。特注品のハーレム欲しさに自分の魂を売り飛ばして、そのお人形さんたちが自分に噛みつき始めた途端にビビって逃げ出した、ただの大馬鹿野郎だったってわけだ」
拓真:――絶望して顔を上げ、彼女のコートの袖を掴もうと手を伸ばしながら――「違うんだ! エイミー、聞いてくれ! あの方は俺に、それぞれの長所と欠点を持った『本物の女の子』を3人用意してくれたんだ! その欠点のせいで、俺が狂いそうになるなんて知らなかったんだよ!」
エイミー:――その手を容赦ない一撃で振り払い、まるで畳が燃え盛っているかのように床から立ち上がりながら――「あんたのクソみたいな設定も、アニメの妄想みたいなドラマも、私には一ミリも関係ねえんだよ、拓真!」
――その叫び声が朝焼けの灰色の静寂を切り裂き、壁の猫の時計の振り子を激しく振動させた――
「あの男が、私のプラスチックの椅子に座ってたんだよ! 私のテーブルに触れたんだ! あんたがここに残るなら、私を犬みたいに『処分』するって言ったんだよ!」
その後に続いた沈黙は、耳をつんざくほどだった。拓真は自分の皮膚の内側に縮こまってしまうのではないかと思うほど、小さく丸くなった。エイミーは台所の小さな流し台へと歩いていったが、両手の震えが止まらず、特売品の手触りの悪いガラスのコップ同士をカチカチと衝突させた。彼女はシンクの縁に寄りかかり、口で息をしながら、自分の22歳という年齢の質量を、まるで80歳であるかのように重く感じていた。
エイミーはステンレス製のシンクの底を見つめていた。錆びついた蛇口からは、3滴の濁った水滴が、今にも落ちそうで落ちないままぶら下がっている。スパンコールのトップが鉛の帷子のように両肩に重くのしかかり、ケザールが残していったあの透き通った冷気が、未だに彼女の爪の奥にこびりついていた。コートのフェイクムートンに何度手をこすりつけても、その冷たさは消えなかった。
エイミー:――振り返ることもせず、バッテリーの切れた機械の電子音のような、消え入りそうで平坦な声で――「私はさ……あんたのことを本当の負け組だと思ってたんだよ、タク。本当のね。世界が広すぎて、自分がちっぽけだから、見ていて可哀想になるタイプの人間。誰かの魂で買い叩いた銀の食器でキャビアを食べる生活の合間の休憩なんかじゃなくて、ただ単にそれ以上のものを買うお金がないから、あの安物のポテトサラダを買うような人間だと思ってたんだよ」
拓真は震える手を青い毛布へと伸ばしたが、それを被る勇気は出なかった。ここで冷気から身を隠してしまえば、彼女の存在からも逃げてしまうような気がしたのだ。そして、エイミーの頑なな背中を見つめることだけが、自分が地下鉄のトンネルの真ん中で完全に狂ってしまったわけではないと証明してくれる、唯一の現実だった。
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