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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第十六話 樹蝕竜ヴェルドガルム

樹蝕竜ヴェルドガルム。


 それはもはや“木”ではなかった。


 黒い巨竜だ。


 全長は三十メートルを優に超え、腐食した巨木を無理やり竜の形へ捻じ曲げたみたいな異形をしている。全身を覆う樹皮はひび割れ、その隙間から黒い根脈が脈動していた。


 背中には無数の胞子袋。


 呼吸するたび、どくどくと膨張している。


 頭部には赤黒い巨大花。


 花弁の中心では、濁った核が心臓みたいに脈打っていた。


 しかも周囲の森と完全に繋がっている。


 地中の根脈。


 空中の胞子。


 樹海全体が、この怪物へ力を供給していた。


 完全に“森そのもの”だ。



【名称】:樹蝕竜ヴェルドガルム

【種別】:樹海守護汚染竜

【汚染分類】:超大型植物侵食種

【汚れ度】:SSS+

【特徴】:胞子嵐/根脈操作/再生増殖/広域侵食

【推奨洗浄】:根脈遮断→胞子停止→中枢核浄化

【備考】:かなり増やす。かなり硬い。かなりしつこい。



「うわぁ……」


 思わず声が漏れた。


 掃除範囲が大きすぎる。


 しかも嫌なタイプだ。


 表面だけ綺麗にしても意味がない。


 根っこが全部汚染源になっている。


 掃除人として最悪に近い。


 ヴェルドガルムが咆哮した。


 その瞬間。


 背中の胞子袋が一斉に開く。


 黒い暴風。


 大量の胞子が嵐みたいに吹き荒れた。


「来るぞ!」


 九条が即座に巨大結界を展開。


 青白い壁が俺たちを覆う。


 だが。


 じゅうううう――!!


 結界表面が一気に黒く侵食された。


「速っ……!?」


『侵食速度上昇』


 しかも胞子は視界だけじゃない。


 魔力そのものへ干渉してくる。


 灰狼メンバーの一人が突然膝をついた。


「魔力が……重い……!」


「っ、呼吸もしづらい……!」


 胞子が肺へ入り込んでいる。


 しかも浄化抵抗を持っているせいで、普通の浄化術では除去しきれない。


「これ、長引いたら全滅ですね」


 かなり危険だった。


 しかも周囲の木々まで脈動を始めていた。


 どくん。


 どくん。


 地面の下で巨大な何かが循環している。


 樹海全体が生きているみたいだ。


 その瞬間。


 ヴェルドガルムが前脚を叩きつけた。


 轟音。


 地面が裂ける。


 さらに地中から無数の黒根が噴出した。


 槍みたいに鋭い。


「散開!」


 月白が飛ぶ。


 セレスフィアが白銀の光を引いた。


「――閃浄」


 白銀の斬撃。


 迫る黒根がまとめて切断される。


 だが。


 切断された根が地面で蠢いた。


 次の瞬間、そこから新しい蔦が生える。


「再生した!?」


『地中根脈ネットワークによる即時補充』


「ほんと面倒ですねこの森!」


 九条が叫ぶ。


 さらに周囲の樹木が変形し始めた。


 枝が腕みたいに伸びる。


 幹が裂け、赤黒い目玉が開いた。


 森そのものが防衛行動を始めている。


 灰狼の若い探索者が震える声を出した。


「こんなの……今までの樹海と違う……」


「以前はここまでじゃなかったんです」


 レイナが険しい顔で言う。


「ここ数ヶ月で急激に変異した」


「原因は?」


「分からない。でも……地下から“何か”が出てきてから変わった」


 地下。


 やはりそこか。


 その時だった。


 ヴェルドガルムの尾が地面を薙ぎ払った。


 黒い暴風。


「主任!」


 九条の声。


 反射的に飛ぶ。


 直後、いた場所へ巨大尾撃が叩き込まれた。


 地面が爆発する。


 黒泥が飛び散った。


 しかも飛散した泥から黒蔦が伸び始める。


「泥まで汚染源!?」


『接触侵食型汚染を確認』


「掃除する場所増えたんですが!」


 かなり嫌だった。


 だが見える。


 ヴェルドガルム本体へ流れ込む汚染。


 根脈循環。


 森全体から供給されている。


 つまり。


「先に配管止めます!」


 俺は星掃杖ルミナブラシアを構えた。


 白銀の穂先が輝く。


 神器級浄化具。


 その力が周囲の汚染流動へ干渉し始める。


 見える。


 胞子の流れ。


 根脈。


 詰まり。


 汚染循環。


 まるで巨大排水管だ。


「そこですね」


 俺は地面へ箒を叩きつけた。


「【根脈浄化】!」


 白光が地中を走る。


 瞬間。


 周囲の黒根がまとめて白く浄化された。


 ヴェルドガルムが絶叫する。


 巨大な身体が大きく揺れた。


『局地循環停止を確認』


「効いてる!」


 レイナが目を見開く。


 だが次の瞬間。


 ヴェルドガルムの頭部花弁が開いた。


 その中心で、赤黒い核が脈動する。


 嫌な予感。


 かなり嫌な予感。


 ルナの警告表示が赤く染まった。


【超高濃度胞子反応】

【広域散布兆候】


【備考】

かなり危険。


「これ、まずいの来ますよね?」


『はい』


 即答だった。


 直後。


 ヴェルドガルムの核が膨張する。


 空気が震えた。


「総員、防御!」


 九条が巨大結界をさらに拡張する。


 その瞬間。


 黒花が爆発みたいに開いた。


 轟ッ!!


