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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第十五話 樹海侵入

黒蝕樹海ベルグレイヴ。


 その入口で、侵樹鬼グラディウッドとの戦闘が始まった。


 森全体が異様だった。


 木々は呼吸みたいに脈打ち、枝葉の隙間から黒胞子が霧みたいに漂っている。


 空気が重い。


 鼻の奥へ入り込むだけで微かに頭痛がした。


 しかも胞子は普通の毒じゃない。


 “汚染”そのものだ。


 九条の展開する浄化結界へ触れた瞬間、じゅうう、と嫌な音が鳴る。


 青白い結界表面が少しずつ黒く染まり始めていた。


「これ、長時間は持たない!」


「かなり厄介ですね……!」


 普通の毒霧なら防げる。


 でもこれは違う。


 胞子そのものが侵食してくる。


 しかも周囲の木々全部が胞子源だ。


 放置すれば増殖し続ける。


 完全に悪性菌類汚染。


 掃除人としてかなり嫌なタイプだった。


 グラディウッドが咆哮する。


 枝葉が大きく開いた。


 その瞬間、地面から無数の黒蔦が噴き出す。


 鞭みたいにしなりながら、一斉にこちらへ襲いかかってきた。


「散開!」


 月白が即座に前へ出る。


 セレスフィアが白銀の光を引いた。


「――斬浄」


 銀線。


 迫っていた黒蔦がまとめて切断される。


 だが次の瞬間。


 切断面から黒胞子が噴き出した。


「また増えた!?」


『切断刺激による胞子活性化を確認』


「めんどくさいなこれ!」


 九条が叫ぶ。


 さらに胞子濃度が上昇する。


 視界が霞み始めた。


 灰狼メンバーの一人が突然膝をつく。


「ぐっ……!」


 腕へ黒い筋が浮かび上がる。


 侵食だ。


 しかも速い。


「主任!」


「任せてください!」


 俺は即座に駆け寄った。


 箒を振るう。


「【局所浄化】!」


 白光が弾けた。


 黒い筋が一気に消える。


 同時に身体へ入り込んでいた胞子も消滅した。


 灰狼メンバーが呆然と腕を見る。


「治った……?」


「すげぇ……本当に浄化した……」


 レイナたちの目に驚きが浮かぶ。


 だが感心している暇はない。


 森全体がさらに脈動を始めた。


 どくん。


 どくん。


 地面そのものが生きているみたいだった。


 その時、ルナが警告を表示する。


【胞子濃度急上昇】

【樹海内部より追加反応接近】


【備考】

かなり増える。


「嫌な予感しかしないですね」


 次の瞬間。


 森の奥で木々が倒れた。


 巨大な影。


 さらにもう一体、グラディウッド級の反応が近づいてくる。


「群体型かよ……!」


 レイナの顔が青ざめる。


 普通の探索者なら、この時点で撤退案件だ。


 だがその時。


 俺は地面の奥に違和感を見つけた。


 黒い根。


 大量の汚染流動。


 全部が同じ方向へ繋がっている。


 つまり。


「これ、森全体で一つですね」


「……は?」


 九条がこちらを見る。


「枝も幹も全部末端です。本体は地下側」


 掃除で例えるなら、表面のカビだけ削ってる状態。


 根本の配管詰まりを掃除しない限り終わらない。


 だったら。


 やることは一つだ。


「ルナ、地下構造見えますか?」


『解析開始』


 視界へ立体マップが展開された。


 黒い根が地中を埋め尽くしている。


 しかも全部、樹海中央へ集束していた。


 その中心部には、異常な大きさの反応。


【深部超大型反応確認】

【推定】:樹海中枢核


【汚染度】:EX級

【備考】:かなり根深い。


 ……うん。


 絶対大掃除になる。


 その瞬間、グラディウッドが再び蔦を放った。


 しかも今度は地面ごと裂ける。


 黒蔦の濁流。


「九条さん!」


「分かってる!」


 巨大結界が展開される。


 轟音。


 蔦が結界へ叩きつけられ、青白い光が激しく揺らいだ。


 結界表面へ黒い侵食が広がる。


「っ……重い!」


「月白さん、右!」


「ああ」


 月白が一瞬で駆ける。


 セレスフィアが閃き、蔦の束を切断。


 だが切った先から再生。


 しかも胞子がどんどん濃くなる。


 長引けば不利。


 その時、灰狼の若い探索者が叫んだ。


「後ろ!」


 振り返る。


 別方向から黒蔦が迫っていた。


 しかも地面の下を潜ってくる。


「主任!」


「大丈夫です!」


 俺は星掃杖ルミナブラシアを構える。


 白銀の穂先が輝いた。


 神器級浄化具。


 その力が周囲の汚染流動へ干渉する。


 見える。


 胞子の流れ。


 汚染循環。


 詰まり。


「そこですね」


 俺は地面へ箒を叩きつけた。


「【範囲浄化】!」


 白光が地面を走る。


 瞬間。


 黒い根がまとめて浄化された。


 胞子濃度が一気に下がる。


 グラディウッドが苦しむように絶叫した。


 さらに周囲の木々から黒液が噴き出す。


『局地汚染循環停止を確認』


「効いてる!」


 九条が声を上げる。


 だが次の瞬間。


 森の奥から、さらに巨大な脈動が響いた。


 どくん――!!


