第1223話 クロスステッチの魔女、久しぶりに食事をとる
乾かした革と染めた糸に蝋を引き終えた頃には、それなりの大きさがあったはずの蜜蝋の塊は随分と小さくなってしまっていた。まあ、これは仕方のない話だ。足りなくなってしまうかと途中からドキドキしていたけれど、幸いにも、そうなる心配は仮定で終わってくれた。もう一回ガッツリと蝋引きをするには足りないけれど、一応、手のひらで握り込める程度の大きさは残ってくれている。
「蝋を引いたらどうするのー?」
「まずはある程度、乾くというか染み入るのを待つのが教わったやり方なのよね。というわけで、食事にしましょうか」
没頭していた作業が終わると、空腹を感じる。というわけで、自分の食べたいものを気晴らしも兼ねて自分で作ることにした。
魔法で出して温めた白パンと、焼いた燻製肉と、乾燥野菜と干し肉を戻したスープ。ついでに食糧庫も確認したけれど、食べるものはちゃんとたっぷりあった。《状態保存》の魔法を過信しすぎるとたまに悲しいことになるので、前にしまい込んだものから使っていく。ついでにチーズの塊を少し削って、お肉と一緒に焼く。山羊のチーズ、もっと気軽に食べられるようになりたいなあ。牛のチーズはクセがなくて物足りない。
「マスター、もっとちゃんと朝昼晩……せめて、朝と晩は食べるべきです」
「集中してしまうとつい、ね」
「魔女とはいえ、あんまり食べないのはダメだってイースさまが言ってたよー?」
「だから、あるじさまのことを気にしてあげてって」
そんなイースとお師匠様由来のお小言を、少し言われることにはなったけれど。テーブルには全員がついて、それぞれの皿に取り分け、食事とした。もぐもぐと食べているうちに、やっぱりお腹は思っていたより空いていたらしい。おかわりが欲しくなって、まず、魔法でパンをもう少し出した。割って壺のバタを塗り、もう少しお腹を満たしていく。……染め物と蝋引きであれこれしていたからか、しっかりしたものを食べたのは随分と久しぶりのように感じる。
「おかわりするのはキーラさまの魔法ですし構いませんが、もっとこまめに食べるべきかと」
「そうね……みんなもいる?」
「ください」
みんなにパンを分けてやりながら、春に時計を買ったら食事の時間を決めるべきか、と少し思った。けれど、刺繍ならともかく染め物や調合が佳境に入ってしまった段階で、無理に切り上げて食事にするというのははっきり言って、あまりやりたくないことだった。そういう時は例外にするべきだろうか。




