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会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
白銀都市ルミナス編

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第十二話 王座区画への道

 ルミナス最深層――《王座区画》。


 その封鎖が解除された翌朝、俺たちは中央塔地下最深部へ続く巨大昇降路の前へ立っていた。


 白銀の扉は半ばまで開いている。


 だが、その奥から流れてくる空気は、今までのルミナスとは明らかに違っていた。


 重い。


 湿気でも臭気でもない。


 もっと根本的な“淀み”だ。


 呼吸するたび肺の奥へ黒い膜が張りつくみたいな感覚がある。


 視界に表示。


【区域】:ルミナス最深層接続路

【汚染分類】:超高濃度滞留汚染

【汚れ度】:SSS+

【状態】:長期封鎖/都市核圧迫/深層汚染集中

【備考】:かなり奥で詰まっている。空気も重い。


「……息苦しいな」


 九条が小さく眉を寄せた。


 彼女の周囲に展開している簡易結界が、じわじわ黒く染まり始めている。


 空気に触れているだけで汚れる。


 かなり嫌な空間だ。


『現在地点より下層に、都市汚染の大部分が集中しています』


 ルナが淡々と解析を続ける。


『主任が浄化した各区画から排出された残滓も、この最深部へ流入しています』


「つまり全部ここに溜まってるのか」


『はい』


 月白が短く吐き捨てる。


「最後のゴミ溜めだな」


 雑な言い方だけど、たぶん正しい。


 実際、ここまで来る途中だけでも壁面には黒い脈動が走り、配管の継ぎ目には汚泥が固まり、床の隅では粘液みたいな汚れが泡立っている。


 今まで掃除してきた汚染全部が、最後にここへ流れ込んでいる感覚があった。


 でも逆に言えば。


 ここを綺麗にできれば、ルミナス全体が完全復活する。


 かなりやりがいがある。


 昇降機がゆっくり下降を始めた。


 白銀の光が遠ざかる。


 下へ行くほど、景色は黒くなっていく。


 壁面を走る巨大配管は脈動し、生き物みたいに膨張と収縮を繰り返していた。途中、何度も嫌な音が響く。


 ぎち。


 ずる。


 ごぽ。


 まるで都市そのものが苦しんでいるみたいだった。


 やがて最下層へ辿り着く。


 その瞬間、俺たちは息を呑んだ。


 広い。


 今までのどの区画よりも広い。


 だが、その巨大空間は白銀ではなく、黒で埋め尽くされていた。


 天井から何百本もの汚染管が垂れ下がり、床には黒泥が川のように流れている。壁面では赤黒い脈動が何度も繰り返され、都市中から集まった汚染が巨大な湖を形成していた。


 しかもただの汚れじゃない。


 呪い。


 腐食。


 瘴気。


 知識汚染。


 全部混ざっている。


【深層汚染池】

・禁書汚染

・金属腐食

・呪詛沈殿

・魔力腐敗

・黒泥滞留


【危険度】:極大

【備考】:全部混ざって最悪。かなり触りたくない。


「……うわぁ」


 思わず声が漏れた。


 酷い。


 かなり酷い。


 掃除好きとして逆に興奮するレベルで酷い。


 だがその時。


 黒泥の湖が大きく波打った。


 ごぼり、と泡が弾ける。


 次の瞬間、巨大な影がゆっくり立ち上がった。


 人型。


 だが身体は泥と紙片と錆鉄でできている。


 背中から無数のページが羽みたいに広がり、脚部には腐食した鎖が絡みついていた。


 顔はない。


 あるのは、真っ黒な穴だけ。



【名称】:汚書魔グリモアス

【種別】:複合汚染魔

