僕の戦い
僕が真っ直ぐモンスターに向かって歩くたび、共闘している冒険者からの歓迎されない視線が突き刺さる。
また子供か。
あの子供も注意が必要な種類の人間か?と、不信感いっぱいに向けられる視線を受け流して進んでいく。
もともと戦場での子供への期待値は高くなく、連携が難しいうえに足手纏いだと歓迎されない存在。
唯一の役立てる子供といえば、余程魔法に自信のある魔法使いの子供くらいなのに、今はその魔法使いの子供こそが警戒される対象であるから子供に対しての期待値は無いに等しい。
「ガキは下がってろ」
「来るな。死にたいのか?」
突き放して退場を促す大人は、言葉はきつくても優しい部類で。
本当に酷い大人は舌打ちのみであったり、戦場に入り込んだ異質な子供を無視する事で煩わしさを紛らわせている者達。
彼等にとって、戦場に入り込んだ子供は気に留める必要もない存在として切り捨てている。
だからこそ苦言の一つも投げずに存在を無視して見逃され、怪我にも生死にも興味なく見えていても目に止める事もない。
まるで道端の雑草や石のような風景であるかのように。
沢山の悪意の視線と無言の悪意に晒されながら、僕は歩みを止めずにモンスターと向き合う位置に辿り着いた。
見た目は華奢で小さな小さな子供の僕だけれど、中身は彼等よりも年輪を重ねたおじさんなので情緒の制御も苦ではない。
怯むことなくモンスターに近づいた僕は、モンスターの正面で対峙する二人の魔法使いが協力しあい水魔法の膜を張っている姿に見入って歩みを止めた。
幾度も向かってくるモンスターの追撃で、バリアは何度もひび割れていくものの。
割られるたびもう一人がバリアを展開して凌ぐ形で、ギリギリの綱渡りをしながら防御の負担を交代しあっている。
凄い。
二人は威力の強い魔法使いではない様子だけれど、彼等の対応は今彼等に出来る最善を隙なくこなしあっているもので。
僕は冒険者としての経験と技量を彼等に間近で見せつけられたような気さえした。
魔法使いの張ったバリアで退路を確保しながら、タイミングよく斬りつける剣士の動きもいい。
なにより凄いのが魔法使いのバリアが壊れて途切れるタイミングで、間髪入れず剣士が注意を引き合いフォローしあっているところ。
前回とは違い、今回は恐怖に支配されず冷静にその様子を見ることができた僕は、平常心を保った自分の状態に気持ちを強く持ち直しながら、二人の魔法使いの隣に並び立った。
「ぼくはあしどめをやりましゅ」僕は足止めをやります。
そう言って片手を前に突き出した僕は、しゅるしゅると蔦を編み上げモンスターの足元に絡み付けていく。
プチプチとちぎられる事は想定内で、ちぎられるたび次々とまた蔦を生み出し足を絡め取っていき、決してモンスターを逃さないように。
何度も何度も蔦を生成していった。
この個体が、僕の魔法の蔦で拘束可能な事は既に分かっている事だったから。
僕の魔法には迷いもない。
「なんだあの蔦?!坊主の魔法か?」
「草の魔法?すげぇ初めて見た」
視界の隅で驚愕して振り向いた水の膜を維持する魔法使いに、僕はモンスターに視線をむけたままこくりと頷く事で答えを返す。
魔法の種類は僕が勝るかもしれないけれど、彼等の経験値は僕にはない技術がある。
そんな彼等から評価を得た事は純粋に嬉しい事で誇らしい。
ベテラン魔法使いに賞賛されたことで注意をひき、斬り込みを続けていた剣士も僕を振り返った。
「……あの蔦、最初きた時にみたな」とぽつりと呟いてから、剣士は思い立った顔で僕を指差し。
「ってことは、モンスターを最初に足止めしてくれてたのは坊主か」
野次馬ばかりでまだ冒険者の姿も少なかった時にモンスターの足止めをしていたのは確かに僕。
それも、魔法使いの少年に吹っ飛ばされるまでの事であったから、目撃者は多くないはずだったけれど。
彼は早々にこの場に駆けつけてくれた冒険者の一人だったのだろうか。
「あい」と頷く僕をチラリとまた振り返って見た剣士。
彼の目は、片足を不安定にしたまま片手で棒を握りしめ立つ満身創痍な僕をとらえていた。
思う事があったのか、彼の目は僕を見るたび徐々に同情した目に変わっていき、やがては口を歪め。
「お前ぼろぼろじゃねぇか。
坊主はモンスターにぶっとばされたか、あのガキの魔法で吹っ飛ばされたののどっちだ?」
「まほうがちょんできましちゃ」魔法が飛んできました。
