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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第二十五話 深層存在アビスコード

地下世界全域へ、低い笑い声が響いた。


 ぞわり、と背筋が凍る。


 今まで感じていた侵食とは別格だった。


 冷たい。


 深い。


 底が見えない。


 まるで世界の裏側そのものがこちらを見ているような感覚だった。


『脅威判定更新』


『測定不能』


『解析失敗』


 ルナの表示が乱れる。


 ノイズ。


 赤警告。


 未知コード。


 今まで一度も見たことがない反応だった。


「ルナ?」


『……申し訳ありません』


「え?」


『対象情報が存在しません』


 つまり。


 ルナでも知らない存在。


 その時。


 巨大な“眼”がゆっくり開く。


 黒かった。


 いや、黒より深い。


 光を吸い込むみたいな色。


 見ているだけで頭痛がする。


『……見ツケタ』


 直接頭へ響く声。


 瞬間。


 地下空間全域の侵食粒子が暴走した。


 轟音。


 黒花噴出。


 床崩壊。


「うわぁっ!?」


 灰狼メンバーが吹き飛ばされる。


 しかも侵食濃度が一気に上がった。


『侵食率急上昇』


「今度は何!?」


『深層存在による強制侵食です』


「嫌な単語しかない!」


 その時。


 ネメシスが苦しそうに頭を押さえた。


『……いや……』


 黒花が暴走する。


 巨大核全体が脈動していた。


 まるで内側から何かが出てこようとしている。


 その瞬間。


 巨大な眼の周囲に黒い亀裂が走った。


 空間そのものが裂ける。


 そこから無数の黒腕が伸び始めた。


「また増えたぁ!?」


 腕だった。


 人間みたいな形。


 だが長すぎる。


 細すぎる。


 しかも指先が異様に長い。


 その黒腕が床へ触れた瞬間、地下空間が侵食されていく。


『空間侵食確認』


「空間まで汚染するの!?」


 その時。


 月白が静かに前へ出た。


「……主任」


「はい!」


「……アレは危険だ」


「見れば分かります!」


 月白がセレスフィアを構える。


 白銀光。


 だがいつもより弱い。


 侵食が進みすぎている。


 それでも彼は前へ出た。


「……斬る」


 次の瞬間。


 銀閃。


 超高速斬撃が巨大黒腕を切断する。


 だが。


 再生。


 一瞬で元に戻った。


「再生!?」


『通常法則外再生確認』


「意味が分からない!」


 その時だった。


 巨大な眼が、ゆっくり月白を見る。


『……白銀ノ残滓』


 空気が凍った。


 次の瞬間。


 黒腕が爆発的に増殖した。


 数百本。


 地下空間を埋め尽くす。


「来るぞ!!」


 轟音。


 黒腕群が一斉に襲いかかってきた。


 灰狼メンバーが応戦する。


 レイナが炎を放つ。


「燃えろぉぉ!!」


 紅蓮爆炎。


 黒腕数本が焼け落ちる。


 だがすぐ再生。


 しかも今度は炎耐性まで獲得していた。


「また適応!?」


『深層侵食による高速進化です』


「本当に最悪!」


 その時。


 九条が巨大結界を展開する。


「全員下がれぇ!!」


 青白い結界壁。


 だが黒腕群が次々叩きつけられる。


 ひび割れ。


 崩壊寸前。


「ぐっ……!」


 九条の口から血が流れる。


 かなり限界だった。


 その瞬間。


 巨大な眼が笑った。


『……壊レロ』


 直後。


 地下空間全域へ黒波が広がる。


 侵食波動。


 しかも今までの比じゃない。


「っ!?」


 呼吸が止まる。


 身体が動かない。


 精神が沈む。


 頭の中へ大量の声が流れ込んできた。


『終われ』


『沈め』


『還れ』


 まずい。


 意識が呑まれる。


 その時。


 ネメシスが叫んだ。


『……やめてぇぇぇ!!』


