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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第二十八話 白銀核覚醒

 地下世界全域へ、崩壊みたいな振動が走った。


 轟音。


 巨大浄化炉が軋む。


 天井亀裂。


 崩落。


 白銀術式の一部が明滅し始める。


『施設崩壊率89%』


「八十九!?」


 もう限界だった。


 地下世界そのものが崩れかけている。


 巨大な亀裂が床を走り、深い奈落が口を開ける。


 壁面術式は次々消灯し、古代文字が崩れていく。


 千年間動き続けてきたカルネディアが、今まさに寿命を迎えようとしていた。


 浄化炉の回転音も不安定だった。


 低い唸り。


 異常振動。


 まるで巨大な心臓が悲鳴を上げているみたいだった。


『中央浄化炉負荷率98%』


「九十八!?」


『これ以上の出力維持は推奨できません』


「今そんなこと言ってる場合か!」


 だが。


 それ以上に異常だったのはネメシスだった。


 彼女の身体から放たれる白銀光が、地下空間全域を覆い始めている。


 黒雨が蒸発していく。


 侵食粒子が押し返されていく。


 さらに。


 巨大黒花核そのものが変化していた。


 黒い花弁が、少しずつ白銀へ染まり始めている。


『深層核変質確認』


「変わってる……?」


 その時。


 ネメシスが苦しそうに胸を押さえた。


『……あつい……』


 白銀光が暴走する。


 巨大な脈動。


 地下世界全域の術式が共鳴した。


『浄化炉同期率上昇』


『白銀出力急増』


 白銀の波紋が地下空間を走る。


 侵食されていた壁面が浄化されていく。


 黒花が崩れ落ちる。


 崩壊していた術式文字が再起動する。


 千年前の古代機構が、まるで再び目覚め始めているようだった。


 だがその一方で、ネメシス自身の身体にも異変が起きていた。


 白銀光が強くなるたび、彼女の輪郭が薄くなっていく。


「……消えてる?」


 レイナが息を呑む。


『深層核エネルギー過剰放出』


 つまり。


 ネメシスは自分自身を燃料にして浄化を行っている。


「そんなの……!」


 その瞬間。


 アビスコードが怒号を響かせた。


『ヤメロォォォ!!』


 巨大黒波炸裂。


 侵食巨人がさらに膨張する。


 巨大黒腕が無数に増殖し、地下空間全域を埋め尽くしていく。


「まだ増えるのかよ!?」


 しかも。


 今度は黒腕の先端から“眼”が開き始めた。


 無数の眼。


 全部こちらを見ている。


『精神侵食反応増大』


 瞬間。


 頭痛。


 耳鳴り。


 吐き気。


 大量の声が脳内へ流れ込んでくる。


『沈め』


『終われ』


『諦めろ』


『楽になれ』


『お前も侵されろ』


「ぐっ……!」


 膝が折れそうになる。


 意識が引きずられる。


 その時。


 ルナが警告を出した。


【精神侵食危険域】


【主任精神安定率】


・41%


「精神安定率なんてあったの!?」


『最近追加されました』


「嫌すぎる追加機能!」


 だが冗談を言っている余裕もない。


 視界が黒く滲む。


 過去の嫌な記憶が勝手に脳裏へ浮かび始める。


 失敗した任務。


 死んでいった仲間。


 助けられなかった人々。


 そして、自分自身の恐怖。


 侵食は身体だけじゃない。


 精神まで壊しに来ている。


 その瞬間。


 巨大侵食巨人が腕を振り下ろした。


 轟音。


 地下空間崩壊。


「逃げろ!!」


 レイナが叫ぶ。


 灰狼メンバーが散開する。


 だが。


 遅い。


 巨大黒腕が隊員を呑み込もうとした、その時。


 白銀閃光。


 轟音。


 巨大黒腕がまとめて消し飛んだ。


「月白さん!」


 月白だった。


 侵食で全身が傷だらけなのに、まだ立っている。


 セレスフィアが白銀光を放っていた。


「……まだ終わってない」


 静かな声。


 だが息は荒い。