 超高濃度胞子嵐。


 黒い暴風が森全体を呑み込む。


 視界が完全に消えた。


 呼吸するだけで肺が焼ける。


 灰狼メンバーの一人が倒れ込む。


「ぐ……あ……」


 黒い侵食が首筋へ広がっていた。


「主任!」


「分かってます!」


 俺は即座に浄化を叩き込む。


「【局所浄化】!」


 白光。


 侵食が消える。


 だが胞子量が多すぎる。


 浄化しても浄化しても降り続ける。


「キリがない……!」


 その時だった。


 ヴェルドガルムの背後。


 森の奥で、さらに巨大な脈動が響いた。


 どくん――!!


 空気が震える。


 地面の下から、超大型汚染流動。


 ルナの表示が赤く染まった。


【樹海深部反応増大】

【中枢核活性化率:48%】


【備考】

まだ本体ではない。


「……まだ上がいるんですか」


 かなり嫌だった。


 しかもその瞬間。


 森全体が鳴いた。


 無数の木々から、人間みたいな呻き声が響き始める。


「……助け……て……」


「やめ……ろ……」


 灰狼メンバーが顔を強張らせた。


「この声……」


 レイナが青ざめる。


「行方不明になった探索者たち……」


 寄生された人間の意識が、まだ残っている。


 つまり。


 この森は生きたまま人間を取り込んでいる。


 その事実に、空気が一気に重くなった。


 だが。


 だからこそ。


「絶対綺麗にします」


 俺は箒を握り直した。


 こんな汚れ、放置できるわけがなかった。







ヴェルドガルム頭部の黒花が完全に開いた。


 その瞬間。


 森全体が咆哮した。


 どくん――!!