【汚染分類】:禁書系+腐食系+泥濁系

【汚れ度】:SSS

【特徴】:知識侵食/汚泥生成/呪文暴走

【推奨洗浄】:ページ分離→核浄化→泥除去

【備考】:かなり読みたくない。



「嫌な予感しかしないな……」


 九条が引き気味に呟く。


 だが次の瞬間、グリモアスの周囲へ黒ページが舞い上がった。


 そこへ浮かび上がる無数の文字列。


 見た瞬間、頭が痛む。


「っ……!」


 視界がぶれる。


 知らない言葉が頭へ流れ込んでくる。


 読むな。


 本能が警告していた。


「見るな!」


 月白が即座に叫ぶ。


 九条も慌てて視線を逸らしたが、一瞬だけページを見てしまったらしい。


「う……!」


 彼女の結界が黒く濁る。


 まずい。


『精神侵食確認』


 ルナが即座に浄化障壁を展開。


 だがページの一部が障壁をすり抜ける。


 厄介だ。


 でも見える。


【重点汚染箇所】

・胸部禁書核

・背部呪文頁束

・下半身泥濁槽


【攻略のコツ】

読む前に剥がす


「任せてください」


 俺は前へ出る。


 清浄衣アウラクリアが白く輝く。


 今までよりずっと魔力の流れが澄んでいる。


 汚れの層がよく見える。


「【広域清掃】!」


 白い風が吹き荒れた。


 舞い散る禁書ページが、一気に吹き飛ばされる。


 さらに月白が踏み込む。


「――斬浄」


 銀線。


 ページ束だけが綺麗に切断される。


 中身は傷つかない。


 完全に“不要部分だけを斬る”技術だ。


「九条さん!」


「固定結界!」


 青い術式が泥濁を凍結。


 動きが止まる。


 今だ。


 俺は胸部核へ箒を叩き込む。


「【浄化】!」


 白光が爆ぜた。


 黒泥が吹き飛ぶ。


 禁書が崩れる。


 呪詛が霧散する。


 そして巨大な汚染体は、静かに崩れ落ちた。


 その奥。


 黒い湖のさらに向こうで、何か巨大なものが脈打っていた。


 どくん。


 どくん。


 都市そのものみたいな巨大鼓動。


 視界に警告が広がる。


【都市核接近】

【深層存在反応確認】


【備考】

まだ奥にいる。かなり大きい。


 俺たちは、ようやく本当の最深部へ辿り着こうとしていた。






汚書魔グリモアスを浄化したあと、俺たちはさらに深部へ進んでいた。


 だが、進めば進むほど景色がおかしくなっていく。


 白銀都市ルミナスだったはずの壁面は、ほとんど黒に侵食されていた。


 床には粘つく黒泥。


 歩くたび靴底が沈み、ぬちゃり、と嫌な音を立てる。


 天井からは黒い液体が絶えず滴り落ち、壁を走る巨大配管は、生き物みたいに脈動していた。


 どくん。


 どくん。


 呼吸するみたいに膨張と収縮を繰り返している。


 そのたび、配管の継ぎ目から黒泥が滲み出た。


 まるで都市そのものが病気だ。


 しかも厄介なのは――。


「また戻ってる……?」


 俺は眉をひそめた。


 さっき清掃したばかりの壁面へ、再び黒い染みが浮かび上がっている。


 浄化したはずなのに、数分で再汚染。


 普通じゃない。


『汚染流量が異常値です』


 ルナが即座に解析する。


『現在も深部から大量の汚染供給を確認』


「つまり元凶が近いってことか」


『はい』


 九条が嫌そうに肩を落とした。


「近づくほど環境が悪化してるんだけど……」


「逆に言えば掃除しがいがありますね」


「相馬くん時々ズレてるよね?」


 でも実際、ここまで徹底的に汚れていると燃える。


 掃除人として。


 そんな会話をした直後だった。



 前方の黒泥が一斉に泡立った。


 ごぼ、ごぼごぼごぼっ――!!


