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第2話:理想のハッピーモーニング……のはずだった

ティファニー:「で? いつまでそうしてる気? 招待状でも届くのを待ってるわけ?」


鋭い声が、ベッドの上の拓真を射抜く。


ステイシー:「ちょっと、いじめてあげないでよ……。起きたばかりなんだから……。それに……」


ステイシーは可愛らしくあくびを噛み締めながら、眠たげに目をこすった。そして、甘く微笑む。


ステイシー:「昨日の夜のせいで、身体が痛むのかもしれないし」


彼女は身体を前に傾け、拓真の胸にそっと両手を置いた。その空気を震わせるほどの優しさで、彼女の唇が拓真の唇をかすめる。


ジェニファー:「あなたには二人の天使がいる……。でも、私があなたの一番お気に入りの『罪』よ」


ジェニファーが低く、魅惑的な声で耳元に囁く。

三人の視線が拓真に集中した。彼女たちは、彼の荒い息遣いや動揺以上の「何か」を期待しているようだった。


拓真:「こ、こんなの現実のはずがない……。俺、俺なんかには、もったいな……」


その言葉は最後まで続かなかった。ジェニファーが物憂げながらも確信に満ちた笑みを浮かべ、彼の唇を塞いだのだ。

まるで生まれたときから彼を知っているかのような、強引で貪欲な、ダークバニラと禁断の約束の味がするキス。拓真の言葉は完全に呑み込まれた。


ティファニー:「当然よ、あんたに相応しいわけがないわ。ここに互いに見合う人間なんて一人もいないもの」


ティファニーは猫のようなしなやかさでベッドから立ち上がり、呆れたように目を丸くした。


ティファニー:「でも、だからこそ面白いのよね」


ステイシー:「しーっ……。誰もあなたを傷つけたりしないわよ」


ステイシーは拓真の震える腕をそっと撫でた。彼女の緑色の瞳に、まるで春が訪れたかのような笑みが浮かぶ。


ステイシー:「あなたが、それを望まない限りはね」


ジェニファーがほんの数ミリだけ唇を離し、拓真に呼吸を許す……。しかしそれは、彼に再び彼女を渇望させるのに十分な距離だった。


ジェニファー:「私たちは知っているのよ、石の上の苔さん……。孤独で、暗くて、忘れ去られた存在。だからこそ、私たちはあなたを選んだの」


ティファニー:「あと、あんた料理ができるんでしょ。さっさと起きなさい、朝食の時間よ」


炊き立てのご飯と出汁の香りは、本来なら理想的な朝の完璧な演出になるはずだった。

肋骨の奥で心臓を激しく打ち鳴らしながら、拓真は今までにない手際の良さで狭いキッチンを動き回っていた。まるで、ついに隠しエンドを解放したギャルゲーの主人公になった気分だった。


しかし、その妄想の絹糸は、沈黙が「現実の音」に取って代わられた瞬間に解け始める。


ティファニーが、アパートに唯一ある浴室の鏡の前に立っていた。その鏡は彼女の肩ほどの高さしかなく、彼女は拓真が買った覚えのないヘアアイロンを髪に当てていた。蒸気がシュッと音を立てるたび、彼女は忌々しげに鼻を鳴らす。


ティファニー:「ちょっと、苔。この照明は冗談のつもり? まるで、あんたが寺で拾ってきた死体みたいな顔に見えるんだけど。暖色系の電球はないわけ? それとも、このコンクリートのバンカーには『スキンケア』っていう概念すら届いていないの?」


拓真:「それは……京都の自然光なんだ、ティファニー。とても風情があると評価されていて……」


お茶を注ぎながら必死に笑顔を作ろうとする拓真だったが、テーブルに座って彼のスマホを勝手に操作していたステイシーが、乾いたあざ笑いでそれを遮った。


ステイシー:「気にしなくていいよ、タク。この人、昨日ボトックスを打ちすぎて光が跳ね返ってるだけだから。それより、タク……」


彼女はスマホから目を離さず、横目で拓真を盗み見た。その緑色の瞳には、毒々しいほどの執着が宿っている。


ステイシー:「あんたのスマホにあった『猫耳少女』のフォルダ、全部消しておいたから。もう必要ないでしょ? これからは、あんたが何を好きになればいいか、私が教えてあげる。ぬいぐるみの耳をつけた女なんて、本当は好きじゃないよね?」