 空気が震える。


 地面の下を巨大な汚染流動が駆け巡り、樹海全域の木々が一斉に脈打ち始めた。


 次の瞬間。


 黒い胞子嵐が爆発みたいに広がった。


「っ!!」


 視界が真っ黒になる。


 胞子濃度が今までとは比較にならない。


 呼吸するだけで肺が焼けるみたいだった。


 しかもただの毒じゃない。


 吸い込んだ瞬間、身体の奥へ汚染が入り込んでくる。


 魔力回路へ直接触れられてる感覚。


 かなり気持ち悪い。


『広域侵食モード移行を確認』


「そんなモードいらないんですよ!」


 九条が叫ぶ。


 青白い結界が胞子嵐を防いでいるが、表面はすでに半分以上黒ずんでいた。


 じゅううう、と侵食音が鳴り続けている。


「これ……マジで限界近い!」


 さらに状況は悪化した。


 胞子を浴びた木々が急速変異を始める。


 枝が人の腕みたいに伸びる。


 樹皮が裂け、赤黒い眼球が現れる。


 そして幹の中から、人型が這い出してきた。



【名称】:胞魔樹兵ボルグネア

【種別】:胞子変異兵

【汚染分類】:群体侵食型

【汚れ度】:A

【特徴】:集団増殖/胞子噴射/自爆侵食

【備考】:かなり数が多い。



「増えすぎだろ!?」


 レイナが叫ぶ。


 実際、数が異常だった。


 樹海全体から湧いてくる。


 十体。


 二十体。


 いや、もっとだ。


 しかも一体一体が胞子源になっている。


 近づくだけで侵食される。


 灰狼メンバーの一人が剣で斬り払った瞬間、ボルグネアが破裂した。


 黒胞子が噴き出す。


「うわっ!?」


 侵食開始。


 黒い筋が腕へ広がっていく。


「まずい!」


 だが次の瞬間。


 月白が一閃した。


 銀線。


 寄生蔦だけが綺麗に切断される。


「主任」


「はい!」


 俺は即座に浄化を叩き込む。


「【局所浄化】!」


 白光。


 侵食が消える。


 だがボルグネアは止まらない。


 次々と押し寄せてくる。


「キリないですねこれ!」


「根本止めないと無限湧きだ!」


 その時だった。


 ルナが新たな解析を表示する。


【中枢核解析進行】

【樹海中核位置を特定】


・地下深度:約300m

・超高濃度汚染反応あり


【備考】

森そのものの本体。


「地下か……!」


 つまりヴェルドガルムですら端末。


 本当の本体は地下。


 かなり根深い。


 その瞬間、ヴェルドガルムが咆哮した。


 背中の胞子袋が膨張する。


 まずい。


 次が来る。


『超高密度胞子砲撃反応』


「砲撃!?」


 次の瞬間。


 黒い極太奔流が放たれた。


 胞子の砲撃。


 一直線にこちらへ迫る。


「九条さん!」


「防ぐ!!」


 巨大結界が展開される。


 轟音。


 青白い障壁が大きく軋む。


 黒い侵食が一気に広がった。


「ぐっ……!」


 九条の額から汗が流れる。


 限界が近い。


 しかも胞子砲撃は一発じゃなかった。


 第二射。


 第三射。


 黒い濁流が連続で叩きつけられる。


 結界が悲鳴みたいな音を立て始めた。


「主任、このままじゃ持たない!」


 その時。


 レイナが前へ出た。


「私たちが道を作る!」


 灰狼メンバーが一斉に武器を構える。


 炎。


 風。


 雷。


 複数の斬撃がボルグネア群を押し返した。


「行ってください!」


「でも!」


「ここで止めなきゃ、カルディアが終わる!」


 レイナの声に迷いはなかった。


 その背後では、灰狼の面々が必死に戦っている。


 侵食されながらも。


 傷つきながらも。


 誰一人逃げない。


 その光景を見て、俺は息を吐いた。


「……分かりました」


 見えている。


 地下へ続く巨大根脈。


 汚染の流れ。


 なら。


 掃除する場所は決まってる。


「月白さん、九条さん!」


「ああ」


「任せな!」


「ルナ、地下ルート!」


『最短経路を表示します』


 視界へ白線が浮かぶ。


 樹海中心部。


 地下中枢へ続く道。


 だがその瞬間。


 森全体が再び脈動した。


 どくん――!!


 地面が割れる。


 黒い根が噴き出した。


 しかも今度の根は違う。


 太い。


 巨大だ。


 まるで竜の骨みたいな根脈が地中から突き出してくる。


『超大型根脈反応』


 直後。


 根が動いた。


 轟音。


 巨大な根塊がこちらへ振り下ろされる。


「散開!」


 月白が飛ぶ。


 セレスフィアが閃いた。


「――斬浄」


 白銀の斬撃。


 だが。


 完全には切れない。


「硬っ……!」


 セレスフィアの斬撃を受けても、巨大根脈は半分しか裂けなかった。


 しかも切断面から黒液が噴き出す。


 その液体が地面へ落ちた瞬間、新たなボルグネアが生成され始めた。


「増える速度上がってない!?」


『樹海活性化率上昇中』


 さらに周囲の木々から呻き声が響き始める。


「助けて……」


「嫌だ……」


「帰りたい……」


 人間の声だった。


 灰狼メンバーの動きが止まる。


「この声……」


 レイナが青ざめた。


「失踪した探索者たち……」


 まだ意識が残っている。


 つまり。


 樹海は人間を苗床にしている。


 しかも完全には殺していない。


 意識だけ残したまま取り込んでいる。


 かなり最悪だった。


 灰狼の若い探索者が震えた声を出す。


「俺の兄貴も、ここで行方不明に……」


 その瞬間。


 近くの木が裂けた。


 中から現れたのは、半分植物化した男性だった。


 身体中を黒蔦に覆われ、目だけが僅かに人間のまま残っている。


「た……すけ……」


 だが次の瞬間。


 黒蔦が顔を覆い、その身体を無理やり動かした。


 襲いかかってくる。


「っ……!」


 灰狼の探索者が動けない。


 兄だ。


 斬れない。


 その時だった。


 月白が前へ出る。


 セレスフィアが閃く。


「――断浄」


 銀線。


 寄生蔦だけが切断される。


「主任」


「はい!」


 俺は即座に浄化を叩き込んだ。


「【浄化】!」


 白光。


 黒蔦が焼けるように消える。


 次の瞬間。


 植物化していた男性が崩れ落ちた。


 呼吸が戻る。


「……あ、兄貴……!」


 灰狼の探索者が駆け寄った。


 涙声だった。


 だが安心した瞬間。


 森の奥から、さらに巨大な脈動が響いた。


 どくん――!!


 空気が震える。


 ルナの表示が真っ赤に染まった。


【中枢核活性化率:71%】

【樹海深層部より超大型反応接近】


【備考】

かなり怒ってる。


「……地下本体、こっち来てません?」


『はい』


 かなり嫌な即答だった。


 その瞬間。


 樹海中心部が盛り上がる。


 地面が割れた。


 巨大な黒根が螺旋状に伸びていく。


 まるで塔だ。


 いや。


 違う。


 あれは“花茎”だ。


 その先端で、巨大な蕾がゆっくり開き始めていた。


 樹海本体が、姿を現そうとしている。

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