第二十九話 白銀最終戦線
地下世界全域へ、白銀光が広がっていた。
崩壊寸前だったカルネディア。
侵食に呑まれかけていた古代都市。
その中心で。
白銀騎士と白銀核が並び立っている。
月白。
ネメシス。
千年前、敗北したはずの二つの力。
その再起動だった。
終焉侵食体が低く唸る。
地下世界全域が震えた。
巨大黒腕群が蠢く。
数万。
空間を埋め尽くすほどの侵食腕。
しかもその一本一本が、空間侵食能力を持っている。
触れた場所から世界そのものが崩壊していく。
『終焉侵食体第二形態安定化』
「安定化って言うな!」
レイナが叫ぶ。
だが現実は最悪だった。
白銀浄化で侵食を押し返しているとはいえ、終焉侵食体の出力も増大している。
地下空間の天井が砕ける。
巨大瓦礫が降り注ぐ。
白銀結界が軋む。
『施設崩壊率92%』
「九十二……!」
もう数分保つかも怪しい。
カルネディア全域が悲鳴を上げていた。
古代術式炉が火花を散らす。
白銀導管が破裂する。
千年前から稼働し続けていた封印機構が、限界を超えて動き続けている。
その時。
終焉侵食体が腕を振り上げた。
黒波収束。
巨大砲撃形成。
空間そのものが歪み始める。
『超高密度侵食砲確認』
「避けろぉ!!」
轟音。
黒波が放たれた。
地下世界を貫く超巨大砲撃。
進行ルート上の空間が崩壊していく。
空気が裂ける。
床が蒸発する。
ただの攻撃じゃない。
存在そのものを消し飛ばす侵食砲撃だった。
だが。
その瞬間。
ネメシスの前へ巨大白銀魔法陣が展開された。
『白銀障壁展開』
黒波衝突。
凄まじい衝撃。
地下世界全域が揺れる。
白銀障壁に亀裂が走る。
ネメシスの身体が小さく震える。
それでも。
防いだ。
「止めた……!?」
ネメシスが苦しそうに息を吐く。
『……まだ、いける』
白銀粒子が舞う。
彼女の背後へ、さらに無数の光剣が展開された。
数百。
いや数千。
空間そのものを埋め尽くす白銀剣群。
『白銀核兵装展開』
「そんな機能まで!?」
その瞬間。
ネメシスが手を振る。
白銀剣群が一斉射出された。
轟音。
巨大黒腕群へ突き刺さる。
侵食爆散。
黒霧が吹き飛ぶ。
しかも。
白銀剣に貫かれた部分は再生しない。
『侵食再生阻害確認』
「効いてる!!」
だが。
終焉侵食体は止まらない。
巨大な身体がさらに膨張する。
地下空間そのものを侵食しながら巨大化していた。
『空間融合侵食開始』
「空間と融合してる!?」
つまり。
この地下世界全体が終焉侵食体へ変わり始めている。
壁。
床。
天井。
全部が黒く染まり始めていた。
さらに。
侵食された空間から、新たな黒腕が生えてくる。
終わりがない。
倒しても倒しても増え続ける。
その時。
ルナが警告を表示する。
【最終封印完成まで】
残り 9分
「九分……!」
短い。
圧倒的に短い。
その間、耐え切れるのか。
その時だった。
月白がゆっくり前へ出る。
セレスフィアを構える。
侵食はさらに進んでいた。
右腕の一部が完全に黒く変色している。
血も流れていた。
呼吸も乱れている。
それでも。
彼の目だけは揺らいでいなかった。
「……主任」
「はい!」
「……封印中枢へ行け」
「え?」
「……最後の術式を起動する」
空気が止まる。
「それって……」
「……俺たちが時間を稼ぐ」
「俺たち?」
月白の隣へ、ネメシスが並ぶ。
白銀光が揺れる。
『……いっしょに、たたかう』
その瞬間。
終焉侵食体が咆哮した。
巨大黒腕群が一斉に襲いかかる。
だが。
月白が剣を振る。
白銀閃。
数百本の黒腕が消滅。
同時に。
ネメシスの白銀剣群が空を埋め尽くした。
侵食爆散。
地下空間が白銀光で染まる。
まるで。
千年前に失われた白銀騎士団そのものだった。
その時。
終焉侵食体の胸部が裂けた。
巨大な“核”が見える。
黒い巨大眼球。
脈動する侵食中枢。
『アビスコード本体確認』
「あれが本体……!」
巨大眼球がこちらを見る。
瞬間。
脳内へ大量の声が流れ込んだ。
『滅ビロ』
『終ワレ』
『全部無意味ダ』
「ぐっ……!」
精神侵食。
頭が割れそうになる。
だが。
月白は静かに前へ出た。
「……聞くな」
セレスフィアが白銀光を放つ。
精神侵食が押し返される。
「……あれは、心を壊してくる」
その声には実感があった。
千年前。
彼も同じものと戦ったのだ。
その瞬間。
アビスコードが笑った。
『遅イ』
地下空間全域へ黒い紋様が走る。
そして。
終焉侵食体の背後へ、さらに巨大な空間裂け目が開いた。
そこから現れたのは。
無数の侵食体だった。
「まだ出るのかよ!?」
黒騎士。
黒竜。
巨大黒花。
過去に倒した侵食体すべてが再構築されていた。
『侵食記録再生』
「最悪すぎる……!」
絶望みたいな軍勢。
だが。
月白は静かに剣を握り直した。
「……ようやく全部出したか」
白銀光がさらに強くなる。