「可哀想に」
「まじかよ。あのガキも俺らみたいにふっとばされたのか」
「モンスターの足止めしてくれてた魔法使いをふっとばしてたとか。
あのクソガキまじで余計な事ばっかしてやがる」
剣士との会話で、僕に向けられていた冒険者からの敵意と警戒はガラリと様子を一変させた。
得体の知れない子供から、彼等の認識の中で僕は同じく被害者で子供という認識に立ち位置が変わり。
冒険者達からの同情が沢山集まりはじめて、やがては仲間意識を持ちはじめた者までも出始めた。
トゲトゲしい視線の一部が生暖かい視線に変わっていくのを感じながら。
僕は冷静にモンスターに向き合い魔法を行使し続けている。
「よし、坊主そのままモンスターを固定できるか?」
「できましゅ」できます。
「頼もしいな。坊主が足止めを頑張るならとどめは俺らに任せておけ!」
「頼もしい魔法使いは大歓迎だ」
「足止めして貰えるならありがてぇ」
「一気にたたくぞ!」
消極的に退路を確保しながら攻撃を繰り返していた剣士たちは、積極的に前に出ていき斬撃を繰り返しはじめ。
それをみた魔法使いの二人も、前に前にと移動しながら、斬撃を出した後の剣士の退避場所を確保しながら距離を詰めていく。
流石だなぁ、と。
同じく魔法使いの僕は、集団戦での魔法使いの動きに興味深々で。
指示されなくても動く二人の魔法使いの姿を目の端で必死に追いかけ、学びとる。
「押してるぞ!いいぞ!このまま押し切れ」
「うおおおっ」
怒号のように叫んだ最前列の剣士の声に、他の冒険者たちも唸るように声を上げた。
僕は目と肩を熱く熱く、赤く赤く染め上げながら、ギリギリまでモンスターに蔦を絡みつかせ。
動かすものかとその身体を地面に、蔦でがんじがらめにしっかりと繋ぎ止めた。
冒険者の猛攻に、さすがのモンスターの動きも怯んできているようで。
やがては抵抗が僅かに押し負けているように変わり。
ちぎられる蔦の頻度はずっとずっと少なくなり、僕の生成した蔦はより高く、より多くモンスターの身体に絡みついていきその怪力を封じていく。
「とどめだ!」
「いくぞ!」
叫んだ剣士の一撃は、僕の生成した蔦に身体を半分ほど絡め取られていたモンスターの心臓部に深く深く突き刺さり、モンスターはとうとう動きを止め。糸が切れたようにぐたりと止まって、蔦から逃れる為の抵抗もなく脱力した。
「やったか?!」
蔦で身体を地面に縫い付けられたモンスターは倒れることができない。
動きを止めた身体は、立ったままで。
けれども確かにぐったりとして、だらりと力がぬけているように見えている。
もういいだろうか?
僕は迷いながら生成した蔦に加える蔦から力を抜いた。
「どうだ?!」
「坊主!蔦が邪魔で見えねぇ!退かせるか?」
退かす?
蔦を?
僕は生成した蔦に目を向けて、キョトンと瞬きを繰り返し。
少し考えてから口を開く。
大きな声で、しっかりと。
「むりえす!」無理です。
「ほぁ?!無理ぃぃ?」
僕の返答に気の抜けたような剣士の大声が広間に反響し、僕の小さな鼓膜をびくびく震わせる。
言い訳になってしまうのだけれど。
蔦の魔法を生成しなれた僕が、過去に蔦の魔法を使った場所はずっと森の中で処理に悩む事はなかった。
今日だって使いながら、千切れた蔦を途切れさせずに繋いでいくことばかりに集中していたから。
蔦を消すという発想など思い浮かべたこともなかったのだ。
「あい」
僕は返事をしながらうんうん、うんうん考えて。
うんとうーんと考えて。
僕なりの結論を導きだした。
「もやちゅ?」燃やす?
僕の出した結論に、剣士は「これだからクソガキはっ」と悪態をつき、頭をボリボリかきむしりながら叫ぶ。
「燃やすわけあるか。
アホゥ!火事になるわ」
「野郎ども手ぇ貸せ!蔦ぁ解くぞ!」
「仕方ねぇなぁ」
「やっぱガキはガキだな」
「蔦から引っ張り出して止めささねぇと。焼いちまったら素材が取れねぇからなぁ」
そうか、素材がとれないか。
それは確かに困る。
「気をつけろよ。まだ生きてたら襲いかかってくるかもしれねぇ」
「ほどきながら確認していこう!」
僕は再び歓迎されない視線に晒されながら、蔦をひっぱる彼等に混ざり、小さなおててを必死で動かして絡みついた蔦を引っ張る事になった。
出したものは仕舞わなきゃいけない。
僕はこの日、大切な事を学習したのだった。




