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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第十七話 黒花暴走

ヴェルドガルム頭部の黒花が完全に開いた。


 その瞬間。


 森全体が咆哮した。


 どくん――!!


 空気が震える。


 地面の下を巨大な汚染流動が駆け巡り、樹海全域の木々が一斉に脈打ち始めた。


 枝が軋む。


 根が蠢く。


 黒い胞子が吹雪みたいに舞い始める。


 次の瞬間。


 黒花中心部から、超高濃度の胞子嵐が爆発した。


「っ!!」


 視界が真っ黒になる。


 呼吸するだけで肺が焼ける。


 しかもただの毒じゃない。


 吸い込んだ瞬間、身体の内側へ“汚染”が入り込んでくる。


 魔力回路を直接汚されている感覚だった。


『広域侵食モード移行を確認』


「そんなモードいらないんですよ!」


 九条が叫ぶ。


 青白い結界が胞子嵐を防いでいるが、その表面はすでに黒く侵食され始めていた。


 じゅううう、と嫌な音が鳴る。


 しかも侵食速度が速い。


「これ……普通の結界じゃ持たない!」


「どれくらい耐えられますか!?」


「三分!」


「短っ!?」


 かなり危険だった。


 その時。


 周囲の木々が一斉に変異を始めた。


 枝が人の腕みたいに伸びる。


 樹皮が裂け、赤黒い眼球が現れる。


 さらに幹の内部から、人型の何かが這い出してきた。


【名称】:胞魔樹兵ボルグネア

【種別】:胞子変異兵

【汚染分類】:群体侵食型

【汚れ度】:A

【特徴】:集団増殖/胞子噴射/自爆侵食

【備考】:かなり数が多い。


「増えすぎだろ!?」


 レイナが叫ぶ。


 実際、数が異常だった。


 十体。


 二十体。


 いや、それ以上。


 樹海全体から湧いてくる。


 しかも一体一体が胞子源になっていた。


 近づくだけで侵食される。


 灰狼メンバーの一人が剣でボルグネアを斬り払う。


 だが次の瞬間。


 破裂。


 黒胞子が爆発みたいに噴き出した。


「うわっ!?」


 侵食開始。


 黒い筋が腕へ広がっていく。


「まずい!」


 だが次の瞬間。


 月白が一閃した。


 銀線。


 寄生蔦だけが綺麗に切断される。


「主任」


「はい!」


 俺は即座に浄化を叩き込む。


「【局所浄化】!」


 白光。


 侵食が消える。


 灰狼メンバーが荒く息を吐いた。


「助かった……」


 だが安心する暇はない。


 ボルグネアは止まらなかった。


 次々と押し寄せてくる。


 しかも以前より変異が進んでいる。


 腕が刃になった個体。


 背中から胞子砲を生やした個体。


 四足歩行で高速移動する個体。


 完全に進化していた。


「キリないですねこれ!」


「根本止めないと無限湧きだ!」


 その時だった。


 ルナが新たな解析を表示する。


【中枢核解析進行】

【樹海中核位置を特定】


・地下深度:約300m

・超高濃度汚染反応あり


【備考】

森そのものの本体。


「地下か……!」


 つまりヴェルドガルムですら端末。


 本当の本体は地下。


 かなり根深い。


 その瞬間、ヴェルドガルムが咆哮した。


 背中の胞子袋が膨張する。


 まずい。


 次が来る。


『超高密度胞子砲撃反応』


「砲撃!?」


 次の瞬間。


 黒い極太奔流が放たれた。


 胞子の砲撃。


 一直線にこちらへ迫る。


「九条さん!」


「防ぐ!!」


 巨大結界が展開される。


 轟音。


 青白い障壁が大きく軋む。


 黒い侵食が一気に広がった。


「ぐっ……!」


 九条の額から汗が流れる。


 限界が近い。


 しかも胞子砲撃は一発じゃなかった。


 第二射。


 第三射。


 黒い濁流が連続で叩きつけられる。


 結界が悲鳴みたいな音を立て始めた。


「主任、このままじゃ持たない!」


 さらに地面の下から黒根が噴出した。


 槍みたいに鋭い。


 しかも数が多い。


 灰狼メンバーの一人が脚を貫かれた。


「があっ!?」


 瞬間、黒蔦が身体へ侵食していく。


 かなり速い。


「主任!」


「分かってます!」


 俺は即座に駆け寄った。


 星掃杖ルミナブラシアを振るう。


「【浄化】!」


 白光。


 黒蔦が焼けるように消える。


 だが侵食速度が速すぎる。


 浄化しても別方向からまた侵食が来る。


 その時だった。


 周囲の木々から呻き声が響き始めた。


「たすけて……」


「いやだ……」


「かえりたい……」


 人間の声だった。


 灰狼メンバーの動きが止まる。


「この声……」


 レイナが青ざめた。


「行方不明になった探索者たち……」


 まだ意識が残っている。


 つまり。


 樹海は人間を苗床にしている。


 しかも完全には殺していない。


 意識だけ残したまま取り込んでいる。


 かなり最悪だった。


 灰狼の若い探索者が震えた声を出す。


「俺の兄貴も、ここで行方不明になったんだ……」


 その瞬間。


 近くの木が裂けた。


 中から現れたのは、半分植物化した男性だった。


 身体中を黒蔦に覆われ、目だけが僅かに人間のまま残っている。


「た……すけ……」


 だが次の瞬間。


 黒蔦が顔を覆い、その身体を無理やり動かした。


 襲いかかってくる。


「っ……!」


 灰狼の探索者が動けない。


 兄だ。


 斬れない。


 その時だった。


 月白が前へ出る。


 セレスフィアが閃く。


「――断浄」


 銀線。


 寄生蔦だけが切断される。


「主任」


「はい!」


 俺は即座に浄化を叩き込んだ。


「【浄化】!」


 白光。


 黒蔦が焼けるように消える。


 次の瞬間。


 植物化していた男性が崩れ落ちた。


 呼吸が戻る。


「……あ、兄貴……!」


 灰狼の探索者が駆け寄った。


 涙声だった。


 だが安心した瞬間。


 森の奥から、さらに巨大な脈動が響いた。


 どくん――!!


