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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
白銀都市ルミナス編

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第十三話 白銀都市ルミナス

黒淤王ネクロロードとの戦闘は、想像以上に厄介だった。


 切っても再生。


 浄化しても補充。


 削っても黒泥が湧く。


 まるで都市そのものを相手にしているみたいだ。


 いや、実際そうなのかもしれない。


 王座区画全体が、ネクロロードへ力を流している。


 床。


 壁。


 天井。


 配管。


 全部が汚染循環路だ。


 どくん。


 どくん。


 巨大空間そのものが脈打つたび、黒泥が増殖していく。


 白銀だった床は既に半分以上が侵食され、空気には黒い粒子が雪みたいに漂っていた。


 しかも嫌なのは、その粒子が触れた場所から少しずつ汚染が広がることだ。


 放置しているだけで空間が汚れていく。


 かなり最悪。


「キリがない……!」


 九条が額に汗を浮かべた。


 彼女の展開する多重結界は、既に何層も黒ずんでいる。浄化補助を受けてなお侵食速度が速い。


 普通の敵じゃない。


 空間全体が敵だ。


 ネクロロードが腕を振るう。


 黒泥の波が押し寄せた。


 さらに床から無数の黒腕が伸び、天井からは腐食液が雨みたいに降り注ぐ。


「主任!」


「大丈夫!」


 箒を振るう。


「【範囲清掃】!」


 白光が弾けた。


 迫っていた黒腕がまとめて消し飛ぶ。


 腐食液も一瞬で蒸発。


 だが次の瞬間には、また新しい黒泥が湧き出してくる。


 再生が速すぎる。


 完全に詰まり続ける排水路だ。


 だがその時、ルナが静かに声を響かせた。


『解析完了』


 視界へ新しい表示が展開される。



【王座区画構造解析】

・ネクロロード本体=端末

・汚染本体=都市核深部

・王座=中継装置

・区画全域=汚染循環領域


【結論】

都市核を直接浄化すれば停止可能



「直接、か……」


 俺は天井を見上げた。


 巨大黒球。


 王座区画中央で脈打つ都市核。


 近くで見るほど異様だった。


 表面は黒い泥で覆われ、巨大な血管みたいな汚染脈が何本も走っている。ひび割れた隙間からは黒い瘴気が漏れ、内部では赤黒い光が脈動していた。


 都市の心臓。


 そのはずなのに、完全に腐っている。


 だが同時に感じる。


 まだ死んでいない。


 まだ助けられる。


 その瞬間、ネクロロードが咆哮した。


 空間が震える。


 次の瞬間、無数の黒槍が生成された。


 黒泥を圧縮して作られた巨大杭。


 それが豪雨みたいに降り注ぐ。


「っ!」


 九条が即座に結界を展開。


 轟音。


 衝撃。


 結界全体が大きく軋む。


「ぐっ……!」


 さらに床から黒腕が絡みつき、九条の術式を侵食していく。


 まずい。


 押し切られる。


 だが月白は静かだった。


 セレスフィアを構える。


 白銀の刀身が、強く輝き始める。


「道を作る」


 短い言葉。


 でもそれだけで十分だった。


「お願いします!」


 次の瞬間。


 月白が踏み込む。


 静かな一歩。


 だがその速度は、一瞬でネクロロードの目前へ届いていた。


「――浄星開断」


 白銀の閃光。


 空間そのものが切り裂かれる。


 黒泥。


 配管。


 汚染壁。


 迫っていた黒槍の群れ。


 全部まとめて真っ二つになった。


 王座区画中央。


 都市核まで一直線に伸びる一本の道。


 その景色は、まるで黒い世界へ白線を引いたみたいだった。


「今です!」


 俺は全力で駆けた。


 黒泥が迫る。


 背後でネクロロードが咆哮する。


 だが九条が叫んだ。


「行けぇぇぇ!!」


 巨大な青白い結界が展開される。


 押し寄せる黒泥津波を、ギリギリで食い止める。


 結界表面が黒く侵食される。


 ひび割れる。


 それでも九条は踏ん張っていた。


「絶対……通すから!」


 その声に背中を押される。


 俺は都市核へ飛び込んだ。


 近くで見ると、さらに酷い。


 汚れている。


 濁っている。


 ひび割れている。


 都市全体の苦しみが、全部ここへ詰まってるみたいだった。


 今まで掃除してきたもの。


 本。


 炉。


 配管。


 黒泥。


 全部がここへ繋がっている。


 だったら。


 ここを綺麗にすれば終わる。


 俺は箒を強く握った。


 清浄衣アウラクリアが眩しく輝く。


 体内の魔力が一気に巡る。


 今までで最大。


 ルミナス全体と繋がる感覚。


