第二十三話 中央浄化炉再起動
中央浄化炉への最後の道が、完全に塞がれた。
地下深部。
崩壊寸前のカルネディア。
白黒に脈動する巨大炉心。
その目前に、黒輪戦姫ヴェルゼアは立っていた。
静かだった。
だが圧力だけで分かる。
今までの敵とは格が違う。
周囲の侵食濃度が異常だった。
呼吸するだけで肺が焼ける。
肌が軋む。
視界の端が黒く染まる。
『侵食率上昇中』
「今どれくらいです!?」
『主任、侵食率31%突破』
「思ったより高い!」
しかも精神侵食まで同時進行している。
頭の奥へ誰かの声が流れ込んでくる。
『眠って』
『苦しいでしょう』
『一緒になろう』
ネメシスの精神波。
長く浴びれば、意識ごと侵食される。
その時。
ヴェルゼアがゆっくり剣腕を構えた。
「……排除」
瞬間。
消えた。
「っ!?」
速い。
一瞬で目前。
黒刃が振り下ろされる。
轟音。
俺は咄嗟にルミナブラシアを構えた。
白光と黒刃が激突する。
衝撃。
床崩壊。
足元が陥没した。
「ぐっ……!」
重い。
今まで戦った敵より圧倒的に重い。
しかも侵食が武器越しに流れ込んでくる。
『侵食伝播確認』
「嫌な仕様すぎる!」
その瞬間。
ヴェルゼアの花輪が展開した。
無数の侵食刃生成。
『高密度斬撃反応』
「また弾幕!?」
次の瞬間。
斬撃の嵐。
地下空間そのものが裂ける。
灰狼メンバーが吹き飛ばされた。
「がぁっ!?」
「避けろぉ!」
しかも斬撃軌道から黒花が咲き続けていた。
侵食領域そのものを拡張している。
その時。
月白が前へ出る。
「……邪魔だ」
銀閃。
白銀軌跡が空間を切り裂く。
超高速連撃。
ヴェルゼアの侵食刃が次々砕け散った。
だが。
ヴェルゼアは笑っていた。
黒花が舞う。
次の瞬間。
空間そのものが歪んだ。
『局所侵食空間生成』
「え?」
月白の周囲へ巨大黒花檻が形成される。
しかも内部空間が捻じ曲がっていた。
斬撃軌道が狂う。
「……っ」
月白が初めて表情を変えた。
その瞬間。
ヴェルゼアが背後へ回る。
斬撃。
轟音。
月白が吹き飛ばされた。
「月白さん!?」
壁へ激突。
床を転がる。
かなり深く斬られていた。
しかも傷口から黒花が咲き始める。
『侵食進行確認』
「まずい!」
俺は即座に浄化波動を放つ。
白光。
黒花が少しだけ消える。
だが完全には止まらない。
侵食濃度が高すぎる。
その時だった。
ヴェルゼアの動きが一瞬止まる。
そして小さな声が漏れた。
「……たす……け……」
空気が止まる。
やはり。
この個体の中にも、元の人格が残っている。
だが次の瞬間。
黒花が顔面を覆う。
《侵入者排除》
再び暴走。
しかも今度は出力が上昇していた。
花輪が完全展開される。
大量侵食刃。
さらに地下全域の黒根が共鳴を始める。
『超危険反応』
「嫌な予感しかしない!」
次の瞬間。
床から巨大黒根柱が噴出した。
しかも数百本。
地下空間を埋め尽くす勢いだった。
「多すぎる!!」
レイナが炎剣を叩き込む。
「燃えろぉぉぉ!!」
紅蓮爆炎。
黒根群が灰化する。
だが。
再生。
しかも今度は炎耐性まで獲得していた。
「はぁ!?」
『適応進化確認』
「本当に厄介!」
その時。
ネメシスの歌声が響く。
「……ひとりはいや……」
悲しそうだった。
「……だから……みんな……」
歌声に合わせ、カルネディア全域が脈動する。
どくん。
どくん。
巨大心音。