 侵食はかなり進んでいる。


 首筋の黒筋が、もう顔近くまで広がっていた。


『月白侵食率不明』


『測定不能』


「それ絶対ヤバいやつ!」


 月白はふらつきながらも前へ出る。


 そして。


 ネメシスを真っ直ぐ見つめた。


「……思い出せ」


『……え?』


「……お前は、封印核だ」


 白銀光が揺れる。


「……アビスコードを止めるために作られた存在だ」


 ネメシスが震える。


 その瞬間。


 大量の記憶映像が流れ込んだ。


 白銀研究所。


 巨大培養槽。


 冷たい実験室。


 そして。


 幼いネメシス。


『適合成功』


『白銀核形成開始』


『侵食耐性確認』


 無機質な声が響く。


 研究者たちが記録を取っている。


 ネメシスは泣いていた。


 一人だった。


 ずっと。


 誰も抱き締めてくれない。


 誰も名前を呼ばない。


 ただ番号だけで呼ばれていた。


『深層核個体No.0』


 食事。


 睡眠。


 訓練。


 侵食耐性実験。


 全部記録。


 全部管理。


 彼女には普通の人生なんて最初から存在しなかった。


「そんな……」


 レイナが呟く。


 つまり。


 彼女は最初から“封印装置”として生み出された存在だった。


 その時。


 ネメシスが小さく震える。


『……わたし……』


 さらに記憶が流れる。


 千年前。


 崩壊するカルネディア。


 若い月白。


 泣き叫ぶ人々。


 そして。


 ネメシス自身が巨大封印陣の中心へ座っている姿。


『封印維持を開始します』


『深層核接続完了』


『生命維持優先度変更』


『個体No.0を永久接続します』


 その瞬間。


 ネメシスが悲鳴を上げた。


『いやぁぁぁぁっ!!』


 白銀光暴走。


 地下世界全域が震えた。


 さらに映像が流れる。


 千年間。


 一人きりで封印を維持し続けるネメシス。


 眠ることも許されない。


 終わることも許されない。


 侵食と戦い続ける永遠の孤独。


「……こんなの、ひどすぎる」


 俺は拳を握り締める。


 その時。


 ネメシスが涙を流しながらこちらを見た。


『……わたし、こわかった』


 小さな声だった。


『……ずっと、一人だった』


 胸が痛む。


 誰にも救われなかった少女。


 世界を守るためだけに使われ続けた存在。


 だが。


 月白は静かに言った。


「……もう一人じゃない」


 ネメシスが目を見開く。


「……今度は終わらせる」


 その瞬間。


 巨大黒花核が、完全に白銀へ変わり始めた。


 花弁が開く。


 白銀粒子が舞う。


 まるで巨大な花が咲いているみたいだった。


 その時。


 アビスコードが初めて“焦り”を見せた。


『違ウ』


『オ前ハ器ダ』


『封印ダケシテイレバイイ』


 だが。


 ネメシスは涙を流しながら首を振る。


『……いや』


 小さな声だった。


 それでも確かな拒絶だった。


『……わたしは、モノじゃない』


 その瞬間。


 地下世界全域へ、巨大な白銀波が放たれた。








地下世界全域へ、巨大な白銀波が放たれた。


 轟音。


 崩壊寸前だった侵食空間が押し返される。


 黒雨が蒸発する。


 巨大黒花群が崩れ落ちる。


 白銀術式が次々再起動し、カルネディア全域へ光が戻っていった。


『浄化領域拡大』


『侵食濃度低下確認』


「押してる……!」


 レイナが息を呑む。


 だが。


 終焉侵食体は止まらなかった。


 巨大な黒い身体が、地下世界の中心で蠢いている。


 空間そのものを歪ませるほどの圧力。


 存在しているだけで世界が悲鳴を上げていた。


『終焉侵食体出力上昇』


「まだ上がるの!?」


 終焉侵食体の胸部には、月白が刻んだ白銀亀裂が残っている。


 だが。


 黒霧が集まり始め、ゆっくり再生していく。


「再生してる……!」


『侵食再構築能力を確認』


 その瞬間。


 終焉侵食体が巨大な腕を振り上げた。


 黒い霧が凝縮していく。