 空気が震える。


 ルナの表示が真っ赤に染まった。


【中枢核活性化率:71%】

【樹海深層部より超大型反応接近】


【備考】

かなり怒ってる。


「……地下本体、こっち来てません?」


『はい』


 かなり嫌な即答だった。


 その瞬間。


 樹海中心部が盛り上がる。


 地面が割れた。


 巨大な黒根が螺旋状に伸びていく。


 まるで塔だ。


 いや。


 違う。


 あれは“花茎”だ。


 その先端で、巨大な蕾がゆっくり開き始めていた。


 樹海本体が、姿を現そうとしている。






樹海中心部から伸びる巨大花茎。


 それはまるで、大地そのものを貫く黒い塔だった。


 無数の根脈が絡み合い、脈打っている。


 どくん。


 どくん。


 その鼓動に合わせて、周囲の森まで揺れた。


 空気が重い。


 息を吸うだけで肺が軋む。


 胞子濃度がさらに上昇していた。


 ルナの表示が警告色へ変わる。


【周辺汚染濃度:極大】

【精神侵食反応確認】


【備考】

長時間 exposure 非推奨。かなり危険。


「英語混ざってますよルナ」


『緊急時です』


「余裕ないですね!?」


 その瞬間。


 花茎先端の巨大蕾が、ゆっくり開いた。


 ずるり、と湿った音。


 巨大花弁が左右へ広がる。


 内部から現れたのは、人間みたいな上半身だった。


 白い肌。


 長い黒髪。


 妖艶な顔立ち。


 だが下半身は無数の黒根。


 背中には腐食花弁が幾重にも広がっている。


 しかも花弁内部には、人影が埋め込まれていた。


 探索者たちだ。


 眠るみたいに閉じ込められている。


 その全員が、薄く脈動していた。


【名称】:深層花姫ベルセリオン

【種別】:樹海深層中核端末

【汚染分類】:超広域精神侵食型

【汚れ度】:EX++

【特徴】:精神汚染/胞子支配/根脈統制/生命融合

【備考】:かなり本体寄り。


「……綺麗、だけど……」


 灰狼メンバーの一人が呟く。


 だが次の瞬間。


 ベルセリオンが目を開いた。


 赤黒い瞳。


 深淵みたいな濁り方をしている。


 見た瞬間、頭痛が走った。


「っ……!」


 頭の奥へ声が流れ込んでくる。


「……かえして……」


 女の声。


 優しい声だった。


 だが同時に、底知れない狂気が混ざっている。


「……わたしたちを……ひとつに……」


 周囲の木々がざわめいた。


 呻き声。


 泣き声。


 笑い声。


 樹海へ取り込まれた人間たちの意識が共鳴している。


 灰狼メンバーの顔色が変わった。


「頭に直接……!」


「耳塞いでも聞こえる……!」


 精神侵食だ。


 しかも強い。


 長時間浴びれば正常でいられなくなる。


『精神汚染進行中』


「嫌すぎる……!」


 その時だった。


 ベルセリオンがゆっくり腕を上げる。


 直後。


 地面が爆発した。


 大量の黒根が噴出する。


 まるで津波だった。


「来るぞ!」


 九条が巨大結界を展開する。


 轟音。


 黒根濁流が結界へ叩きつけられた。


 障壁が大きく歪む。


「っ、重っ……!」


 しかも根脈一本一本が生きていた。


 蛇みたいに蠢きながら結界を侵食していく。


 じゅうううう、と嫌な音。


 青白い障壁が黒く染まり始める。


『侵食速度増加』


「速くない!?」


 さらにベルセリオン背後の巨大花弁が開いた。


 黒い光。


 胞子砲撃。


 しかもヴェルドガルム以上の密度だった。


「主任!」


「分かってます!」


 俺は星掃杖ルミナブラシアを構える。


 見える。


 汚染流動。


 胞子循環。


 根脈接続。


 この怪物、樹海全体と繋がっている。


 森そのものだ。


「月白さん! 花弁切れますか!」


「やる」


