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劣化コピースキルと言われる〈絵師〉を授かったが、画力がアレだったせいで、いろいろスゴイことになった件  作者: コケモモ


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事故

 俺たちがヒッグス通りの菓子店の前まで来た時、三丁目の十字路に左手側から猛スピードで侵入してきて右折しようとした馬車が、曲がり切れずに横転した。

「危ない!」

 あまりのスピードに、馬車は横倒しになっても止まらず、角の宝石店に向かって滑り続けた。

「まずい」

 俺はとっさにスケッチブックのゴーレムのページを開けると、馬車に投げつけながら叫んだ。

「リアライズ! ゴーレム、馬車を止めろ」

 狙い通りに体長三メートルのゴーレムが店の前に出現し、突っ込んでくる馬車を受け止めようと身をかがめた。激しい衝突音が響き渡る中で、ゴーレムは馬車を抱え込んだが、大理石で舗装された歩道の滑りやすさが災いして、そのままずるずると後退した。宝石店のショーウィンドウまで、もう十センチもない。

「くそ、踏ん張れ!」

 とその時、ゴーレムの全身が黒味を帯びた銀色に光ったかと思うと、もつれあった馬車とゴーレムの動きがピタリと止まった。

「ふう、何とか間に合った」とヒルデが掲げていた杖を下ろしながら言った、

「ヒルデさん、今のは?」

「ああ、アンリさんがゴーレムをリアライズしようとしていたから、馬車を押さえ切れるように、重力魔法をかけたんだよ」

「さすが師匠、古代語の高速詠唱……」とエルザが言った。

「いや、通行人が多くて、最初はどの魔法を使うか考えがまとまらなかった。アンリさんがゴーレムを出してくれて助かった。やはり、とてつもないスキルだな」

 役目を終えたゴーレムは、ゆっくりと身を起こして動きを止めた。まもなく姿を消すだろう。

「パパ、かっこいい。ゴーレムさんも!」とアイリーンが目を輝かせながら言った。

 娘に初めていいところが見せられた。ワイバーンを倒した時は、聖獣の姿がいまひとつアイリーンの好みに合わなかったせいで、反応がいまひとつだった……。その点、ゴーレムはシンプルで実にいい。それと、幼い子供にとって、大きいは正義だ。

 俺はそんなことを考えながらスケッチブックを拾い上げた。

「うん、すごい人」と、なぜか得意げにエルザが言った。

「御者がいない。馬車の中もからっぽよ」

 馬車を調べていたケイトが声を上げた。

「てことは、わざと横転させて、宝石店を狙った?」

 首をかしげながらつぶやくヒルデに、ケイトが馬車のドアに描かれた紋章を指差しながら言った。

「ええ、馬車は盗品、どこかの貴族の屋敷から盗み出したものね」

 その時、周囲を取り巻いていた人込みの中から小柄な若い男が飛び出してきて、目にも留まらぬ速さで俺の手からスケッチブックをひったくると、呆気(あっけ)にとられている野次馬たちを押しのけて走り去った。宝石店の襲撃に失敗した盗賊連中の一人だろう。スケッチブックを魔導書の類(たぐい)と勘違いしたわけだ。

「待て!」

 ヒルデとエルザが杖を振り上げたが、急に男の姿がぼやけて、街道の石畳に溶け込むように見えなくなった。

「くそ、隠蔽スキル持ちか」とヒルデがいまいましそうに言った。

「まあ、ただのスケッチブックだし……、ん? ひょっとして」

 俺はふと思いついて、男が逃げ去った方に向かって叫んだ。

「リアライズ!『沼地の住人』、ぬかるみを作れ」

 突然、十メートルほど前方に体長一メートルを越える青緑色(あおみどりいろ)の大ガエル(?)が現れ、街道の真ん中に大穴が開いた。例の盗賊は、落とし穴にはまったかのように、穴の中で泥まみれになってもがいている。

「アンリさん、お見事!」

 ヒルデは笑いながらそう言うと、魔法で盗賊を麻痺させた。

「コ・イ・ム スタン」

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