第二十話 浄化炉奪還戦
轟音。
世界が白黒に染まった。
浄化と侵食が混ざり合った砲撃が、カルネディア地下区画を一直線に貫いていく。
壁が消し飛ぶ。
床が蒸発する。
空気そのものが裂けた。
「伏せろぉぉっ!!」
九条の絶叫。
巨大結界が展開される。
だが次の瞬間、障壁表面が白黒に染まり始めた。
浄化と侵食。
本来相反する力同士が、無理やり融合している。
そのせいで結界の構造そのものが狂っていた。
「っ、結界が壊れる……!」
九条の額から汗が流れる。
しかもディアベルの砲撃は止まらない。
白黒の奔流が結界を削り続ける。
『障壁崩壊予測』
「何秒!?」
『八秒』
「短っ!?」
その瞬間。
月白が前へ出た。
セレスフィアが白銀光を放つ。
「……断て」
銀閃。
空間そのものを切断するような斬撃。
次の瞬間、砲撃の軌道が逸れた。
白黒の奔流が天井へ突き刺さる。
轟音。
地下空間が崩壊し始めた。
「うわぁぁっ!?」
巨大岩盤が落下する。
灰狼メンバーが散開。
しかも落ちてくる瓦礫にまで黒根が絡みついていた。
侵食されている。
かなり嫌。
その時だった。
花装殲機ディアベルがゆっくり歩き出す。
重い。
だが速い。
四メートル級の巨体とは思えない機動だった。
白銀装甲の隙間から黒花弁が咲いている。
まるで機械と植物の融合体。
【名称】:花装殲機ディアベル
【種別】:ネメシス融合機兵
【汚染分類】:機械植物融合型
【汚れ度】:EX
【特徴】
・高出力侵食砲
・花刃近接戦
・精神波動
・自己修復
・浄化侵食反転
【備考】
カルネディア最終防衛機構の成れの果て。
「浄化侵食反転って何ですか!?」
『主任の天敵です』
「嫌すぎる!」
その瞬間。
ディアベルの花刃が展開される。
巨大な黒白刃。
しかも刃の周囲だけ空間が歪んでいた。
『高圧縮エネルギー確認』
「つまり危険!」
『かなり』
次の瞬間。
ディアベルが消えた。
「っ!?」
速い。
次の瞬間には九条の目前へ迫っていた。
花刃一閃。
轟音。
九条の結界ごと床が切り裂かれる。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされる九条。
しかも切断面から黒根が増殖し始めた。
「侵食まで!?」
かなり理不尽だった。
その時。
レイナが炎剣を構える。
「だったら焼き切る!」
紅蓮爆炎。
巨大炎斬撃がディアベルへ叩き込まれた。
轟音。
火炎が地下空間を埋め尽くす。
だが。
炎の中からディアベルが歩いて出てきた。
装甲が一部溶けている。
しかし次の瞬間、黒花弁が蠢き始めた。
再生。
「うそでしょ!?」
『自己修復機能確認』
「本当に嫌!」
しかも再生速度が速い。
傷口から黒根が伸び、金属を編み直している。
完全に生物化していた。
その時だった。
ディアベルの頭部装甲が開く。
内部から赤黒い光核が露出した。
どくん。
脈動。
その瞬間、頭の中へ大量の声が流れ込んできた。
「たすけて」
「くるしい」
「いやだ」
「とめて」
人間の声。
しかも複数。
「っ……!」
頭痛。
灰狼メンバーが膝をつく。
「なんだこれ……!」
『精神波動です』
さらにディアベル内部の声が続く。
「わたしたちは……カルネディア管理班……」
空気が止まった。
「え……?」
「この声……」
ルナが解析する。
【内部生体反応確認】
【複数人間意識残留】
「中に人がいるの!?」
『はい』
かなり最悪だった。
つまりディアベルは完全な機械じゃない。
カルネディアの職員たちが融合させられている。
その時だった。
ディアベルが苦しそうに頭を押さえる。
機械音声と人間の悲鳴が混ざる。
《……排除……》
「いや……止めて……!」
《侵入者排除》
「助けて……!」
人格が混線している。
完全に暴走状態だった。
その瞬間。
ネメシスの声が響いた。
「……返して……」
甘い声。
だが底知れなく冷たい。
「……その子たちを……返して……」
ディアベルの光核が赤く脈動する。
次の瞬間。
周囲の黒根が一斉に暴走した。
床。
壁。
天井。
全部から黒蔦が噴き出す。
「囲まれた!?」
『施設全域侵食進行』
しかも黒根は機械群へ接続していく。
停止していたアルケイン。
壊れた浄化装置。
全部が再起動し始めた。
《侵入者確認》
《排除開始》
「増えたぁ!?」
完全に物量戦だった。