 空気が震える。


 黒胞子が暴風みたいに吹き荒れた。


 ルナの警告表示が赤く染まる。


【樹海深部反応増大】

【中枢核覚醒兆候】


【備考】

かなり怒ってる。


 どうやら。


 本体へ刺激が届いたらしい。






ベルグレイヴ樹海内部への侵入は、想像以上に危険だった。


 まず視界が悪い。


 空中を漂う黒胞子のせいで、少し先すら霞んで見えない。


 しかも地面そのものが汚染されていた。


 踏むたび、ぐちゅり、と嫌な感触が返ってくる。


 土じゃない。


 腐った植物と黒泥が混ざった何かだ。


 かなり歩きたくない。


「これ本当に森か……?」


 九条が本気で嫌そうに呟く。


 実際、普通の森ではない。


 木々は全部脈打ち、枝が時々こちらを向く。幹の表面には人の顔みたいな模様が浮かび、根は血管みたいに蠢いていた。


 しかも静かすぎる。


 鳥の声も虫の音もない。


 聞こえるのは、森全体の鼓動だけ。


 どくん。


 どくん。


 まるで巨大生物の体内だ。


「気持ち悪……」


 灰狼の一人が顔をしかめる。


 さらに進むと、地面に放棄された装備品が見え始めた。


 折れた剣。


 腐食した盾。


 探索者タグ。


 どれも黒蔦に覆われている。


「ここでやられたのか……」


 レイナが険しい顔になる。


 その時だった。


 前方の木々が突然動いた。


 黒い枝が絡まり合う。


 次の瞬間、細長い人影が姿を現した。


 全身を黒蔦で覆われた humanoid。


 顔半分が植物化している。


 腕の先は鋭い蔦刃になっていた。



【名称】:寄生徒花エルドレイス

【種別】:植物寄生汚染体

【汚染分類】:侵食植物系+人体融合系

【汚れ度】:A+

【特徴】:胞子感染/蔦刃形成/群体行動

【備考】:元人間の可能性あり。



 その表示に、一瞬空気が重くなる。


 レイナが唇を噛んだ。


「……あれ、行方不明になった探索者です」


 やはりそうか。


 完全な魔物じゃない。


 寄生された人間。


 だがエルドレイスは既にこちらへ向かってきていた。


 ぎちぎち、と身体を軋ませながら迫ってくる。


 しかも一体じゃない。


 周囲の木々から、次々と同じ存在が現れ始めた。


「囲まれてる!」


 九条が浄化結界を展開する。


 だが黒蔦が結界へ絡みつき、侵食を始めた。


 青白い膜がじわじわ黒く染まる。


『長時間戦闘は危険』


 ルナが警告する。


『侵食率上昇中』


 まずい。


 普通に削られる。


 しかもエルドレイスたちは、完全に急所を狙って動いていた。


 知性がある。


 元人間だからか。


 その瞬間、一体がレイナへ飛びかかった。


「っ!」


 レイナが炎剣で迎撃する。


 赤熱斬撃。


 蔦刃が焼き飛ぶ。


 だが。


 焼けた部分から胞子が噴出した。


「なっ!?」


『熱刺激による胞子活性化』


「またそれか!」


 完全に対処潰しだ。


 さらに別個体が灰狼メンバーへ襲いかかる。


 蔦刃が鎧へ突き刺さった。


「ぐあっ!」


「まずい!」


 黒蔦が一気に身体へ侵食していく。


 だが見える。


【重点汚染箇所】

・胸部寄生核

・脊髄根

・頭部胞子花


【攻略のコツ】

核だけ浄化する


「月白さん!」


「ああ」


 セレスフィアが閃く。


「――断浄」


 銀線。


 寄生蔦だけが綺麗に切断される。


 本体への損傷は最小限。


 そこへ俺が踏み込む。


「【浄化】!」


 白光が弾けた。


 エルドレイスの胸部から黒い根が飛び出す。


 次の瞬間。


 植物化していた探索者が崩れ落ちた。


 呼吸が戻る。


「助かった……?」


 レイナが目を見開く。


 灰狼メンバーたちも息を呑む。


「寄生だけ除去したのか……」


「そんなことできるのか……?」


 だが安心した瞬間だった。


 森の奥から、巨大な咆哮が響いた。


 空気が震える。


 木々が一斉にざわめいた。


 次の瞬間、視界いっぱいに警告表示。



【超大型反応接近】

【樹海中枢防衛個体】


【汚染度】:SSS+

【備考】

かなり怒ってる。


 さらに。


 森全体が脈動した。


 地面の下を、巨大な何かが動いている。


 近い。


 かなり近い。


 その直後。


 前方の巨木が真っ二つに吹き飛んだ。


 轟音。


 黒い根が地中から噴出する。


 そして現れた。


 巨大な樹竜。


 全身を黒蔦で覆われた異形。


 頭部には赤黒い花が咲き、背中から無数の胞子袋が脈動している。



【名称】:樹蝕竜ヴェルドガルム

【種別】:樹海守護汚染竜

【汚染分類】:超大型植物侵食種

【汚れ度】:SSS+

【特徴】:胞子嵐/根脈操作/再生増殖

【備考】:かなり大きい。かなり増やす。



 その巨体が咆哮した瞬間。


 森全体が呼応するように揺れた。


 どうやら。


 ベルグレイヴ本体との戦いが始まるらしい。

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