 巨大黒槍形成。


 しかも一本じゃない。


 数百。


 数千。


 地下空間全域を埋め尽くすほどの黒槍群だった。


『超広域殲滅攻撃予測』


「避けられない!!」


 その時。


 月白が静かに前へ出た。


 セレスフィアを構える。


 侵食で全身が崩れ始めている。


 腕の一部はすでに黒く侵されていた。


 それでも。


 彼は立っていた。


「……月白さん」


「……主任」


「はい」


「……お前、怖いか」


 突然の言葉だった。


 だが。


 俺は少しだけ黙る。


 怖い。


 当然だ。


 死ぬかもしれない。


 侵食されるかもしれない。


 全部終わるかもしれない。


 でも。


「……怖いです」


 正直に答える。


 月白は小さく笑った。


「……そうか」


 白銀光が揺れる。


「……俺もだ」


「え?」


「……千年前も、怖かった」


 静かな声だった。


「……守れなかったらどうしようって、ずっと怖かった」


 その瞳には、長い時間が宿っていた。


 千年。


 敗北。


 後悔。


 孤独。


 全部抱えたまま、ここまで戦ってきた男の目だった。


「……でも」


 月白がセレスフィアを握り直す。


「……怖くても、立つしかない」


 その瞬間。


 終焉侵食体が黒槍群を放った。


 轟音。


 地下世界全域を埋め尽くす黒。


「来るぞ!!」


 だが。


 月白は動かなかった。


 静かに剣を振る。


 白銀閃。


 瞬間。


 地下空間全域へ巨大白銀斬撃が走った。


 黒槍群がまとめて切断される。


 さらに。


 斬撃はそのまま終焉侵食体へ到達した。


 轟音。


 巨大な胸部が裂ける。


 黒霧が吹き飛ぶ。


『終焉侵食体損傷確認』


 だが。


 終焉侵食体は笑うように震えた。


『……終ワラナイ』


 次の瞬間。


 巨大黒波が炸裂する。


「ぐぁっ!!」


 吹き飛ばされる。


 息ができない。


 床を何度も転がる。


 しかも。


 侵食濃度が異常上昇していた。


【主任侵食率】


・72%


「七十二!?」


 視界が揺れる。


 腕が痺れる。


 意識まで黒く沈みそうだった。


『精神侵食同時進行中』


「最悪すぎる……!」


 その時。


 ルナが新たな警告を表示する。


【白銀封印完成まで】


残り 11分


「十一分……」


 短すぎる。


 その間ずっと、月白一人であの怪物を止めるのか。


 無理だ。


 どう考えても。


 だが。


 月白は前へ出る。


 たった一人で。


 終焉侵食体へ向かう。


「月白さん!!」


「……気にするな」


 白銀光が揺れる。


「……これは、俺の戦いだ」


 その瞬間。


 終焉侵食体の背後から、さらに巨大黒腕が出現した。


 数が違う。


 数万。


 地下空間そのものを埋め尽くすほどだった。


『終焉侵食体第二形態移行』


「第二形態!?」


 絶望みたいな光景だった。


 巨大黒腕群が空間を覆う。


 しかも。


 一つ一つが空間侵食能力を持っている。


 触れた場所から世界そのものが崩壊していく。


「こんなの勝てるわけ……」


 その時。


 ネメシスが静かに前へ出た。


 白銀粒子が舞う。


 彼女の瞳は、もう完全に覚醒していた。


『……わたしも、たたかう』


「ネメシス?」


『……もう、にげない』


 その瞬間。


 巨大白銀魔法陣が地下世界全域へ展開された。


 白銀騎士団の紋章。


 千年前の最終封印術式。


 そして。


 ネメシスの背後へ、無数の白銀光剣が浮かび上がった。


『白銀核最終形態移行確認』


「最終形態……」


 白銀光が、地下世界を埋め尽くしていく。


 その中心で。


 月白が小さく笑った。


「……やっと、起きたか」


 そして。


 白銀騎士と白銀核。


 千年前、敗北した二つの力が。


 今。


 再び並び立った。

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