第1220話 クロスステッチの魔女、蜜蝋を煮込む
氷柱鹿の粉で保冷用の袋を作る場合、袋の色はせっかくなら、普通の革袋とは違うものにしたいと思った。これは別に、理由に魔法は関係ない。普通の無地の革にしていた場合、うっかり温めてしまったりスープを入れる可能性があるからだ。色を変える方が、魔力で判別するより私にはわかりやすい。
「氷柱鹿の粉で絹糸を染めて、蝋を引く……それから満月の夜に雪に埋めて……」
間違えないように、指で記述をなぞりながら本の内容を確認した。絹糸は少し革に使うには弱い気がするけれど、それを蝋で引いて補填するのだろう。魔力を練り込んで作る魔蝋は今持っていなかったから、作るところからしないといけなかった。
「蝋は確か、前にまとめて買った蜜蝋があったからそっちをいくつか溶かして……魔力を練り込むのは普通に自分でやればいいものね。魔法で急に冷やすのは失敗しやすいって言うから、今日は蝋固めだけして作業は明日からかな」
「そっかあ、難しいんだね」
「……雪の中に置いておけば、早く固まらないかしら」
ふと思い立ったことを実験するためにも、蜜蝋を早速鍋に溶かした。丸い既定の型に押し固められた蝋には、素材が分かるように蜂の絵が刻印されている。それを鍋にころころと何個か放り込んで、火にかけた。
「ねえねえ主様、これって蜂以外の絵もあるの?」
「あるわよ、他にも蝋が取れるものはあるもの。ただ、せっかくだから少しいい匂いがする蜜蝋を私が好きで使っているだけ」
これについては、単純に趣味だった。他には葉っぱを刻印した植物蝋や、海の方から買い付けてくるという鯨蝋、あとは羊蝋もあるそうだけれど……これは蝋を取ってしまうと羊毛としては使えないらしいので、あまり出回っていない。海の方から渡ってくる、鯨蝋より珍しい気がする。
「このままだと小粒すぎるから、蝋を溶かして、固め直してから使うの。封蝋用に買ったんだけど、手紙を出す機会って意外とないのよね……」
小さな粒に固められたものを袋単位で買ったのは、封蝋用なのだ。お師匠様やグレイシアお姉様は、色々と手紙を出す機会がある。自分もあるだろうと思ってまとめ売りしていたものを買ったのだけれど、水晶玉で連絡を済ませてしまうことも案外多いので、意外と出番がないのであった。たまには使ってあげないとね、と、手に握れる大きさになるように蝋を溶かし、三角に固めてまずは机の上で冷やすことにした。料理のように粗熱を取ってから、夜の雪に晒しに行く。




