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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

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第十四話 白銀都市の来訪者

白銀都市ルミナスが完全復旧してから、数日が経った。


 あれだけ黒泥に覆われていた都市は、今では信じられないほど綺麗になっている。


 白銀の街路は淡く発光し、停止していた魔導灯は昼夜を問わず都市を照らしていた。地下を流れる浄化水路も完全復旧し、空気にはほんの少し花みたいな香りまで混じっている。


 かなり快適だ。


 しかも便利。


 自動清掃機構まで復活したせいで、床に落ちた埃が勝手に回収されていく。


 掃除人として感動するレベルだった。


「主任、また床磨いてる……」


 九条が呆れた声を出す。


「いや、この角に少し汚れが」


「自動清掃あるよね?」


「でも細かい部分は気になるので」


「重症だ……」


 月白まで静かに頷いていた。


 解せない。


 その時だった。



 ルナが静かにこちらへ近づいてくる。


『都市外周部に複数生命反応を確認』


「来訪者?」


『はい。武装反応あり』


 視界に表示が浮かぶ。



【外部生命反応:12】

【所属】:不明

【武装反応】:中

【状態】:疲弊/警戒



「敵か?」


 月白が即座にセレスフィアへ手をかける。


 だがルナは首を横に振った。


『敵意は低いと推定』


「なら話を聞くか」


 俺たちは外周ゲートへ向かった。


 白銀通路を抜け、巨大外壁区画へ出る。


 そこで待っていたのは、砂埃まみれの探索者集団だった。


 装備はボロボロ。


 鎧には黒い染みが広がり、何人かは包帯まで巻いている。長距離移動だけじゃない。かなり危険な場所を突破してきた感じだ。


 先頭に立っていたのは、赤髪を後ろで束ねた女性剣士だった。


 二十代前半くらい。


 鋭い目をしているが、その奥には強い疲労が見える。


 彼女はルミナスを見上げ、呆然と呟いた。


「本当に……復活してる……」


 まるで奇跡を見たみたいな顔だった。


「あなたたちは?」


 俺が聞くと、女性は慌てて姿勢を正した。


「私は探索者ギルド《灰狼》所属、レイナです」


 深く頭を下げる。


「どうか、助けてください」


 その声はかなり切実だった。


 俺たちは彼女たちを都市内部へ案内した。


 白銀都市へ入った瞬間、灰狼の面々が息を呑む。


「空気が……綺麗……」


「汚染が、ない……?」


「本当にこんな場所が……」


 外界では、汚染のない空間そのものが貴重らしい。


 改めてルミナスの異常さを実感する。


 中央管理区画で事情を聞くと、レイナは疲れた顔のまま語り始めた。


「私たちの拠点都市カルディア周辺で、大規模な汚染災害が発生しています」


「災害?」


「街の外縁部が、“黒い森”に侵食され始めたんです」


 その言葉に空気が少し重くなる。


「木が腐ったとかじゃないんです」


 レイナの声が低くなる。


「森そのものが、人を食べる」


 九条が眉をひそめた。


「……寄生型?」


「はい」


 しかも普通じゃない。


 切っても再生。


 燃やしても増殖。


 胞子を吸った探索者が汚染化する例まで出ているらしい。


 既に周辺村落はいくつも壊滅。


 カルディア本体も時間の問題。


「浄化術師も試しました。でも止まらなかった」


 レイナは悔しそうに拳を握る。


「だから、最後の希望としてここへ来たんです」


 そして。


「“白銀の掃除屋”がいるって聞きました」


 全員の視線がこちらへ向いた。


 ……なんか二つ名が定着してる。


 かなり恥ずかしい。


「主任、有名人」


「なんでそんな広がり早いんですか……」


『ルミナス復旧時の超高出力浄化反応が周辺観測網へ記録されています』


 つまり普通に世界規模でバレたらしい。


 かなり目立ってた。


 でも話を聞く限り、放置は危険だ。


 寄生植物系汚染。


 しかも都市侵食規模。


 絶対面倒なやつだ。


 だが同時に思う。


 かなり掃除しがいがある。


「分かりました」


 俺は立ち上がる。


「その森、綺麗にしましょう」


 レイナの表情が一瞬で明るくなった。


 その時、ルナが新たな警告を表示する。


【新規汚染領域確認】

