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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第二十一話 黒花女王ネメシス

カルネディア最深部の壁が、内側から“押し潰された”。


 轟音。


 超重量。


 分厚い古代合金壁が、紙みたいに歪む。


 しかも壁面に黒い花紋が広がっていた。


 どくん。


 どくん。


 巨大心音。


 施設全体が脈打っている。


「……来る」


 月白が低く呟く。


 その声だけが妙に静かだった。


 だが彼の握るセレスフィアからは、白銀粒子が溢れている。


 警戒している。


 月白がここまで警戒する相手は珍しい。


 次の瞬間。


 壁が崩壊した。


 爆煙。


 黒花弁。


 大量の黒根が濁流みたいに噴き出してくる。


 灰狼メンバーが吹き飛ばされた。


「ぐぁっ!?」


「伏せろ!!」


 さらに空気が変わる。


 重い。


 息がしづらい。


 肺へ泥を流し込まれたみたいな圧迫感。


 立っているだけで意識を削られる。


『超高密度精神侵食領域』


「本体……!」


 その瞬間だった。


 黒根の海の中心から、ゆっくり“それ”が現れる。


 最初に見えたのは、白い足だった。


 裸足。


 透き通るように白い。


 だが足元から黒花が咲いている。


 次に、長い銀髪。


 そして。


 少女の姿。


 年齢は十代半ばほど。


 白い肌。


 赤黒い瞳。


 黒花のドレスみたいな侵食装甲を纏っている。


 だが。


 背後。


 そこだけは異常だった。


 巨大。


 あまりにも巨大。


 無数の黒根と花弁が、まるで羽みたいに広がっている。


 しかも、その中心に巨大核が脈動していた。


 どくん。


 どくん。


 核が脈打つたび、施設全域の侵食濃度が上昇していく。


【名称】:黒花女王ネメシス

【種別】:文明侵食中枢生命体

【汚染分類】:超位侵食存在

【汚れ度】:測定不能


【特徴】

・超広域精神侵食

・生命融合

・樹海全域制御

・浄化反転

・侵食進化

・眷属生成


【備考】

樹海災害そのもの。


 誰も動けなかった。


 圧力が違う。


 存在感だけで空間が歪んでいる。


 しかもネメシスは、悲しそうな顔をしていた。


「……どうして」


 小さな声。


「……どうして壊すの?」


 その瞬間。


 灰狼メンバー数人の瞳が濁った。


「……え?」


「な、んだ……?」


 精神侵食。


 しかも視界共有型。


 ネメシスの感情が直接流れ込んでくる。


 孤独。


 恐怖。


 寂しさ。


 苦痛。


 あまりにも強い感情だった。


 頭が揺れる。


 心が沈む。


 まるで自分自身の感情みたいに流れ込んでくる。


『精神防壁推奨』


「ルナ、補助!」


『実行』


 白光波動が広がる。


 だが押し切れない。


 ネメシスの精神出力が高すぎる。


 その時。


 ネメシスがゆっくり俺を見る。


「……あなた」


 赤黒い瞳。


 真っ直ぐこちらを見ていた。


「……どうして、まだ壊れてないの?」


「……え?」


「……みんな、すぐ壊れたのに」


 その言葉に、胸が重くなる。


 きっとネメシスは、何度も見てきたんだ。


 侵食される人。


 壊れる人。


 狂っていく研究員。


 死んでいく仲間。


 全部。


 その結果、歪んだ。


 その瞬間。


 ネメシスの周囲に黒花弁が展開される。


 空中に無数の花刃が生成された。


『超高密度侵食反応』


「来る!」


 直後。


 花刃の雨。


 轟音。


 地下空間が切り裂かれる。


 灰狼メンバーが必死に回避する。


 だが速い。


 一撃一撃が致命傷級。


 しかも斬られた場所から黒花が咲き始める。


「ぐっ……!」


「腕が侵食される!」


 その時だった。


 月白が前へ出る。


 セレスフィアが白銀光を放つ。


「……散れ」


 銀閃。


 無数の花刃が同時に切断される。


 だが。


 ネメシスは静かに手を振る。


 すると切断された花刃が再生した。


「再生した!?」


『物質生成型です』


「嫌なタイプ!」


 しかも再生速度が異常だった。


 まるで無限に生成している。


 その瞬間。


 ネメシスの背後で巨大黒根が蠢いた。


 次の瞬間。


 地面から新たな怪物が出現する。


 巨大。


 人型。


 だが全身が花と根脈で形成されている。


 顔が無い。


 その代わり胸部に巨大眼球が存在していた。


【名称】:花骸巨兵オルディナ

【種別】:樹海守護兵

【汚染分類】:超大型融合体

【汚れ度】:EX+


【特徴】

・超重量攻撃

・広域侵食波

・高耐久再生

・精神咆哮

・超大型侵食砲


【備考】

ネメシス直属守護体。


「また増えたぁ!?」


 オルディナが咆哮する。


 空気震動。


 精神衝撃。


 灰狼メンバーの数人が膝をついた。


「頭……痛ぇ……!」


 しかもその隙に、黒根群が身体へ絡みつこうとする。


「動け!」


「侵食されるぞ!」


 完全に総力戦だった。


 その時。


 ネメシスが小さく首を傾げる。


「……なんで抵抗するの?」


「……一緒になれば、終わるのに」


 悲しそうだった。


 本当に。


 まるで理解できないみたいに。


 その瞬間。


 俺の頭へ映像が流れ込んできた。


