王家からの褒賞
駆けつけた近衛騎士団に犯人を引き渡し、事情聴取が終わって子爵邸に帰宅した頃には、すっかり夜が更け、満月が屋敷の前庭を照らしていた。アイリーンは馬車の中で眠ってしまい、ケイトに抱っこされて馬車を下りた。約束の菓子はヒルデが機転を利かせて、子爵邸に届けるように菓子店と話をつけてくれたから、もう届いているはずだ。ちなみに、何とかの舌の何とかは、猫のことだった。ヒルデとはそのまま現場で別れた。
晩餐の席で、俺はコーネル子爵から、王家から褒賞が与えられることを知らされた。褒賞は子爵を介して渡されるが、原資は王家が提供する。盗賊を一人捕まえただけにしては異例の厚遇となったのは、宝石店に何人か高位の貴族がいたためらしい。
今回の事件は手口の稚拙さから、単なる窃盗で、政治的な意図は絡んでいないと考えられている。残党の行方は知れず、捜査は手間取りそうだ。
「褒賞品は冒険者向きのものをわしが三つ四つ見繕うから、好きなものを選ぶが良い」と子爵が言った。同席しているのは俺、ケイト、エルザの三人、アイリーンは部屋で眠ったままだ。
「ヒルデさんも力を貸してくれたのに、私だけ褒賞をいただいてよろしいのでしょうか?」
「あの者は臨時とはいえ王立魔法学院の講師だからな、学院を通じて褒賞が与えられる」
「よかった、それをうかがって安心しました」
「そういえば、講演の謝礼はもらったのか?」
「常任理事総会の承認を待ってメダルが授与されるそうです。ヒルデさんによると、承認といっても形式的なもので、講演を行なった時点で、授与は実質的に確定しているそうですが」
「副賞はないのか?」
「ええと……、学会の会報が年2回、無償で届くそうです」
「無償だろうと、実用性ゼロの代物だろう?」
まさに歯に衣着せぬ物言いってやつだな……。ケイトとエルザはうつむいたまま、笑いをこらえるのに必死だ。そういえば、エルザはコーネル子爵の貴族っぽくないところが好きだと言っていたっけ。もし貴族に生まれなかったら、冒険者になっていたに違いないという気がする。
「まあ、講演のおかげでこうして王都を訪れ、子爵様にお目にかかるという栄誉に浴することもできましたので」
「冒険者にしては口がうまいな、アンリ。ああ、もとは管理職か。わしもそなたに会えてうれしく思うぞ。ヒッグス通りにゴーレムを出すとはな、後世までの語り草になるだろうよ」
翌日、俺はコーネル子爵とともに前日襲撃を受けた宝石店を訪れた。王家からの褒賞品を受け取るためだ。馬車が着いた時には、すでに店主が入り口の前に立って、俺たちを待ち受けていた。すらりとした長身で年齢は四十歳くらいに見える。
「コーネル子爵閣下、ようこそおいでくださいました。ああ、そちらがアンリ様ですね。店主のブランと申します。先日は危ういところをお救いいただき、誠にありがとうございました。昨日はお客様をお送りすることに忙殺されてお礼も申し上げられず、大変な失礼をいたしました」
「まあ、気にするな、ブラン、かなりの大物が来店中だったそうじゃないか、残党が潜んでいるかもしれない中、送り出すほうもさぞかし気を使っただろうよ」
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
「それで、例の品は用意できているな」
「はい。さ、どうぞこちらに」
ブランはそう言って、俺たちを店の奥の応接室に案内した。ここは宝石店だが、主だった宝飾品には護身用の魔法などが付与されている。子爵から褒賞品の候補として示された四つの品はすべて魔法が付与されたもので、すべてこの店が扱っていた。魔道具屋も兼ねているようなものだが、俺が知っている冒険者相手の魔道具屋とは大違いだ。
四つの候補の中から、俺が選んだのは〈収納袋〉だった。空間魔法と重力魔法が付与されていて、余裕で一週間分の食料(時間魔法は付与されていないため、保存食に限るが)と水を収納することができるし、重さも感じない。ダンジョン探索の必需品だ。この性能だと値打ちは金貨百枚を下らないだろう。しかも、魔法で所有者を登録できるから、盗難の恐れもない。
「まだ持っていないパーティなら、これ一択になるわなあ、そりゃ」
ブランがうやうやしく銀盆に載せて運んできた収納袋に目をやりながら子爵が言った。
「そうですね。こんなキャパシティの袋、Aランクパーティでもめったに持っていませんよ」と俺は答えた。
「値段を知りたいか?」
コーネル子爵がにやりと笑って言った。
「いえ、結構です。心臓に悪い」
「ふふふ、何にせよ、領内の有望パーティが深層探索に向けた体制を整えるのは喜ばしいことだ。期待しとるぞ、アンリ、わしもモーリもな。進捗報告を欠かすなよ」
所有者登録(飾り紐の端に血を一滴垂らす)を終えて収納袋を受け取り、引揚げようとしていた時、ブランが銀の小箱を俺に差し出した。
「アンリ様、どうかこちらをお持ちください」
「これは?」
「昨日のご助力への、当店からの御礼です。三本だけですが、防御魔法を付与したヘアピンが入っています。身に危険が迫りますと、自動で防御障壁を形成します」
「そんな貴重なものをいただくわけには」
「どうかお収めください。収納袋は王家からの褒賞。こちらは趣旨が異なります。あれだけの恩義を受けてそのままにしては、店の看板が泣くというものです」
「うむ、ブラン、名店の名にふさわしい、殊勝な申し出だ。アンリ、ありがたくもらっておけ」と子爵が言った。
帰りの中でコーネル子爵はブランの振る舞いをしきりに賞賛した。
「あのブランという店主、とある子爵家の三男で、入り婿として商家に迎えられたそうだが、なかなか気が回る」
「ええ、ヘアピンが三本ということは、ケイト、アイリーン、エルザの分だと思いますが、平民が身に着けても悪目立ちしないものをきちんと選んでくれている」
「王家や上級貴族のご機嫌取りばかりしている奴は気に食わんが、あやつは見所がある。いずれモーリが何か発明するだろうから、優先して扱わせてやろう」