《黒蝕樹海ベルグレイヴ》


【汚染分類】

・寄生植物系

・侵食胞子系

・生命汚染系


【危険度】:SSS

【備考】:かなり増える。燃やしても増える。


「うわぁ……」


 かなり嫌な予感がした。






翌朝。


 俺たちはカルディア方面へ向かっていた。


 メンバーはいつもの四人。


 俺、月白、九条、ルナ。


 そこへ案内役として、レイナ率いる灰狼メンバーも同行している。


 ルミナス外部へ出るのは初めてだったが、外の世界は想像以上に荒れていた。


 街道は崩壊。


 地面はひび割れ。


 ところどころ黒い染みが広がり、風に乗って汚染霧まで漂っている。


 しかも空気が重い。


 ルミナス内部の澄んだ空気に慣れていたせいで、外界汚染の濃さがよく分かった。


「かなり酷いですね……」


「最近、一気に悪化したんです」


 レイナが険しい顔で答える。


「前までは、ここまでじゃなかった」


 つまり汚染が加速している。


 やはりルミナスだけの問題じゃない。


 世界全体で何か起きてる。


 途中、壊れた村も見えた。


 建物は半分以上が黒い蔦に覆われ、井戸からは黒濁水が溢れている。


 人気はない。


 だが静かすぎた。


「ここは……」


「三日前に放棄されました」


 レイナの声が沈む。


「住民の半分が胞子汚染を受けて……」


 最後まで言わなかった。


 言わなくても分かる。


 かなり悪質な汚染だ。


 数時間後。


 遠くに“森”が見えた。


 いや。


 あれはもう森じゃない。


 黒い。


 木々が全部黒ずんでいる。


 枝は脈打ち、幹は生き物みたいに蠢き、地面には巨大な根が血管みたいに広がっていた。


 しかも時々、森全体が呼吸みたいに膨張している。


 かなり気持ち悪い。


 視界に表示。


【名称】:《黒蝕樹海ベルグレイヴ》

【分類】:超大型寄生汚染森林

【汚染度】:SSS+

【特徴】:侵食胞子散布/生命寄生/無限増殖

【備考】:森全体が汚れている。かなり広い。


「これは……凄いですね」


 思わず呟く。


 掃除範囲が広すぎる。


 その時だった。


 森の奥から、ぎちぎち、と嫌な音が響いた。


 木々が動く。


 黒い枝が絡まり合う。


 そして巨大な樹木型魔物が姿を現した。


 全身を黒蔦で覆われた巨木。


 中心部では赤黒い核が脈動している。枝先には苦悶する人間みたいな顔がいくつも浮かび、口の部分から黒胞子を撒き散らしていた。



【名称】:侵樹鬼グラディウッド

【種別】:寄生樹木魔

【汚染分類】:植物侵食系+生命吸収系

【汚れ度】:SSS

【特徴】:胞子散布/自己増殖/捕食蔦生成

【推奨洗浄】:胞子除去→根切断→核浄化

【備考】:かなり絡みつく。胞子も危険。



「また嫌そうなの来たな……」


 九条が本気で嫌そうだった。


 だがグラディウッドは待たない。


 地面から無数の黒蔦が噴き出した。


 しかも速い。


 鞭みたいにしなる蔦が、一斉にこちらへ襲いかかってくる。


「散開!」


 月白が即座に前へ出た。


 セレスフィアが閃く。


 銀線。


 迫っていた蔦がまとめて切断された。


 だが次の瞬間。


 切断面から新しい蔦が再生する。


「再生速度高い!」


『胞子供給による自己増殖を確認』


 さらに空中へ黒胞子が拡散した。


 吸った瞬間、喉が焼けるみたいに痛む。


「っ……!」


「主任!」


 九条が慌てて浄化結界を展開。


 青白い膜が胞子を遮断する。


 だが結界表面が黒ずみ始めた。


「胞子が結界侵食してる!?」


 かなり厄介だ。


 その時、レイナが炎剣を振るった。


 赤い斬撃が蔦を焼き払う。


 だが。


 燃えた部分から逆に胞子が大量噴出した。


「なっ!?」


「燃やすと拡散するのか!」


『熱刺激で胞子散布量増加』


 最悪だ。


 完全に普通の対処法潰し。


 だが見える。


【重点汚染箇所】

・地中根核

・胸部寄生核

・胞子袋


【攻略のコツ】

先に増殖を止める


「なるほど」


 俺は箒を構えた。


 植物汚染。


 つまり表面だけ掃除してもダメだ。


 根本を綺麗にしないと終わらない。


 清浄衣アウラクリアが白く輝く。


 外界汚染はルミナスと違う。


 でも。


 汚れてるなら、やることは同じだ。


「綺麗にします」


 俺は一歩前へ踏み出した。

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