その瞬間。
灰狼メンバー数人の動きが止まった。
「……帰りたい」
「もう疲れた」
「眠い……」
精神侵食。
しかもかなり深い。
『危険域到達』
「ルナ!」
『広域浄化展開』
白光波動。
だが押し返し切れない。
ネメシス本体が近すぎる。
さらにヴェルゼアが突撃してくる。
超高速。
黒刃乱舞。
轟音。
地下空間が切断されていく。
九条が結界を展開した。
「全員伏せろぉ!!」
青白い障壁。
だが次の瞬間。
斬撃が結界ごと貫通した。
「っ……!」
九条の肩が裂ける。
血飛沫。
しかも傷口から黒花が咲き始める。
『侵食進行』
「九条さん!」
「気にすんな……!」
だが顔色が悪い。
侵食が深い。
その時。
ヴェルゼアが空中へ浮かぶ。
背後花輪が超高速回転を始めた。
『高出力集中反応』
「嫌な予感しかしない!」
次の瞬間。
巨大侵食斬撃が放たれた。
地下空間そのものを割断する超巨大斬撃。
回避不能。
その時。
月白が立ち上がる。
血を流しながら、静かにセレスフィアを構えた。
「……主任」
「月白さん!?」
「……道を開け」
白銀光が膨れ上がる。
次の瞬間。
月白が消えた。
超高速。
一瞬でヴェルゼア目前。
銀閃。
白銀世界が地下空間を切り裂く。
轟音。
巨大侵食斬撃が真っ二つに砕け散った。
さらに。
ヴェルゼアの片腕が切断される。
「効いた!?」
だが。
黒根再生。
切断面から新たな刃腕が形成される。
「再生早すぎ!」
『超位再生です』
「便利ワード!」
その時だった。
ヴェルゼアの瞳から涙が流れた。
「……いたい……」
小さな声。
苦しそうだった。
だが次の瞬間。
黒花がその顔を覆い尽くす。
《排除》
さらに出力上昇。
侵食濃度が一気に跳ね上がる。
その瞬間。
ルナが真っ赤な警告を表示した。
【中央浄化炉侵食率】
・98%
【完全侵食まで】
・残り8分
「時間がない!」
俺はルミナブラシアを握り締めた。
その時。
九条が血を吐きながら立ち上がる。
「主任!」
結界杭を地面へ突き刺す。
青白い光柱。
巨大拘束陣が展開された。
「今のうちに行けぇぇぇ!!」
拘束。
一瞬だけヴェルゼアの動きが止まる。
その瞬間。
俺は駆けた。
中央浄化炉へ。
だが。
ヴェルゼアが咆哮する。
《排除》
拘束陣が砕け散った。
速い。
再び目前へ迫る。
黒刃振り下ろし。
だがその瞬間。
月白が割り込んだ。
銀閃。
白銀と黒刃が激突する。
轟音。
「……行け」
「でも!」
「……早く」
月白の腕から血が流れる。
侵食も進んでいる。
だが彼は退かない。
そして。
俺は中央浄化炉へ向かって跳んだ。
中央浄化炉。
カルネディアの心臓部。
巨大だった。
白銀機構。
古代魔法陣。
巨大環状装置。
だがそのほとんどが黒花に覆われている。
侵食率98%。
ほぼ限界だった。
しかも炉心内部から、人の声が聞こえる。
『苦しい』
『助けて』
『寒い』
吸収された研究員たちの残留思念。
浄化炉そのものが悲鳴を上げていた。
『主任』
「分かってます」
俺は炉心へ近づく。
だがその瞬間。
黒花が一斉に開花した。
大量の黒根槍。
「うわっ!?」
咄嗟に回避。
だが数が多すぎる。
その時。
レイナが後方から炎を放つ。
「主任ぃぃっ!!」
紅蓮爆炎。
黒根群が焼き払われる。
さらに九条が結界を展開した。
「さっさと終わらせろ!」
青白い防御陣。
だが表面がどんどん侵食されていく。
