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見慣れない冒険者

「うちのパーティーにこないか?」と、何度もかけられる誘いの全てを断った僕は、事後処理に走り回るジノの側で静かに成り行きを見守っている。

ジノは受付見習いの筈なのに随分あちこち動き回り、すっかり仕事も板についている様で忙しい。

すでに数日の間で多くの冒険者に顔を覚えられている事からも彼の仕事ぶりをうかがい知れる。

もっとも、ギルド受付の顔ぶれは内勤ばかりで滅多に現場に赴く様子がなかったから。

フットワークの軽いジノだからこそ余計に目を引いてしまうところもあるのだと思う。


あんなに動き回って疲れないのか?と思いつつ。

まだ若いのに凄い奴だと、僕は感心してしまう。


「うけちゅけはしょとまわりもしゅるの?」受付は外回りもするの?


思わず声に出た僕の疑問に、ジノは一瞬面倒くさそうに顔を歪めてからぐしゃぐしゃと僕の小さな頭を撫でつぶし。

「さぁな」と、とぼけた言葉で濁してまた駆け出していってしまう。


疑問系ではぐらかしたジノの返答に、それ以上僕も追求せず。

傷薬を配り、冒険者の役割を確認し、事後処理に走り回るジノの姿を、ボーっとしながら目だけで追いかけていた。


そんな僕の片足には木の棒が布でガチガチに固定され固められており、僕の座り込んだ石畳とお尻の間にはギルド職員であるジノの上着が敷かれた高待遇で。


「坊主はあの受付の兄ちゃんに大事にされてんのなぁ」


ズシンと頭に感じた重みは、僕に絡んでくる何度目かの冒険者の重みで。

またパーティーの誘いかな?と、僕はのろのろ後ろを振り返った。


僕の頭に腕を乗せていた男は、冒険者風の装備に身を包んでいながらも何処か見慣れない違和感を感じさせる若い男。

こんな人居たかな?と記憶をたどりながら、もしかすると、討伐の後に人伝に僕の事を聞いたのかもしれないと僕は頭の中で考えながら男を見ていた。


「俺の顔に見覚えなかった?」


まるで僕の考えをわかっているとばかりに言い当てた男に、僕は少し警戒しながら首の動きだけで頷きを返す。


「へえ、よく人を見てるんだね。

やっぱり君くらい秘密が多いと警戒心強くなくちゃ生きてけない?」


男の切長の目の中心が蛇の瞳のように縦長の瞳孔に見えた僕は、咄嗟に身がまえ。

身体を反転させる事で男から距離をとろうとして、失敗した。


「っ……」


ガチガチに固定された足が動きにくい事も勿論理由にあったけれど。


男は躊躇なく僕の固定されている方の足を握り、そのまま握り潰すように力を込めて、僕の動きを止めてきた。


敵意も、悪意もないわからない不気味な目は、世間話をしているような穏やかさで僕を見ながら。

その手は、負傷した僕の頼りない小さな足を固定に添えた木ごと容赦なく躊躇もなく強く握り潰して、逃すまいと徐々に徐々に力も脅すように込めていく。


この男普通じゃない。


僕は足を握られたまま、男に向け突き出した手に精一杯の魔法を込めて薙ぎ払う。


バチンッと音を纏った閃光は、一瞬光って直ぐに煙だけ残して消える程度のものだけど。

僕の考える護身術としては1番のとっておきの切り札。


静電気を模して起こした雷撃は、男の片腕にあとを引くような痺れと煙だけを残して消え去る。


水魔法が一般的なこの世界で、僕の護身術を魔法だと認識される事も少ないかもしれない。

偶然か、魔法か。何かわからない謎の痛み。

そんな攻撃を受ければ、予測していなかった相手は必ず怯むと考えて作り出した護身術は、初めての使用で予想以上の効果をだしてくれた。


思惑通りに男を怯ませ。

隙を逃さず男の手を振り切った僕は、転がるように距離をとり足を引き摺りながら後退して転がりながら距離をとる。


「いってぇな手がじんじん痺れてる。バチンときたけど、今の魔法?」


男が顔を上げる頃には、僕の小さな身体は相当の距離ができるほど離れていた。


「わぁ。やるねぇ」


逃す気はない、と。

穏やかな雰囲気でにっこり目を向けてくる男が僕の方へと歩き出す。

何の危害も加えてきそうにない無害に見えるような雰囲気で。

躊躇なく子供の足を握りつぶそうとした人物にはとても思えず、奇妙で、そして不気味だった。


「ねぇ!今のどうやったの?

魔法かな?魔法使いくん教えてー」


無邪気に声を大きくした男があまりにも怖い。

僕の恐怖心を分かっているのかいないのか、引く様子がない男は僕をゆっくり追いかける。

まるで急いでいる様子も無いようで、けれども狙った僕を決して逃がさないような執念深さで僕を追う男の不気味さに僕は真顔で距離をとりにげた。


近づいてたまるかと逃げ出す僕の背中に向けて、男は慌てる様子もなく切長の瞳を不気味な笑みに変えて僕を追う。


彼はいったい何者だろうか。

僕が迂闊に水魔法以外を使ってしまったから、珍しい草の魔法が使える子供だと目をつけられてしまったのだろうか。

しくじった。

もっとうまく隠すべきだった。

後悔しても遅いけれど、僕はやっぱり考えてしまう。




「お前足怪我してんだろ。

何してんだ?」


聞き覚えのある声が僕を呼び止め。

僕が振り向いた先に居たのは先の戦いで共闘した魔法使いの一人。

彼は無我夢中で距離をとる僕と男の間に入り込むと、僕を背後に庇い男にむきあった。


「追われてんのか。あいつ誰?」


「しりゃにゃいけどちゅいてくりゅ」知らないけどついてくる


僕の答えに魔法使いの男はため息を吐くと、「魔法使いはモテるんだ。これからお前も苦労するぞ」と僕に聞かすというより独り言かのように呟いて。

僕の身体をそっと背中に隠してくれる。


いきなり庇われる形になった僕は驚いて魔法使いの男の背中を見上げていた。

知り合ったばかりの、経験はあるようだけど決して強いとは言えない冒険者の彼の背中。

なんだかとても尊く有り難く立派な背中に見えて、僕は胸の前でギュッと小さなおててを握りしめる。


「なあ、ナンパならよそ当たれば?こいつまだチビだからパーティーは全部断ってるよ」


魔法使いの男の言葉に、追いかけてきた男は怯む様子なくにやりと切れ長の目を狐の眼のように細くした。


「そうなの?残念だなぁ。君は誰?」

「俺はデイル。一応、俺もさっきの討伐に参加してた魔法使いなんだけどなぁ」

「へぇ。デイルも居たの。僕は参加してないから別にどっちでもいいんだけどね」


掴みどころの無い会話に、デイルと名乗った魔法使いの男は肩越しで僕に「あいつなんか怖いな」と愚痴ってきた。

そうですね。

僕も同じ意見です。

同意を示すようにギュッとデイルのローブの裾を握りしめた僕。


「えーっと、あんたは冒険者?見かけない顔だけど他の街から?」


デイルの問いに男はニイイと笑みを深め。


「僕は「通称白蛇へび。王都のネームド冒険者がロカの街に何のようだ?」ん?情報通なお兄さんだね」


男の言葉に被せて聞こえた声はジノの声。

男は会話に割り込んだジノに気分を害した様子もなく、笑みを浮かべたままくるりとジノに視線を向けた。


「スカウトだよ。有能な魔法使いの子供がいるって聞いてね」

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