第1216話 クロスステッチの魔女、《名刺》を交換し合う
シェーラ様の持ち込んだ骨は、しばらく待っていると皆、白くて綺麗な骨粉になった。私の骨粉と違ってひんやりした魔力があり、うっすらと青みがかった骨の色は、粉にもそのまま残っている。きっと、何かとても美しいものになるのだろう。
「ところであなた、《名刺》はある?」
「はいっ、お師……師の教えで、いつでも懐に入れてます」
危うくまた「お師匠様」が出かけたのを取り繕いつつ、私はわたわたと軽く手を振りながら自分のポケットを漁った。しばらくすると、ちゃんといつもの位置に自分の《名刺》である《幸運》の魔法を刺したくるみボタンが見つかったので、ほっとした気持ちで取り出した。
「シェーラ様、こちら、私の《名刺》です」
「ありがとう。私のはこれよ」
渡されたのは、三本の指に乗るほど小さな革製の犬だった。飴色に焦げた色合いで、とても小さいのに、確かに犬の形をしている。つんとした鼻と、かわいらしく立った耳に、少し長い胴体。多分、元は鳥撃ち犬を模ったものだろう。目はついていないが、どこかとぼけたような表情をしていると確信できた。
「ちなみに鳥撃ち犬がもし好きでないのなら、他の種類の犬もいるのだけれど……」
「犬はなんでも好きです。かわいいですし。でも、せっかくなので見せてもらってもいいですか?」
シェーラ様、ではなくユミアの方が、さっと他の犬を取り出してくれた。素材の革が違うと思しき色違いの鳥撃ち犬だけでなく、黒と白を染めた牧羊犬や、大小の猟犬がいる。どれも皆、とてもかわいらしい出来だった。
「わあ、すごい……!」
「犬の頭の先端に輪を作ってあるので、ここから紐を通して好きな場所にかけておくこともできます。もちろん、お部屋に飾るのも構いません」
「なんて素敵! 私も種類を増やしてみようかしら……」
そんなことを、つい考えてしまう。美しいものを作るのが魔女の命題と知っていたけれど、かわいらしいものだって、みんな大好きだ。嫌いな魔女がいるものか――嘘、何がかわいいかの違いは、あるかもしれない。前に組合を歩いていた時に、蜘蛛がかわいいと言っていた声はちょっと、私には未知の『かわいさ』の世界だった。
「こういうくるみボタンを使う機会もないし、実はちょうど大きなボタンが欲しくてね。いい頃合いでもらえたよ」
「まあ、そうだったんですか?」
「袋の口を閉じるのにね」
《名刺》に対していらないと言えば、それは侮辱に直結してしまう。なのである程度の実用性を持った《名刺》を作るのが礼儀でもあったし、褒めるものでもある。お世辞かもしれないけど、やっぱり褒められるのは嬉しかった。




