コーネル子爵
俺たちは王都にいる間、コーネル子爵の別邸で過ごすことになった。存分に厚遇されておけとモーリ男爵に言われていなかったら、小心者の俺は別邸に着くまで神経が持たなかったろう。王都に着いた日の夜、俺たちは子爵とともに晩餐の席に着いた。
子爵は五十代半ば、二メートルを越す長身で、体重は百キロを優に越える。〈槍使い〉のスキルの持ち主で、男爵家の生まれながら、数々の武勲を立てて子爵位を賜った武人だ。
「まずは、ケイトとエルザ、わしには魔法のことは分からんが、学会が認めるほどの研究、大義であった。領主として鼻が高い」
「過分なお言葉痛み入ります」
子爵の言葉にケイトが答え、エルザと一緒に一礼した。
「よし、堅苦しい口上はここまで。マナーなんぞどうでもいい。好きなように食ってくれ。幸い、口うるさい愚妻は本邸に残っとる。この屋敷では冒険者の流儀を通してもらって構わん」
子爵はそう言って豪快に笑った。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「アイリーン、です」
「おお、よく言えた。おじちゃんはちょっと声が大きいがな、決して怒ってはおらん。怖がらんで良いからな。好きなものをたくさんお食べ」
アイリーンは子爵の前に出てからずっと表情をこわばらせたままだったが、その言葉に安心した様子で微笑むと、小さくこくりとうなずいた。
「で、アンリ、此度の道中はどうだった?」
「快適でした。何から何までお気遣いいただいて、ありがとうございます。それにしても、馬車の乗り心地が驚きでした」
「うむ、板ばね、最高だろう? モーリが発明したことは知っておろうな?」
「はい」
「ドルト伯爵を通じて献上して、王家の馬車に取り付けたんだが、殊の外お喜びで、褒賞まで頂戴した」
「最初は貴族様の馬車だからなのかと思ったのですが、やはりあの乗り心地は特別なんですね」
「その通り。あやつの頭の中には、わしの思いもよらんものばかりが詰まっておるよ」
子爵はそう言って愉快そうに笑った。モーリ男爵は上司に恵まれているようだ。根っからの武人と元商人の文人、いいコンビかもしれない。
「アンリよ、その思いがけないものの一つがお前さんでな。自分が考えた能力を持つ聖獣の絵を描いて実体化する。いやはや、〈絵師〉のスキルでそんな芸当をやってのけるとはな。モーリから報告は受けておるが、せっかくの機会だ、当人の口からくわしく聞かせてもらえんか?」
「わかりました」
俺は〈絵師〉のスキルについて知っている限りのことを子爵に説明した。
「なるほど、実戦的に少々使いにくいところはあるが、ストックできるというのは大きいな。発動したところを見てみたい……。アンリよ、わしの直轄領、セントにもダンジョンがある。そのうちパーティ全員で遠征してくるといい。費用はわしが持つ」
子爵はそう言うと、アイリーンの方を振り返りながらつけ加えた。
「お嬢ちゃんも、その時は一緒においで」