その背後へ。
白銀の幻影が現れ始める。
白銀騎士たち。
千年前に滅んだはずの守護者たちだった。
「え……」
『古代戦闘記録同期』
幻影騎士たちが一斉に剣を構える。
そして。
月白と共に、侵食軍勢へ突撃した。
地下世界最終戦。
その本当の開幕だった。
地下世界最終戦。
その本当の開幕だった。
轟音。
白銀光。
侵食黒波。
空間そのものが悲鳴を上げる。
終焉侵食体の背後から現れた侵食軍勢が、地下空間を埋め尽くしていた。
黒騎士。
黒竜。
侵食獣。
巨大黒花。
さらに。
崩壊した古代兵器までも侵食再構築されている。
『侵食記録再生体数、測定不能』
「測定不能ってもう嫌なんだけど!?」
レイナが叫ぶ。
だが。
笑えない。
本当に絶望的な数だった。
視界全部が敵。
地下世界そのものが侵食軍勢へ変わっていた。
その時。
月白の背後へ現れた白銀幻影騎士たちが、一斉に剣を構えた。
白銀光が走る。
地下空間へ巨大術式陣が展開される。
『古代白銀戦闘術式起動』
「これは……」
千年前。
カルネディアを守っていた白銀騎士団。
すでに滅んだはずの存在。
その戦闘記録が、セレスフィアによって再現されていた。
幻影騎士たちが突撃する。
轟音。
白銀斬撃。
侵食軍勢が次々消滅していく。
黒騎士の群れが吹き飛ぶ。
巨大侵食獣が両断される。
さらに。
白銀術式が地下空間全域へ連鎖していく。
『広域浄化連鎖開始』
「押し返してる……!」
だが。
終焉侵食体は止まらない。
巨大な黒い身体が脈動するたび、新たな侵食体が生まれていく。
地下空間そのものを侵食炉に変えている。
『侵食増殖速度上昇』
「キリがない!」
その瞬間。
巨大黒竜群が空中へ浮上した。
数十体。
しかも全部、以前戦った個体より巨大化している。
『超高密度侵食炎反応』
「嫌な予感しかしない!」
次の瞬間。
黒竜群が一斉咆哮。
黒炎砲撃。
地下世界全域へ黒い炎が降り注ぐ。
空間そのものを燃やす侵食炎。
触れた場所から術式が崩壊していく。
「防げぇぇ!!」
九条が結界を展開する。
巨大多重障壁。
だが。
黒炎が強すぎる。
障壁表面が侵食されていく。
亀裂。
崩壊。
「持たない!」
その時。
ネメシスが前へ出た。
白銀粒子が舞う。
彼女の背後へ、数千の白銀剣が再展開された。
『白銀核兵装再起動』
『広域迎撃モード移行』
次の瞬間。
白銀剣群が空へ放たれる。
轟音。
黒炎群へ直撃。
白銀と黒が衝突する。
空間全域が揺れる。
だが。
白銀剣は止まらなかった。
黒炎を貫通。
そのまま黒竜群を撃ち抜く。
侵食爆散。
巨大黒竜が次々墜落した。
「すご……」
だが。
ネメシスの呼吸も荒くなっていた。
白銀出力が大きすぎる。
身体負荷が限界へ近づいている。
『白銀核出力87%』
『個体維持限界接近』
「ネメシス!?」
彼女の輪郭が少し薄くなる。
まるで存在そのものを削って戦っているみたいだった。
その時。
終焉侵食体が巨大な腕を持ち上げた。
地下世界全域へ黒紋様が広がる。
そして。
天井が開いた。
「……え?」
いや。
違う。
天井が侵食され、巨大空洞へ変わったのだ。
その向こうに見えたのは。
“地上”だった。
『地上侵食接続開始』
「まずい!!」
黒波が上昇していく。
このまま地上へ到達すれば終わる。
世界規模侵食が始まる。
その瞬間。
ルナが警告を出した。
【最終封印完成まで】
残り 6分
「六分!?」
短すぎる。
しかも。
終焉侵食体の出力はさらに上昇していた。
『終焉侵食体第三形態移行』
「第三!?」
巨大黒霧が膨張する。
さらに。
終焉侵食体の身体表面から“顔”が浮かび始めた。
無数の人間の顔。
泣いている。
笑っている。
苦しんでいる。
全部、侵食された者たちの残骸だった。
『タスケテ』
『クルシイ』
『オ前モコッチヘ来イ』
「う……」
精神侵食。
頭の奥へ直接声が響く。
足が止まりそうになる。
その時。
月白が静かに剣を掲げた。
白銀光が爆発する。
精神侵食が吹き飛ぶ。
「……惑わされるな」
低い声。
「……あれは、もう人じゃない」
その言葉には重みがあった。
千年前。
きっと彼はもっと多くを見てきたのだ。
守れなかった者。
侵食された仲間。
全部。
それでも戦い続けた。
その瞬間。
終焉侵食体が巨大な口を開いた。
黒い超巨大砲撃が収束していく。
『超広域侵食崩壊砲形成』
「来るぞぉ!!」
地下空間が軋む。
世界そのものが壊れそうな圧力。
だが。
月白は静かだった。
セレスフィアを構える。
白銀幻影騎士たちも、一斉に剣を掲げる。
ネメシスが白銀魔法陣を展開する。
地下世界全域へ、巨大な白銀紋章が浮かび上がった。
『白銀最終術式同期開始』
その瞬間。
月白が小さく呟く。
「……これが最後だ」
白銀光が暴走する。
地下世界そのものが、昼みたいに輝き始めた。