 白い研究室。


 孤独な少女。


 周囲の研究員。


『浄化率上昇』


『成功だ!』


『ネメシスは完璧だ!』


 次の映像。


 研究員が苦しんでいる。


 侵食。


 暴走。


 そして。


『助けて』


 少女が泣いていた。


『どうしてみんな壊れるの?』


 空気が止まる。


 つまり。


 ネメシスは最初から怪物だったわけじゃない。


 作られた。


 しかも“救うため”に。


 その結果、壊れた。


 研究員たちも。


 施設も。


 全部。


「……だからって」


 俺はルミナブラシアを握り締める。


「全部取り込んでいい理由にはならない」


 ネメシスが悲しそうに目を細めた。


「……そっか」


 その瞬間。


 巨大侵食波動が解放された。


 轟音。


 白黒衝撃波が地下空間を吹き飛ばす。







轟音。


 白黒衝撃波が地下空間を飲み込んだ。


 床が砕ける。


 壁が崩れる。


 カルネディア全域が揺れていた。


「防げぇぇぇ!!」


 九条が結界を展開する。


 青白い多重障壁。


 だが次の瞬間、表面が黒く染まり始めた。


 侵食。


 しかも結界そのものを侵食している。


「っ、持たねぇ……!」


 衝撃。


 障壁が粉砕された。


 灰狼メンバーが吹き飛ばされる。


「ぐぁっ!」


「主任!!」


 レイナが俺を庇う。


 だが彼女の腕へ黒筋が浮かんだ。


『侵食率上昇』


「レイナさん!」


「平気……まだ動ける!」


 平気ではなさそうだった。


 侵食速度が早い。


 しかもネメシス本体が近すぎる。


 その時。


 花骸巨兵オルディナが前進する。


 一歩。


 それだけで床が陥没した。


 超重量。


 しかも巨体の周囲に黒花嵐が渦巻いている。


『高濃度侵食障壁』


「硬いやつですね!?」


『かなり』


 次の瞬間。


 オルディナの胸部眼球が赤く発光した。


『高出力反応』


「またビーム!?」


 極太侵食光線。


 轟音。


 地下通路が丸ごと消し飛ぶ。


 しかも着弾地点から巨大黒花が咲き始めた。


「地形変わってる!」


 かなり理不尽だった。


 その時。


 月白がオルディナへ突撃する。


 銀閃。


 セレスフィアが白銀軌跡を描く。


 超高速連撃。


 だが。


 オルディナの巨腕がそれを受け止めた。


 轟音。


 衝撃波。


「止めた!?」


『高適応再生型です』


 しかも切断された部分から黒花が咲き、即座に再生する。


 再生速度が異常だった。


 さらにネメシスが静かに歌い始める。


「……ねむれ……」


 甘い歌声。


 だが聞いた瞬間、意識が沈む。


 視界が霞む。


 身体が重い。


『精神侵食増幅』


「また精神攻撃!?」


 しかも今度は広域。


 灰狼メンバーの一人が武器を落とした。


「もう……疲れた……」


 その瞳が濁る。


 黒花が肩に咲き始めた。


「まずい!」


 俺は即座に浄化波動を放つ。


 白光。


 黒花が消滅する。


 だが完全には間に合わない。


 侵食速度が上がっている。


 周囲を見れば、灰狼メンバー全員が消耗していた。


 呼吸が荒い。


 汗が止まらない。


 侵食濃度が高すぎる。


 その時だった。


 ルナが新たな解析を表示した。


【カルネディア中心部解析完了】


【現在状況】

・施設全域がネメシスと融合中

・浄化炉ネットワーク停止寸前

・地下深度侵食率91%


【推奨】

《中央浄化炉再起動》


「中央浄化炉?」


『施設最深部に存在』


「つまりネメシスの近く!」


『はい』


「嫌だなぁ!」


 だが、それしかない。


 中央浄化炉を再起動できれば、カルネディア本来の浄化機能が戻る。


 つまりネメシスを弱体化できる可能性がある。


 その時。


 ネメシスがこちらを見た。


「……行かせない」


 次の瞬間。


 周囲の黒花が一斉に開花した。


 そこから大量の人影が立ち上がる。


 探索者。


 研究員。


 古代兵士。


 全員が黒根に侵食されている。


【名称】:黒花眷属レギオン

【種別】:侵食従属体

【汚染分類】:群体侵食型

【汚れ度】:SS〜SSS


【特徴】

・集団侵食

・再生

・精神共有

・自爆侵食


【備考】

ネメシスに吸収された者たち。


「数、多っ!?」


 地下空間を埋め尽くすほどだった。


 完全に軍勢。


 しかも全員が再生する。


 かなり最悪。


 さらにレギオンたちは同時に叫び始めた。


「いっしょに」


「さみしくない」


「つながろう」


 声が揃っている。


 完全に精神共有されていた。


 その時。


 ネメシスが悲しそうに呟く。


「……もう、ひとりは嫌なの」


 空気が止まる。


「……だから……みんな一緒になればいい」


 孤独。


 それが根本だった。


 だが。


 だからといって許されない。


 その瞬間。


 俺はルミナブラシアを強く握った。


「……掃除します」


 白光が爆発する。


 さらに灰狼メンバーも武器を構え直した。


 九条が笑う。


「やるしかねぇな」


 レイナが炎を纏う。


「こんな樹海、燃やし尽くす!」


 月白が静かに剣を構える。


「……道を開く」


 そして。


 カルネディア最深部への突入戦が始まった。

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