 月白が飛ぶ。


 セレスフィアが白銀光を引いた。


「――閃浄」


 銀線。


 巨大花弁が切断される。


 だが次の瞬間。


 切断面から黒液が噴出した。


 それが地面へ落ちる。


 瞬間、地面が膨張した。


 さらに新たな魔物が生まれる。


【名称】:腐花兵ネクロメリア

【種別】:樹海融合兵

【汚染分類】:死体寄生型

【汚れ度】:SS

【特徴】:高速増殖/胞子爆散/再生

【備考】:元人間を素材にしている。かなり最悪。


「うわぁ……」


 かなり嫌だった。


 しかもネクロメリアたちは、探索者の装備を身につけていた。


 剣。


 鎧。


 冒険者証。


 つまり元人間だ。


 灰狼メンバーの動きが止まる。


「こいつら……」


「失踪者か……!」


 その瞬間。


 ネクロメリアたちが一斉に襲いかかってきた。


 速い。


 しかも連携している。


 完全に戦闘技術を引き継いでいた。


 灰狼メンバーが吹き飛ばされる。


「がっ!?」


「防御しろ!」


 さらにネクロメリアの身体が膨張する。


『胞子自爆反応』


「また自爆!?」


 轟音。


 黒胞子が周囲へ爆散した。


 侵食開始。


 灰狼メンバーの腕へ黒筋が走る。


「主任!」


「任せてください!」


 俺は浄化を展開した。


「【広域浄化】!」


 白光が爆発する。


 胞子が一気に焼かれた。


 ネクロメリアたちが苦しそうに後退する。


『浄化有効』


「なら押し切ります!」


 その時だった。


 ベルセリオンが突然こちらを見た。


 赤黒い瞳。


 ぞわり、と寒気が走る。


「……あなた……」


 声。


 今度ははっきり聞こえた。


「……なぜ、浄化できるの……?」


 空気が止まる。


 ベルセリオンは明らかに俺へ興味を向けていた。


 しかも敵意だけじゃない。


 観察している。


 探っている。


「……その力……どこで……」


 次の瞬間。


 大量の根脈が一直線に俺へ向かってきた。


「主任!」


 九条の声。


 反射的に飛ぶ。


 轟音。


 さっきまでいた場所が吹き飛んだ。


 しかも根脈は追尾してくる。


『対象固定攻撃確認』


「なんで俺ばっか狙うんですか!?」


『最優先脅威認定です』


「最悪!」


 さらに地面そのものが蠢き始める。


 逃げ道を塞いでくる。


 かなり知能が高い。


 だがその前へ、レイナが飛び込んだ。


「主任は地下へ行って!」


 炎剣が燃え上がる。


 紅蓮斬撃。


 根脈が焼き払われた。


 さらに灰狼メンバーが並ぶ。


「ここは俺たちが止める!」


「早く行け!」


 誰も逃げない。


 恐怖してるはずなのに。


 それでも立っている。


 その姿を見て、胸の奥が熱くなった。


 だが同時に、焦りも強くなる。


 このまま長引けば犠牲が出る。


 ベルセリオンは明らかに時間稼ぎをしていた。


 地下本体が完全覚醒するまで。


 その時。


 ルナが警告を表示する。


【地下中枢活性化率:74%】

【覚醒速度上昇】


【備考】

急いだ方がいい。かなり。


「ですよね!」


 俺はルミナブラシアを握り直した。


 こんな汚れ、放置できるわけがない。


 絶対全部綺麗にする。


 その瞬間。


 ベルセリオン背後の巨大花弁がさらに開いた。


 そこに浮かんでいたのは――


 大量の人影だった。


 樹海へ取り込まれた探索者たち。


 眠るみたいに花弁内部へ埋め込まれている。


 しかも、その全員がゆっくり目を開いた。


 赤黒い瞳。


 完全に侵食されている。


 そして次の瞬間。


 全員がこちらを向いた。

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