王都へ
エルザとケイトの研究は大きな反響を呼び、王都の魔法学会で講演して欲しいという招待状が届いた。馬車で片道一週間は要する道のりを考えて、当初はエルザとケイトだけで王都にゆく予定だったのだが、モーリ男爵が馬車を使わせてくれるという話になり、俺とアイリーンも同行することになった。しかも、男爵は上司のコーネル子爵(王都までは彼の所領を通る)にも講演のことを報告し、後半の三日間、子爵が保有している馬車を使わせてもらう手はずまで整えていた。肝をつぶした俺が、さすがにそれは気が引けると言うと、男爵は笑いながら、優秀な領民を庇護していることを周囲に示すのは、貴族として大いに面目を施すことだから、遠慮は無用、むしろ存分に厚遇されるほうが礼儀にかなっているのだと答えた。
俺たちは五日ほどで旅支度を整えて、緑の女神リースの月の七日に王都に向けて出発した。俺は生まれてこの方これほど快適な旅をしたことがない。新緑の季節で天候に恵まれ、泊まるのはすべて子爵家御用達の上宿、食事代も宿代も子爵持ちなのだ。もし自分達で費用を払ったら、学会が用意してくれた路銀は一日足らずで消えてなくなっていただろう。と言っても、学会側も貴族の慣例は承知していて、招待者自身が旅費を負担するとは考えていないのだが。子爵邸到着までの四日間はフレッドとハンスが護衛についてくれたのだが、子爵お抱えの二人の騎士に役目を引き継ぐと、「冒険者に戻れなくならないように気をつけろよ」と言って、大笑いしながら町に戻っていった。確かに、こんな暮らしを二週間以上続けた後で、クエスト実行中は野宿が当たり前の冒険者の生活に戻るのは、元事務職のおっさんとしては結構厳しい。俺がそれを口にすると、ケイトは「主婦に戻るのだって大変よ。甘やかされすぎると後が怖いってことね」と言って苦笑した。
コーネル子爵は王都に滞在中とのことで不在だったが、子爵邸の前庭には、俺たちのための馬車が用意されていた。四台保有しているうちの一台という話だ。御者によると、子爵の馬車にも、モーリ男爵が考案した板ばね(金属板を重ね合わせたもので、車輪の振動を吸収してくれる)が使われている。俺が初めて男爵の馬車に乗った時、あまりの乗り心地の良さに驚いたのは、この板バネのおかげだったわけだ。このしくみは子爵領内を往き来する商会の馬車にも使われ始めている。それと、王都までの子爵領内の街道を整備するように提言したのも男爵だという。おかげで、道は良いし魔獣も盗賊も出ない。幼い娘を連れた長旅だというのに、まったく結構ずくめだ。
俺たちの町でもそうだが、子爵領の財政再建のために男爵がやったのは、税率は据え置いたままで、領内の産業を盛んにして税収を増やすことだった。あの人はやはりただ者じゃない。




