約束
帰宅した俺は、アイリーンが寝静まるのを待って、男爵の申し入れについてケイトに相談した。ダンジョンのことは元冒険者の彼女が一番よく知っている。アイリーンはまだ幼いし、ケイトが納得しない限り、ダンジョンに潜るわけにはいかない。
「いいんじゃない、やってみれば」
「へ? ………」
ダンジョンの危険性を説かれたり、覚悟のほどを問いただされるとばかり思っていた俺は、意外な言葉に思わず声をもらした。
「あの領主様がそうおっしゃったのなら、やってみればいいのよ。まあ、低階層くらいじゃ、それほど効果はないでしょうけど。安全も確保されるってことだし。二週間あれば、スキル向上に役立つかどうかの見極めくらいはできるかもしれない」
「あのさ、素人の俺がダンジョンに潜ることが不安じゃないのかい?」
「もちろん、心配といえば心配だけど……、ねえアンリ、この町の安全を脅かす一番の要因は何だと思う?」
「スタンピードだね」
「そう。ダンジョンはドロップアイテムをはじめとして、様々な形で恩恵をもたらしてくれるけれど、その繁栄は常にスタンピードの危険と背中合わせ、ダンジョンに足を踏み入れなければ安全というわけにはいかない。この町で暮らす者の宿命ね」
ケイトは不意に俺の耳元に口を寄せてささやくように言った。
「アンリ、この間、結界の外に残った時、あなた私達のために死ぬつもりだったでしょ」
「………」
「あの時はそれしかなかったかもしれないけれど、次はなしだからね。そのすごいスキルで、私とアイリーンを守ってくれなくちゃ」
「わかった」
ケイトは俺の耳元から離れると、笑いながらつけ加えた。
「それから、先輩として言わせてもらうと、冒険者って結構面白い仕事よ。せっかくだし、楽しんでいらっしゃい」




