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劣化コピースキルと言われる〈絵師〉を授かったが、画力がアレだったせいで、いろいろスゴイことになった件  作者: コケモモ


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40階層攻略

 俺たちは25階層から35階層までの周回を三度繰り返して、聖獣の絵を三枚ストックして40階層のボス戦に挑んだ。ここのボスは鶏の体に蛇の尾を持つ魔獣コカトリスだ。ただし、頭が二つある双頭だという特徴がある。双頭である分、攻撃力は高いのだが、通常のコカトリスにはない弱点があることが知られている。もともとコカトリスは頭が悪いのだが、そこも二倍になるのだ。二手に分かれて挑発すると意識が分裂して身動きできなくなる。そこをすかさす、遠距離から雷魔法で倒すというのが定石となっている倒し方だ。

 エルザは様々な魔法が使えるが、生憎(あいにく)と水魔法と雷魔法は苦手にしている。俺たちが周回していたのは、雷撃の使える聖獣をストックするためだった。

「よし、作戦開始だ。フレッド、よろしく」

「おう、まかせときな」

 まずフレッドがコカトリスを挑発し、コカトリスがフレッドに気を取られているすきに残りの三人が背後にまわり込み、軽い攻撃を加えて意識を分断して動きを止め、聖獣をリアライズしてコカトリスの息の根を止める。というのが作戦の流れだ。理想はコカトリスに気づかれないように挟み撃ちできる場所まで移動することなのだが、ボス部屋の魔獣は侵入者に気づいているから、そう上手くはいかない。

「そら、こっちだ」

 フレッドは大声を上げながらコカトリスの目の前を横切って右手側に向かった。エルザのバフがよく効いている。これなら捕まることはないだろう。

「よし、移動開始」

 俺たちはフレッドを先頭に、足音を忍ばせて左側の隅に向かった。尻尾の蛇はすでに俺たちに気づいて鎌首をもたげているが、距離を取ってさえいれば危険はない。

 コカトリスは蹴りとくちばしの突きによる攻撃を交互に繰り返しているが、フレッドは余裕たっぷりに身をかわしている。

「ふん、トロ臭せえな、そんな攻撃、食らいやしねえよ。そら、その肉ぶくろが邪魔なんじゃねえのっと」

 フレッドは右の頭の突きをかわしながら、くちばしの下に垂れ下がった肉垂(にくすい)を切り裂いた。異様に膨れ上がっていた肉垂が破れると、大量の血が噴き出し、フレッドはたちまち血まみれになった。

「何じゃこりゃあ!」

 コカトリスの血には毒がある。フレッドは膝から崩れ落ちて動かなくなった。

「まずい、エルザ、攻撃を」

「ファイヤーボール!」

 フレッドを巻き込んでしまうので、強力な魔法は使えない。とはいえ、弱めの攻撃でも頭の悪いコカトリスの注意を引きつけるのには十分だった。

「エルザ、バリアを」

「わかった。それと、フレッドの血を洗い流さないと」

「アンリさん、水の聖獣を使おう」

「了解」

 俺はスケッチブックをあけ、〈雨をもたらす者〉をリアライズした。

「リアライズ。あの男を洗え!」

 かたつむりの姿をした聖獣がツノを振り上げると、大量の雨がフレッドとコカトリスの上に降り注いだ。コカトリスが身震いすると、しぶきがこちらまで飛んできて、あたりは水びたしになった。

「まずい。これじゃ〈雷を呼ぶ者〉が使えない」

「エルザ、とにかくバリアを」とハンスが言った。

 エルザがバリアを張ると、ハンスはうつ伏せに倒れたままのフレッドに目をやりながら言った。

「フレッド、あのままじゃ絶対まずいな……」

「でも、ここからじゃ、ヒールできない」

 コカトリスが近づいてきて、バリアに向かって例の蹴りと突きを繰り返し始めた。

「エルザ、炎魔法は撃てるか」とハンスが尋ねた。

「無理、近すぎて、バリアが邪魔」

 ふと、俺の頭に傷ついた戦士を立ち上がらせる妖精のイメージが浮かんだ。単に傷をいやすのではなく、〈蛮勇〉の戦士を奮い立たせる妖精だ。俺は急いで色チョークを手に取った。大小一対の太鼓をひもで首から吊りさげた、全身に入れ墨をした男の妖精。

「リアライズ 〈鼓舞する者〉、〈蛮勇〉の戦士に力を」

 体長30センチほどの妖精は、コカトリスの脇をすり抜けると、フレッドに走り寄り、彼の周囲を跳ねまわりながら、二連の太鼓を打ち鳴らした。重々しい低音と、カンという乾いた高音が交互に響き渡り、心臓の鼓動を感じさせる。

「ん、あれは?」とハンスが声を上げた。

 フレッドの身体がぴくりと動いたかと思うと、黒味を帯びた赤い炎が背中から噴き出し、瞬く間に全身を包みこんだ。

「あれは、闘気の炎……」とエルザがつぶやくように言った。

「アンリさん、フレッドは今バーサク状態に?」

「ああ、彼を助ける方法は、これしかないと思ったんだ」

 バーサク状態の戦士/バーサーカーは、我を忘れて、ただ本能にしたがって敵を攻撃し続ける。物理攻撃しかできないが、威力は通常時のおよそ二倍に跳ね上がる。精神魔法の攻撃は通用しない。物理攻撃のダメージは受けるが、自己回復力の爆発的な上昇がそれをカバーする。コカトリスの毒程度で死ぬことはない。

 フレッドは両腕の力で半身を起こすと、うなり声を上げながら立ち上がり、剣を構えてコカトリスに突進した。

 コカトリスがフレッドの方に向き直ると、ハンスは俺とエルザに言った。

「このすきに距離を取ってくれ。エルザ、魔法で攻撃を。俺たちを黒こげにしないやつで頼む」

 しかし、ハンスの指示は、実行に移す前にあっさり無用になった。フレッドがコカトリスの二つの首の間を、胸のあたりまで切り裂いたのだ。心臓に届く致命傷を負ったコカトリスは、その場に倒れて絶命した。

 フレッドは剣を突き上げて勝利の雄たけびを上げると、放心したような表情を浮かべてその場に立ち尽くした。

「エルザ、フレッドにヒールを、バーサクが解けたら命が危ない」とハンスが言った。

「うう、何か、怖い……」

「大丈夫だ。いくら狂戦士(バーサーカー)でも、味方を攻撃したりはしないよ。ほら、もう動いてないだろ」

「わかった、行ってくる」

 エルザはバリアを解除すると、恐る恐るフレッドに近づいて行った。

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