 大量の泥が盛り上がる。


 次の瞬間、巨大な四足獣が姿を現した。


 全長十五メートル以上。


 全身を黒泥で覆われ、背中には無数の配管が突き刺さっている。腐食液が口から垂れ続け、足が床へ触れるたび周囲が黒く染まっていく。


 赤黒い眼光。


 重い咆哮。


 通路そのものが震えた。



【名称】:黒泥獣バルグロア

【種別】:深層汚染獣

【汚染分類】:泥濁系+配管寄生系+腐敗循環系

【汚れ度】:SSS

【特徴】:自己汚染再生/黒泥散布/高耐久/腐食液生成

【推奨洗浄】:循環遮断→泥除去→核清掃

【備考】:かなりぬめる。しかも臭い。



「うわ、絶対触りたくない……」


 九条が本気で引いていた。


 だがバルグロアは待ってくれない。


 黒泥を撒き散らしながら突進してくる。


 轟音。


 床が砕ける。


 重い。


 しかも速い。


「速っ!?」


 九条が慌てて障壁を展開。


 だが激突した瞬間、黒泥が結界表面へべったり張りついた。


 じゅううう――。


 嫌な音。


 青白い結界が黒く濁っていく。


「結界が溶ける!?」


 腐食性能まであるのか。


 かなり厄介だ。


 さらにバルグロアが身体を震わせた瞬間、背中の配管から黒泥弾が大量射出された。


 壁。


 床。


 天井。


 着弾した場所から一気に汚染が広がっていく。


 まずい。


 放置すると通路全部が泥化する。


 だが見える。


【重点汚染箇所】

・背部寄生管

・首部循環核

・腹部泥濁槽

・後脚腐食溜まり


【攻略のコツ】

流れを止める


「ルナ!」


『了解』


 瞬間、周囲の古代配管が開いた。


 高圧浄化水が一斉噴射。


 白い水流が黒泥を吹き飛ばし、背部配管の一部を露出させる。


「今!」


 月白が駆けた。


 踏み込みが速い。


 セレスフィアが白銀の光を引く。


「――斬浄」


 銀線が走った。


 背部寄生管だけが正確に切断される。


 すると黒泥循環が乱れ、バルグロアの巨体がぐらりと揺れた。


 だがまだ止まらない。


 咆哮。


 腐食液が散る。


 その一滴が床へ落ちただけで白銀金属が黒く腐る。


「うわ、汚い!」


 反射的に箒を振るう。


「【瞬間清掃】!」


 白光が弾け、腐食液を即座に除去。


 そのまま踏み込む。


 清浄衣アウラクリアが強く輝いた。


 黒泥の侵食がほとんど通らない。


 すごい。


 かなり快適だ。


「相馬くん!」


「大丈夫です!」


 俺はそのままバルグロアの足元へ滑り込む。


 近くで見るとさらに酷い。


 毛並みだと思っていた部分は全部汚泥の塊だった。内部では白銀装甲が泣くみたいに軋んでいる。


 元は守護獣。


 完全に汚染されてるだけだ。


「綺麗にします」


 箒を握り直す。


「【超洗浄】!」


 白光の奔流が炸裂。


 腹部泥濁槽が一気に削れる。


 黒泥が吹き飛ぶ。


 さらに九条が術式を展開。


「浄縛固定!」


 青い鎖が首部循環核を拘束。


 動きが止まる。


 そこへ月白が最後の一撃を放った。


「――浄星断」


 白銀の閃光。


 首部核だけが綺麗に断ち切られる。


 次の瞬間。


 バルグロアの全身から黒泥が一斉に吹き飛んだ。


 崩れる汚染。


 剥がれる腐食。


 現れたのは、美しい白銀装甲を持つ古代守護獣だった。


 低く鳴き、静かに頭を垂れる。


【深層回廊守護獣、正常化】


 同時に、最奥の巨大扉がゆっくり開き始めた。


 漏れ出す黒い瘴気。


 重い鼓動。


 空気が震える。


 視界いっぱいに警告表示が広がる。


【最深部接近】

【王座区画接続確認】

【超大型汚染存在・待機反応】


【備考】

かなり大きい。かなり汚い。

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