 白銀光が爆発する。


 巨大黒花核が共鳴した。


 その瞬間。


 深層存在の黒波が少しだけ押し返される。


「ネメシス……?」


 彼女は泣いていた。


『……出ていって』


 苦しそうだった。


 つまり。


 この存在はネメシスのさらに奥に潜んでいた。


 もっと古い何か。


 その時。


 ルナが新たな識別表示を出す。


【深層存在仮称】


【アビスコード】


【推定】

・古代侵食情報生命体


【警告】

・カルネディア暴走の根源反応


「元凶ってこと!?」


『可能性89%』


 その瞬間。


 巨大な眼――アビスコードが完全に開いた。


 直後。


 地下世界全域が暗転する。


 光が消えた。


 いや。


 光そのものが呑み込まれていた。


 浄化炉の白銀光。


 炎。


 結界。


 全てが黒へ沈んでいく。


『光学侵食確認』


「光まで侵食!?」


 空間認識が狂う。


 距離感が消える。


 上下感覚すら曖昧になる。


 その瞬間。


 一人の灰狼隊員が突然叫んだ。


「うわああああっ!!」


 彼は虚空へ剣を振っていた。


 敵などいない。


 完全に精神を侵されている。


『精神崩壊反応』


「まずい!」


 だが次の瞬間。


 隊員の身体から黒花が咲いた。


 胸部。


 肩。


 首。


 次々開花していく。


「ぐっ……!」


 レイナが歯を食いしばる。


「主任、下がらせる!」


「お願いします!」


 だが。


 アビスコードは笑っていた。


 その笑い声だけで頭蓋骨が軋む。


『……弱イ』


 次の瞬間。


 巨大黒腕が九条の結界を直撃した。


 轟音。


 結界粉砕。


「がぁぁっ!!」


 九条が吹き飛ばされる。


 床を転がり、血を吐いた。


「九条さん!」


「まだ……死んでねぇ……!」


 だがかなり深い傷だった。


 しかも侵食が始まっている。


 黒筋が腕へ浮かび上がっていた。


 その時。


 アビスコードの眼がこちらを向く。


 瞬間。


 頭へ直接映像が流れ込んできた。


 暗黒。


 宇宙みたいな空間。


 大量の黒花。


 崩壊する文明。


 滅びていく世界。


『……全部、沈ンダ』


 冷たい声。


『……オ前達モ』


 その瞬間。


 地下空間全域から黒腕が噴き出した。


 天井。


 壁。


 床。


 全方向。


「囲まれた!?」


『完全包囲状態』


「聞けば分かる!」


 その時。


 月白が前へ出る。


 セレスフィアが白銀光を放っていた。


 侵食されながらも、その光だけは消えていない。


「……主任」


「はい!」


「……アイツは、この世界に残してはいけない」


 その言葉は重かった。


 月白は知っている。


 過去を。


 カルネディアを。


 白銀都市が滅びた理由を。


 その時。


 アビスコードが咆哮した。


 地下世界が揺れる。


 さらに巨大黒腕が融合を始めた。


 一本。


 また一本。


 無数の腕が絡み合い、巨大な人型が形成されていく。


『超巨大反応形成中』


「まだ変身残してるの!?」


 巨大黒腕人型。


 その表面には無数の顔が浮かんでいた。


 泣いている。


 叫んでいる。


 侵食された者たちの残滓。


 それを見たネメシスが震える。


『……いや……』


 苦しそうだった。


 その瞬間。


 巨大人型が腕を振り上げた。


 地下空間全域を消し飛ばす勢いの黒波が集束していく。


『超高出力侵食反応』


「全員防御ぉぉ!!」


 そして。


 終末みたいな一撃が、放たれた。







終末みたいな黒波が、地下空間全域へ放たれた。


 轟音。


 世界が揺れる。


 巨大浄化炉が軋む。


 床が砕け、壁が吹き飛ぶ。


 灰狼メンバーが衝撃で宙へ投げ出された。


「ぐぁぁっ!!」


「耐えろぉ!!」


 だが威力が異常だった。


 結界では止まらない。


 炎でも押し返せない。


