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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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1218/1229

第1218話 クロスステッチの魔女、革細工の魔女と別れる

 シェーラ様に粉を分けてもらったとはいえ、何を出していいかは少し迷ってしまった。もらいっぱなしは申し訳ないけれど、今そんなに――特に革細工の魔女の役に立ちそうな――素材はカバンにはない。


「そんなに慌てなくてもいいのに。それなら、その普通の鹿の骨粉を少しもらっても?」


「構いませんけど……いいんですか?」


「最近は魔物素材ばかりで、普通の獣の素材はあまり持ってないのよ」


 魔法の植物の糸ばかりを使っている時に、普通の植物染めの糸に戻るようなものだろうか。なんとなくそう解釈して、私はもらった分の骨粉をシェーラ様にお渡しすることにした。


「これで糸を染めて、魔法に使おうと思います」


「粉自体も少しひんやりしているから、暖炉のところに置いたりするのはやめておくべきよ。最悪、溶けてただの水になるから。勿体無いでしょう?」


「絶対に気をつけます!」


 あまりにも勿体なさすぎる。しかも、いただきものだ。家の資材庫の中で、一番涼しい場所に置いておくべきだろう。……ついでに整理して、温度管理の必要なものが十全にできているかも確認しておこう。他にもいくつか、そういうものがあったから。


「レディ、そろそろ――」


「ああ、そうだったわね。随分と長居をしてしまったわ」


 シェーラ様はユミアに促されて、スカートの裾をつまむ淑女の一礼をした。私も胸元に手を当てる礼をする。


「あなたのような若いご近所さんに会えてよかったわ、キーラ。また会えたら、革を見せてもらおうかしら」


 今日はたまたま、ルイスは前に作った魔兎革の靴を履いていなかった。勿体無いから、としまいこみがちにしてしまっているのを、普段はルイスの物だからと何も言わないでいるけれど、こんなことになるとは。


「ありがとうございます、シェーラ様。拙い素人仕事ですが、それでもよければ」


 今漬け込んでる鹿革は、本当に念入りに仕事をしないといけない。別に今までも手を抜いていたわけではないけれど、より気合が入った。シェーラ様が水車小屋を出た後で、私も小屋から離れる。


「頑張らないと、色々と……それにしても、この辺りの魔女にはさすがに二十年かけて挨拶して回ったと思ってたんだけどなあ」


「さすがは魔女の方々です」


 ルイスは何故か、何かを納得して頷いた顔をしていた。長く生きたら、私も二十年を二十日のように語れる日が来るのだろうか……ダメそうな気がする。それでもそのうち、いつかはそうなるのだろうとわかっていた。

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