 汚れが見える。


 流れが見える。


 詰まりが見える。


 なら、やることは一つだ。


「綺麗にします」


 静かに呟く。


 そして全力で箒を振り抜いた。


「【極大浄化】――!!」


 白光が炸裂した。


 瞬間。


 世界から黒が消えた。






白光が世界を埋め尽くした。


 一瞬だったのか。


 数分だったのか。


 感覚が曖昧になるほど強烈な浄化だった。


 俺の放った《極大浄化》は、都市核を中心に暴風みたいに広がっていく。


 白い光が黒泥を呑み込み、汚染脈を焼き払い、王座区画全体を覆っていた黒を一気に押し流していった。


 どくん。


 巨大都市が脈打つ。


 だが今度は違う。


 苦しむみたいな脈動じゃない。


 長い悪夢から目を覚ますみたいな鼓動だった。


 視界に大量の表示が流れる。


【超高濃度汚染反応消失】

【都市核正常化開始】

【全域浄化処理実行】

【白銀都市ルミナス:機能再起動】


 次の瞬間。


 王座区画を覆っていた黒泥が一斉に崩れ落ちた。


 床が白銀を取り戻す。


 壁面の汚染脈が消える。


 天井を走っていた黒い血管みたいな配管も、ゆっくり本来の輝きを取り戻していった。


 綺麗だ。


 今まで見たどんな景色よりも綺麗だった。


「……成功、したのか?」


 九条が呆然と呟く。


 その声へ答えるみたいに、都市全体へ白銀の光が走った。


 一本。


 また一本。


 死んでいた街灯が点灯する。


 停止していた魔導装置が起動する。


 遠くで巨大機構が動き出す重低音が響いた。


 ルミナスが、生き返っていく。


『都市機能回復率、急上昇』


 ルナの声にも、どこか微かな熱が混じっていた。


『浄化成功を確認。白銀都市ルミナス、正常稼働状態へ移行します』


 その時だった。



 王座の前で崩れていたネクロロードの残骸が、小さく光った。


 黒い鎧が崩れ落ちる。


 中から現れたのは、一人の男だった。


 白銀の長衣を纏った、痩せた青年。


 だが身体は半透明で、ところどころ粒子みたいに崩れている。


 幻影。


 いや、残留思念か。


 男はゆっくりとこちらを見た。


「……ようやく」


 掠れた声だった。


「終わった、のか」


 ルナが静かに頭を下げる。


『都市管理者コードを確認。ルミナス統括管理者《アルト=ルミナス》』


 管理者。


 つまり、この都市の責任者。


 アルトは苦しそうに目を閉じた。


「すまなかった……」


 その声には、長い後悔が滲んでいた。


「都市核を守るため、我々は汚染を封じ込めようとした。だが封印は失敗した」


 彼の背後に、かつてのルミナスの映像が浮かぶ。


 美しい白銀都市。


 人々。


 光。


 笑い声。


 だが次の瞬間、黒い汚染が広がった。


 都市全体を呑み込む黒泥。


 暴走する魔導炉。


 崩壊。


「我々は……都市ごと封鎖するしかなかった」


 その結果、長い年月をかけて汚染が蓄積した。


 そしてネクロロードが生まれた。


 都市核そのものが侵食されて。


 アルトは俺を見た。


「君が……救ってくれた」


 その目は驚くほど穏やかだった。


「掃除、か」


 小さく笑う。


「そんな方法を思いつく者がいるとはな」


「綺麗にするだけですよ」


 俺がそう言うと、アルトは少しだけ笑った。


 その瞬間。


 彼の身体がさらに粒子化していく。


 限界なんだろう。


「最後に……これを」


 アルトが手を伸ばす。


 王座の奥。


 そこに隠されていた白銀の箱が開いた。


 中には、一振りの白銀箒。


 ただの箒じゃない。


 柄には古代文字が刻まれ、穂先は星みたいな淡い光を放っている。


 視界に表示。


【神器認定】

《星掃杖ルミナブラシア》


【分類】:都市浄化級神器

【能力】:超広域浄化/汚染解析/都市循環接続

【適性】:清掃技能保有者限定

【備考】:かなり主任向け。


「また俺専用か……」


『適性値が異常です』


 ルナが即答する。


 褒められてるのか分からない。


 だが箒へ触れた瞬間、分かった。


 凄い。


 ルミナス全体と繋がる感覚がある。


 空気。


 水。


 配管。


 流れ。


 全部見える。


 そして同時に――。


 視界の奥へ、新たな表示が浮かんだ。


【新規反応確認】

【外界汚染領域を検知】


・黒海領域

・腐食森林帯

・崩落迷宮群


【備考】

世界もかなり汚れている。


 俺は思わず笑ってしまった。


 ルミナスだけじゃ終わらない。


 まだ世界には、掃除する場所が山ほどある。


 かなり大変だ。


 でも。


 かなり楽しそうだった。

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