灰狼メンバーが必死に応戦する。
だが数が多い。
しかも浄化兵器なのに侵食まで混ざっている。
相性が悪すぎる。
その時。
俺はディアベル内部に違和感を見つけた。
光核中心部。
白い浄化炉。
その周囲だけ黒根侵食が薄い。
「……まだ残ってる」
『純正浄化核確認』
つまり完全には侵食されていない。
助けられる可能性がある。
「主任?」
「この機体、まだ止められます!」
その瞬間。
ディアベルがこちらを向いた。
赤黒い単眼。
そして内部から、か細い声が聞こえた。
「……たすけ……て……」
次の瞬間。
ディアベルの胸部装甲が展開する。
超高密度白黒光が収束し始めた。
『超大型砲撃反応』
「まずい!」
空気が震える。
地下空間そのものが崩壊し始めた。
しかも今までより出力が高い。
ネメシスが直接エネルギー供給している。
その時だった。
ルナが新たな解析を表示する。
【光核浄化率が一定以上到達した場合】
【ディアベル停止可能】
【ただし】
・超近距離接触必要
・砲撃直撃リスクあり
「つまり突っ込めってことですか!?」
『はい』
「命令が雑!」
だがやるしかなかった。
このままでは全滅する。
俺はルミナブラシアを握り締めた。
白光が溢れる。
「……絶対、助けます」
その瞬間。
ディアベルの砲撃が放たれた。
白黒の極光が地下空間を貫いた。
轟音。
床が蒸発する。
壁面魔法陣が消し飛ぶ。
カルネディアそのものが悲鳴を上げていた。
「主任ぃぃっ!!」
レイナの叫び。
だが俺は止まらなかった。
「【浄化加速】!」
白光を纏い、一気に突っ込む。
迫る白黒砲撃。
熱い。
痛い。
しかも浄化と侵食が混ざっているせいで、防御が成立しづらい。
普通の結界なら一瞬で崩壊する。
だが。
見える。
砲撃内部の流れ。
浄化因子。
侵食因子。
混線ポイント。
「そこっ!!」
ルミナブラシアを叩き込む。
白光炸裂。
次の瞬間。
砲撃の一部が弾け飛んだ。
「割れた!?」
『浄化干渉成功』
その隙を突き、俺はさらに加速する。
ディアベルまであと数メートル。
だがその瞬間。
床から巨大黒根が噴出した。
「うわっ!?」
回避。
だが次々に来る。
まるで侵入を阻止する壁だった。
さらに周囲では灰狼メンバーが機兵群と交戦している。
アルケイン部隊。
ゼルヴァード。
侵食浄化兵器。
数が多すぎる。
九条が結界を展開しながら叫ぶ。
「主任! 今のうちに行け!」
「でもそっちが!」
「気にするな!」
その瞬間。
九条の結界へ浄化砲が直撃した。
轟音。
結界が砕け散る。
「がっ……!」
「九条さん!」
だが九条は無理やり立ち上がる。
「後で請求書回すからな……!」
「絶対高いやつ!」
その時だった。
レイナが炎剣を地面へ突き立てる。
「道作るよ!」
紅蓮爆炎。
炎の奔流が黒根群を焼き払う。
一直線の突破路。
「今!」
「助かります!」
俺は一気に駆ける。
ディアベルの目前。
巨大すぎる。
装甲の隙間から黒花弁が咲き乱れている。
しかも内部から苦しそうな声が漏れていた。
「たすけて……」
「いやだ……」
「止まれない……」
カルネディア職員たち。
まだ意識が残っている。
その時。
ネメシスの声が響く。
「……どうして……邪魔するの……?」
空気が重くなる。
「……みんな苦しかった……」
「……だから、つないであげたのに……」
悲しそうな声だった。
怒りじゃない。
本気で“救済”だと思っている。
だから余計に危険だった。
その瞬間。
ディアベルの胸部装甲が完全展開する。
内部。
白い浄化炉。
だがその半分以上を黒根が覆っている。
『中枢露出確認』
「行きます!」
俺は跳んだ。
直後。
ディアベルの巨大花刃が振り下ろされる。
轟音。
紙一重で回避。
だが衝撃だけで吹き飛ばされる。
「がっ……!」
床を転がる。
痛い。
かなり痛い。
しかも侵食が身体へ入り込んでくる。
『侵食率上昇』
「まだ動けます……!」
立ち上がる。
その時だった。
月白が前へ出た。
セレスフィアが白銀光を放つ。
「……道は作る」
次の瞬間。
超高速斬撃。
銀閃がディアベルの腕部を切断した。
さらに九条が結界杭を撃ち込む。
「止まれぇぇぇ!!」
青白い拘束陣。
ディアベルの動きが止まる。
そこへレイナの炎が叩き込まれる。
「主任ぃぃっ!!」
全員が道を作ってくれている。
なら。
応えるしかない。
