第七十話
ルーはリオルとエリオラを連れて、この家に滞在しているアリステラのもとへと向かい、2人を紹介するとともに、魔道具の制作依頼をする。
「うーむ。ルー、ちとメデュアを呼んできておくれ。」
「分かりました。」
エリオラとリオルとアリステラのいる部屋に残し、メデュアを呼びにいく。
「アリステラ様が、私を?」
「はい、その魔道具の話だと思いますよ。今、エリオラさんが頼んでいますから。」
「分かりました。」
メデュアを連れてアリステラの元へ戻ると、後はこちらで話をすると言われ、リオルと共にその場を追い出された。
リオルはそのままエリオラを残してクランハウスに帰って行き、ルーは未だ目を覚さない蓮のいる部屋へと足を運んだ。
「蓮、入りますよ。」
ルーはドアをノックし、声をかけてから部屋へと入る。
蓮は変わらずベッドですやすやと眠っており、顔色も良い。
そのすぐ側では胡座をかいて目を瞑っているレイヴィアの姿があるが、これもあの日から変わらない光景だ。
ルーは蓮の眠るベッドに腰掛け、蓮の頭を優しく撫でた。
「皆、蓮を待っていますよ。そろそろ目を覚ましてください。」
窓から入る暖かな日の光が2人を照らしていた。
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微睡の中、一筋の光が差し込み意識が覚醒する。
目を開けると自室の天井が見えた。
「父よ!目を覚ましたか!」
すぐ側から声が聞こえ目を向けると、満面の笑みを浮かべるレイヴィアがいた。
「レ、イヴィア……ゴホッ、ゴホッ……」
目を覚ました蓮はレイヴィアの名を呼び、おはようと挨拶をしようとするが、咳き込んでしまいうまく声が出ない。
「すぐに皆を呼んでくる!」
そう言うと、レイヴィアは部屋のドアを開け、大声で叫んだ。
「おーい!父が目を覚ましたぞー!」
その声ですぐさま全員が蓮の部屋に集まった。
蓮はメデュアから受け取った水で乾いた喉を潤し、念の為アリステラに身体を診てもらっていた。
「うむ、問題無いようじゃな。魔力も安定しておる。10日間も寝たきりだったとは思えん程じゃな。」
手を翳し、何らかの魔法で蓮の診察を行っていたアリステラはそう言って魔法を解除した。
「えっ!僕、そんなに寝てたの!?」
蓮はアリステラの言葉に驚きの声を上げた。
1.2日の事だったと思ったと、続けて言う蓮にルーは質問する。
「眠っていた間に何かあったのですか?」
蓮の明らかに意識を失っていた間に何かがあったかのような発言。
そこに違和感を覚えたルーは蓮にそう質問した。
蓮はコップに残った水をゆっくりと飲み干すと、空になったコップをありがとうと言いながらメデュアに手渡し、ルーの質問に返答する。
「ベルちゃんとね、話してたんだ。」
「……そう、ですか……」
ルーにはそれが夢なのかどうか判断できなかった。
魔法という摩訶不思議な力があるこの世界で、絶対に無いとは言い切れないからである。
それ以上何も話そうとしない蓮。
しかし、蓮の表情はあの日のような悲壮感や絶望感の漂うものではなく、いつもの元気な蓮に戻っていた為、ルー達は無理に聞き出すこともしなかった。
その後、お腹がすいたと言う蓮の一言で少し早めの昼食を取ることとなった。
蓮はメデュアの作った料理を綺麗に完食し、膨れたお腹をさすりながらふぅと息を吐き出した。
「あっ、そうだ。あの部屋にあった魔書って持ってるかな?」
「ええ、私が持っていますよ。」
「じゃあみんなが食べ終わったら、新しい家族をお迎えしないとね。」
共に食事を取っていたアリステラは、さらりと告げられたその言葉に反応する。
「わしも見させてもらっても良いじゃろうか?」
「うん、いいよ。アリスお婆ちゃんは知ってるしね。」
蓮から許可を得たアリステラはそそくさと残った料理を平らげた。
平静を装ってはいるが、ワクワクとしているのが丸わかりである。
そんなアリステラの様子に、蓮は笑いながら話しかけた。
「アリスお婆ちゃん、なんだか楽しそうだね。」
「この歳になっても好奇心というのは抑えられんもんじゃな。」
蓮の言葉に、アリステラは少し恥ずかしそうにそう答えた。
食事を終えた蓮達は、早速とばかりに皆で広々とした庭に出てきた。
「ここでいいかな?ルー、魔書を全部出してもらえる?」
蓮の指示で取り出された魔書が計6冊、庭に敷き詰められている芝生の上に並べられた。
「ありがとう。」
そう言って魔書に手を翳す蓮に、ルーは待ったをかけた。
「蓮、このままでは目立ち過ぎてしまいます。結界を張りますので少しお待ちください。」
「そうだね。じゃあお願いするよ。」
ルーは頷き、結界を張る。
「ほぅ……。これは、わしの結界を基にしておるな。魔力の隠蔽がかなり強化されておる。」
「ええ、あの森で見た結界を参考にさせてもらいました。……さて、蓮。これでいいでしょう。」
ルーから許可が出た所で、蓮は再び6冊の魔書に手を翳した。
「『配下創造』」
蓮の言葉に呼応するように、膨大な魔力が噴き出しその場を包み込んだ。
「なんという魔力じゃ……。まさか、これ程とは……」
その魔力の奔流に、目を大きく見開き驚きの表情で固まるアリステラをよそに、目の前に広がる魔力のドームは徐々に収縮していき、人が2、3人入るだろうかという大きさになると弾けるように消え去った。
「これからよろしくね、ゼブルス。」
「ほっほっほっ。こちらこそじゃよ、蓮。」
差し出された蓮の手を握り返したのは黒いローブに身を包んだ、白髪に白く長い髭を蓄えた小柄な好々爺であった。