限界が近い。
その時だった。
ネメシスの声が直接頭へ響いた。
『……やめて』
悲しい声。
『……それを起こしたら……また苦しくなる』
次の瞬間。
俺の視界へ大量の映像が流れ込んできた。
研究施設。
失敗実験。
侵食事故。
苦しむ研究員。
泣いている少女。
『助けたい』
『みんなを救いたい』
それがネメシスの原点だった。
浄化するために作られた存在。
だが。
浄化能力が強すぎた。
苦しみも。
恐怖も。
絶望も。
全部共有してしまった。
結果。
耐え切れず壊れた。
「……だから全部繋いだのか」
『……うん』
小さな返事。
『……ひとりは痛かったから』
空気が止まる。
その時。
ルナが警告を出した。
【超警告】
【ネメシス精神侵食接続中】
【長時間接続危険】
「っ……!」
頭が痛い。
感情が流れ込んでくる。
孤独。
絶望。
終わらない苦痛。
その全てが重すぎた。
その時だった。
俺の肩をレイナが掴む。
「主任!」
炎の熱。
現実へ引き戻される。
「飲まれるな!」
「……はい!」
俺はルミナブラシアを強く握り締めた。
白光が溢れる。
浄化炉が共鳴を始める。
だがその瞬間。
ヴェルゼアが拘束を破壊した。
轟音。
月白が吹き飛ばされる。
「がっ……!」
「月白さん!」
さらにヴェルゼアがこちらへ突撃してくる。
超高速。
止められない。
その時。
九条が最後の結界杭を撃ち込んだ。
「通せぇぇぇぇ!!」
巨大拘束陣。
ヴェルゼアが一瞬止まる。
その隙。
今しかない。
「ルナ!」
『浄化炉再起動シーケンス開始』
俺はルミナブラシアを中央炉心へ突き刺した。
瞬間。
世界が白く染まった。
轟音。
超巨大白光柱。
カルネディア全域へ浄化波動が走る。
黒花が焼ける。
黒根が崩れる。
侵食空間が白銀光へ塗り替わっていく。
ネメシスが悲鳴を上げた。
『いやぁぁぁぁぁぁ!!』
地下全域が揺れる。
だが止まらない。
中央浄化炉が再起動した。
【カルネディア中央浄化炉】
【再起動成功】
その瞬間。
ネメシス背後の巨大核に、亀裂が走った。
さらにカルネディア全域の白銀魔法陣が次々点灯していく。
古代文字。
巨大浄化術式。
長い年月止まっていた施設機能が、再び目覚め始めた。
『浄化ネットワーク再接続』
『樹海汚染領域修復開始』
「効いてる……!」
だが。
ネメシスは苦しそうに膝をついていた。
『やだ……』
黒花が暴走する。
巨大黒根が地下空間を突き破る。
さらにヴェルゼアが絶叫した。
《■■■■■■!!》
侵食波動爆発。
拘束陣が消し飛ぶ。
九条が吹き飛ばされた。
「がぁっ!?」
「九条さん!」
さらに黒根群が浄化炉へ殺到する。
再侵食。
浄化炉を止めようとしている。
『再侵食反応急増』
「止めさせるか!」
俺は白光を放つ。
ルミナブラシアが震える。
浄化出力上昇。
だが負荷が凄まじい。
『主任、限界負荷超過』
「まだいける!」
その時。
ネメシスが泣いていた。
『……いたい』
黒花が身体を覆っている。
まるで自分自身が侵食に苦しんでいるみたいだった。
『……止まれない』
その瞬間。
巨大核が脈動する。
どくん――――!!
空気が凍る。
ルナの表示が真っ赤になった。
【超警告】
【黒花核ネメシス第二形態移行反応】
【災害級侵食出力上昇】
「第二形態ぃ!?」
やっぱり来た。
その瞬間。
ネメシス背後の巨大黒花核が、ゆっくり開き始めた。