俺はルミナブラシアを握り締めた。
白光が爆発的に膨れ上がる。
「【中枢浄化】ぁぁぁぁっ!!」
ルミナブラシアが浄化炉へ突き刺さった。
瞬間。
世界が白く染まった。
轟音。
衝撃波。
地下施設全体が揺れる。
ディアベルの巨体が大きく痙攣した。
《――――ッ!?》
機械音声と人間の悲鳴が重なる。
黒根が暴れ始めた。
装甲内部を這い回り、浄化炉を守ろうとする。
『侵食側が抵抗しています』
「離れろぉぉっ!!」
俺はさらに浄化出力を上げる。
白光が奔流みたいに溢れた。
その瞬間。
黒根の一部が灰化する。
さらに内部で白い光が点灯した。
《……浄化炉……再起動……》
「効いてる!」
だが次の瞬間。
ネメシスの絶叫が響いた。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
空気が震える。
施設全体の黒根が暴走した。
壁を突き破る。
床を砕く。
さらに地下天井から巨大花弁が咲き始める。
完全に施設が侵食生物化していた。
『ネメシスが直接干渉しています』
「分かります!」
その瞬間。
ディアベルの胸部から黒蔦が噴出した。
俺を貫こうと迫る。
だが。
レイナが割り込んだ。
「主任には触らせない!!」
炎剣一閃。
黒蔦が焼き払われる。
さらに灰狼メンバーが次々と前へ出る。
「時間稼ぐぞ!」
「主任が核を止めるまで耐えろ!」
機兵群との激突。
轟音。
火花。
浄化砲と魔術が飛び交う。
完全に総力戦だった。
しかも侵食濃度がどんどん上がっている。
灰狼メンバーの腕へ黒筋が浮かぶ。
侵食開始。
「っ……!」
「まずい……!」
『精神侵食率上昇』
「ルナ、浄化補助!」
『了解』
ルミナブラシアから白波動が広がる。
侵食が少しだけ押し返される。
だが焼け石に水だった。
ネメシスの出力が高すぎる。
その時。
ディアベル内部から、か細い女性の声が聞こえた。
「……お願い……」
苦しそうな声。
「……炉心を……完全浄化して……」
「あなたは……?」
「カルネディア……管理主任……」
空気が止まる。
この人。
まだ中にいる。
しかも意識を保っている。
「……ずっと……止めてた……」
その声は震えていた。
「でも……もう限界……」
直後。
黒根が女性の声を掻き消す。
《侵入者排除》
《侵入者排除》
ディアベルが再び暴走する。
拘束陣を無理やり引き千切った。
「うそだろ!?」
巨大花刃が展開される。
しかも今度は複数。
黒白混合刃が高速回転し始めた。
『超危険近接形態』
「形態変化するんですか!?」
次の瞬間。
ディアベルが突進した。
速い。
巨体とは思えない。
花刃乱舞。
空間そのものが裂ける。
九条の結界が一撃で崩壊した。
「ぐぁっ!?」
レイナの炎剣も弾き飛ばされる。
「っ……!」
しかも斬られた床から黒花が咲き始める。
侵食拡散。
かなり最悪だった。
その時だった。
月白が静かに前へ出る。
セレスフィアが白銀光を放つ。
「……邪魔だ」
銀閃。
次の瞬間。
ディアベルの花刃二本が同時に切断された。
「えっ」
『相変わらずおかしい強さです』
「知ってます!」
だが月白の呼吸も荒い。
長時間戦闘で消耗している。
しかも侵食濃度が高すぎる。
その時。
ネメシスの声が再び響いた。
「……どうして……そこまでして……」
悲しそうだった。
「……みんな……苦しかったのに……」
その声を聞いて、俺は気づく。
ネメシスは悪意だけじゃない。
本気で救済しようとしている。
だからこそ歪んだ。
浄化しようとして、全部取り込んでしまった。
その結果が今。
「……だったら」
俺はルミナブラシアを握り直す。
「間違った掃除は、やり直さないといけません」
白光が爆発する。
ディアベル内部の浄化炉が共鳴した。
さらに施設全体の白銀魔法陣が点灯していく。
『カルネディア浄化機構再起動開始』
「え?」
次の瞬間。
施設天井から巨大白光柱が降下した。
その中心で。
ディアベルが苦しそうに叫ぶ。
《浄化率上昇――――》
《侵食維持不能――――》
黒根が崩れ始めた。
だが同時に。
地下最深部から、今までで最大の脈動が響く。
どくん――――!!
空気が凍る。
ルナの表示が真っ赤になった。
【警告】
【黒花核ネメシス、本体移動開始】
「……え?」
次の瞬間。
カルネディア最深部の壁が、内側から“押し潰された”。




