第1217話 クロスステッチの魔女、革の使い道を話す
シェーラ様は私のなめした革を見たがったけれど、さすがに、まだなめし液に沈んでいるものは見せられなかった。まだ未完成である、というのがひとつ。それから、革細工の魔女に見せられるようなものではない、というのも大きかった。
「なめし液は地域と育ちと師の教えで、結構色々な形になるものなのよ。どんなものか興味はあるのだけれど……無理強いはよくないものね」
「なめし液なんて、どこで作っても同じだと思うんですが……」
私のやり方は人間だった頃、あの村で猟師から習ったものだった。色々と仕事を言いつけられることが多かったから、やれることを増やしたくて。さすがに猟師の子ではないから、皮剥ぎとかはさせてもらえなかったけれど。私のやる気を買ったと言って、なめし液を作ることは手伝わせてもらっていた。なので、自然と作り方は頭に入っていて、今もそれを使っている。お師匠様も、私が作れると言ったらそのやり方でやらせてくれていた。
「ちなみにシェーラ様は、氷柱鹿の革でどんな魔法をかけられるんですか?」
「常に冷たい水袋、の改良版を作る予定よ。氷柱鹿自身に氷の魔力があるから、かなり冷えたものが作れるわ」
「夏場にありがたいものとなりそうですね」
もちろん、普通の革袋に魔法をかけて、その魔法で冷やすことはできる。けれど氷柱鹿の革には自分自身で冷える力があるから、例えば冷やす以外の魔法をかけるとか、あるいは革の魔法を強める形で冷やすのかもしれない。
「暑いのは嫌いだから、真面目に死活問題よ」
どこまで本気かわからない顔で、でもきっとかなり真面目に。シェーラ様はそう言いきり、骨粉もそのために使うと言った。
「氷柱鹿の革は染めないと青白のままで、骨粉とあまり変わらない色をしているから……そのまま使うと、布と糸の色が同じ、みたいなことになるのだけれどね。試すのが楽しみ」
「それは……いいか悪いか、大きく分かれますね」
魔法は目立ってこそ、という魔女もいれば、魔法を目立たせたくない魔女もいる。もちろん必要なのは『美しさ』であり、特定の魔力のある素材だった。ただ、色そのものは――もちろん厳密に問う時もあるけれど――多少、変える余裕のある魔法もあった。今回は、口ぶりからして色を変えても問題がない魔法をかけようとしているのだろう。《砂糖菓子作り》なんかは、糸の色を変えると出来上がる砂糖菓子の色も変わるので、楽しい魔法だ。
「今日の出会いに、少し分けてあげる。瓶はある?」
慌てて、私は空き瓶をカバンから探すことになった。あってよかった。