拓真の胃に鋭い痛みが走った。

長年かけて収集したデジタルコレクションが、一瞬で消去された。何か言い返そうとしたが、ステイシーの甘さの裏にある刃のような気配が、彼の反論を許さなかった。


そこへ、少し目を充血させ、ハンカチを握りしめたジェニファーが影から姿を現した。


ジェニファー:「二人とも、やめてあげて……。可哀想な拓真を怯えさせないで。見て、震えているわ」


彼女は拓真に近づき、彼の腕に手を置いた。その手は氷のように冷たかった。


ジェニファー:「許してあげてね、この人、本物の女性と付き合ったことがないのよ。だから……自分が小さくて、惨めな存在に感じられているに違いないわ」


ジェニファーは、いたわるような同情を向けた。しかしそれは侮辱よりも深く刺さる、計算された憐れみだった。自分が彼女たちより下の存在であることを思い出させるための。


ティファニー:「聞こえてるわよ、ジェニファー! どこか別の場所で泣き崩れてきなさい、この毒蛇!」


浴室からティファニーの怒鳴り声が響く。

狭い部屋の空気が重く、攻撃的なエネルギーで満たされていく。壁に掛けられた禅の版画の静けさとは、およそかけ離れた空間だった。

拓真はテーブルにお椀を置いた。先ほどまでは美味しそうに見えたご飯が、三人の視線の下で、急に灰色にくすんで見えた。


その時、拓真はあるものを目にした。

床で起動したままのノートパソコンの画面。そこに映っていたのは、散らかった自室の反射ではなかった。

黒い大理石の広間。そしてビロードの玉座に腰掛け、ワイングラスを掲げるロード・ケザール。あの悪魔が、満足げな笑みを浮かべて静かに乾杯を送っていた。


拓真は激しく瞬きをし、必死に冷静さを保とうとした。しかし、三人の少女たちの罵り合いは止まらない。


ステイシー:「ため息をつきながら、再びスマホを弄りだす。――まったく、ジェニファー、その声をどうにかしてきたら? 魔女のつもり? いい歳した大人のくせに。それからティファニー、普通の人間みたいにまともな服を買いなさいよ。何そのジッパーだらけのハギレ。安物のドミナトリクスにしか見えないんだけど」


心臓がバクバクと波打つ中、拓真はなんとかこの場をコントロールしようと試みた。

引きつった笑顔を浮かべ、テーブルにスプーンを置く。そのささやかな行動が、彼女たちの間に渦巻く嵐を静めてくれることを願いながら。


拓真:「あ、あの……ご飯にしない? お米、まだ温かいから……」


しかし、彼が言い終わる前に、ジェニファーがゆっくりと立ち上がった。その眼差しは冷酷で、鋭い。

彼女は、獲物に近づく肉食獣のような優雅で計算された足取りで、ステイシーへと一歩近づいた。


ジェニファー:「愛しいステイシー……。あなたの意見は大好きよ……。あなたの『選択』と同じくらい、反吐が出るけれど」


ジェニファーは悪意を込めて微笑んだ。


ジェニファー:「本当にフォルダを消したの? それを許すなんて、あんたって本当に惨めな男ね」


その時、ティファニーが浴室のドアを激しく叩きつけて出てきた。壁の額縁が小刻みに揺れる。

彼女の金髪は見事にストレートに整えられ、身体の危険な曲線を強調するタイトなコーラルピンクのドレスを身にまとっていた。


ティファニー:「安っぽいドラマなんてどうでもいいわ」


彼女は二人を軽蔑の目で見下ろしながら拓真に近づき、彼の顎を乱暴に掴み上げた。


ティファニー:「私はあんたと、贅沢でエレガントな人生を送るためにここにいるの。こんな安芝居に付き合うためじゃないわ」


ステイシーが怒りに目を燃え上がらせて立ち上がった。スマホが床に激しい音を立てて落ちたが、彼女は一顧だにしなかった。


ステイシー:「ハッ、何がエレガントよ! その概念すら知らないくせに! インプラントを入れることしか脳にない成金女が! 私を見てみなさいよ。少なくとも、脳みその代わりにシリコンが詰まった人形には見えないでしょ!」


ジェニファーは、互いに浴びせ合う罵詈雑言を面白がりながら、低く忍び笑いを漏らした。


ご飯は冷めていった。

誰もそれに気づかなかった。なぜなら、誰もそれを食べていないからだ。


ティファニーは部屋に一脚しかない背もたれ付きの椅子を、まるでオスマントルコの玉座のように占領し、そこからアパート内のあらゆる物品に対して、MTVのセレブ番組の品評家気取りで判決を下していた。

ステイシーは拓真にスマホを返したが、写真フォルダは見事に再編成されていた。現在の壁紙は、彼が撮った覚えのない彼女の自撮り写真だ。

ジェニファーは、一口ごとにまるでベネディクト会の修道女のような殉教者の表情を浮かべ、静かにご飯を口に運んでいた。その姿は、食事というより一種の苦行のようだった。


ティファニー:「これ、全部処分しなさい。今日中に、よ」


ティファニーは箸をレーザーポインターのように使い、フィギュアの棚を指さした。


ティファニー:「私の荷物を置くスペースが必要なの」


拓真:「それは……限定版のコレクターズアイテムなんだ。中にはかなりの価値が――」


ティファニー:「拓真」


短い沈黙。


ティファニー:「興味ないわ」


ステイシー:「私は素敵だと思うけど。実際、その杖を持った金髪のフィギュア、後ろ姿がティファニーにそっくりじゃない?」


ティファニーは持っていた箸を容赦なく真っ二つにへし折った。


ジェニファー:「二人とも、そんなに意地悪を言わないであげて。彼女たちは拓真のお友達なのよ。彼が持っていた、唯一のね……」


ジェニファーは計算された優しい眼差しを拓真に向けた。


ジェニファー:「可哀想に」


拓真は口を開き、そして閉じた。

テーブルの上のご飯は、灰色にくすんだまま、完璧に無視されていた。

まるで、彼が過ごしてきた25年間の人生そのもののように。

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