 侵食そのものが空間を呑み込んでいる。


 その時。


 月白が静かに前へ出た。


「……下がれ」


 白銀光。


 セレスフィアが共鳴する。


 その瞬間。


 地下空間全域の白銀術式が反応した。


 浄化炉。


 壁面魔法陣。


 古代文字。


 全部が月白へ向かって光を流し始める。


『白銀系統術式共鳴』


 空気が変わる。


 侵食空間が押し返される。


 その時。


 月白がゆっくり立ち上がった。


 白銀光が全身を覆っている。


 瞳まで白く輝いていた。


「……そうか」


 静かな声。


「……まだ、残っていたんだな」


「月白さん?」


 その瞬間。


 大量の記憶映像が地下空間へ投影された。


 白銀都市。


 巨大塔。


 古代騎士団。


 そして。


 黒花と戦う無数の白銀戦士たち。


『記録領域展開確認』


「これは……過去?」


 月白がセレスフィアを握り直す。


「……カルネディアは、元々“侵食封印施設”だった」


 空気が止まる。


「……浄化炉は浄化装置じゃない」


「え?」


「……本来の役目は、“アビスコード”を封じることだった」


 衝撃だった。


 つまり。


 ネメシスは暴走原因じゃない。


 本当の元凶は最初から地下に封印されていた。


「じゃあネメシスは……」


「……封印維持装置だ」


 その言葉に、ネメシスが震える。


『……わたし……?』


「……お前はずっと戦っていた」


 月白の声は静かだった。


「……何百年も、一人で」


 ネメシスが涙を流す。


 黒花が揺れる。


 その瞬間。


 アビスコードが怒号を響かせた。


 黒波暴走。


 地下全域が震える。


 巨大黒腕人型がこちらへ迫ってくる。


 轟音。


 一歩踏み込むだけで床が崩壊した。


『排除』


『封印破壊』


『世界侵食開始』


「不穏すぎる!」


 その時。


 月白が前へ出た。


 白銀光が地下空間を照らす。


「……主任」


「はい!」


「……最後の封印をやる」


 セレスフィアが共鳴する。


 巨大白銀術式展開。


 その瞬間。


 ルナが新たな表示を出した。


【最終封印術式確認】


【発動条件】

・白銀適合者

・浄化炉同期

・中枢核接続


【成功率】

・11%


「低すぎません!?」


 だが。


 もうやるしかなかった。


 その時。


 月白が静かに笑った。


「……昔よりは高い」


「比較対象が怖い!」


 さらに白銀術式が展開していく。


 地下空間全域へ巨大魔法陣が浮かび上がった。


 白銀文字。


 古代封印式。


 カルネディアそのものが起動を始める。


『封印機構再接続確認』


 その瞬間。


 アビスコードが暴れた。


 巨大黒腕が地下空間を薙ぎ払う。


 九条が叫ぶ。


「主任!!」


 結界展開。


 轟音。


 結界が砕け散る。


 レイナが炎を放つ。


「止まれぇぇ!!」


 紅蓮爆炎。


 だが巨大黒腕は止まらない。


 侵食再生。


 再形成。


 しかも黒波がどんどん濃くなっていく。


『侵食限界接近』


 その時。


 ルナが警告を出した。


【超警告】


【主任侵食率】

・49%


【危険域到達】


「もう半分近い!?」


 身体が重い。


 呼吸が苦しい。


 視界が黒く染まり始める。


 それでも。


 ここで止まれない。


 その時だった。


 ネメシスがゆっくりこちらを見る。


『……たすけて』


 小さな声。


 泣いていた。


 その瞬間。


 俺は決めた。


「ルナ」


『はい』


「最終封印、やるぞ」


 白銀光がルミナブラシアから溢れる。


 月白もセレスフィアを構えた。


 古代白銀術式が共鳴する。


 その瞬間。


 巨大なアビスコードが、こちらへ咆哮した。


 そして。


 白銀と深淵の最終決戦が始まった。

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