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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第六十五話


 ルー達〝天魔の双翼〟の活躍により、絶望的にも思えた大氾濫スタンピートは終わりを迎えようとしていた。


「リオルさん!こっちは粗方片付きました!」


「分かった!残る魔物も片付けてしまおう!」


 右方を担当している月夜の旅人(ナイトウォーカー)を取りまとめるリオルは、森から溢れてくる魔物の数が格段に減ってきている事に、大氾濫スタンピートの終わりを感じ取っていた。


「まさか、こんなに早く、それなこれだけの被害で終わりを迎えるとは……。あの人達は、いったい何者なんだ……」


 リオルの視線の先には氷の世界に覆われた森の一角、それと対照的に燃え上がる炎に包まれた一角、全てが吹き飛び、窪んだ地面が露わになった一角と、下手をすれば魔物よりも森に被害をもたらしたのでは無いかと思ってしまうほどの光景が広がっていた。

 それはルー達、〝天魔の双翼〟が担当する中央部分であり、それを成したのが誰なのかは誰の目にも明らかだった。


「リオル。渡してきたぞ。」


 ルー達の圧倒的な戦闘力に困惑していると、すぐ側から声が聞こえ、リオルは思考を切り替えてその声に反応する。


「無事に受け取ってくれたかい?」


「あぁ。意味はわかっていないようだったがな。」


「まぁ、無理もないか……」


 リオルは違和感なく会話を交わしているが、その付近に人影は存在しない。


「で、この後は?」


「とりあえず静観かな……。念の為レンくんに張り付いといてくれるかい?」


「了解。」


 その言葉を最後に、リオルは残る魔物の討伐に向かった。


「皆んな!あと少しだ!最後まで気を抜くなよ!」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 中央部を担当するルー達〝天魔の双翼〟は、魔物達を鏖殺しながら森の中を進んでいた。

 襲い来る大氾濫スタンピートの魔物の大群を逆に侵攻していくルー達に、ジョセフはついて行くのでやっとといった状態だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。あいつら大氾濫スタンピートを抑えるどころか侵略してやがる。これじゃどっちが攻めてるのかわかったもんじゃねぇな……」


「ジョセフや。彼奴らは特別な人間達じゃ。自身を失くすでないぞ。」


「……さすがに比べる気にもならねぇよ。……なぁ、婆さん。あいつら一体何者なんだ?」


 樹竜を増やしながら隣を歩くアリステラに、ジョセフはダメ元で聞いてみる。


「わしにも分からん。だが、彼奴らはかの原初の魔王が死んだ島から空を飛んできたと言っておった。」


「んな!……そりゃ本当か?」


「本当かどうかはわしにも判断できん。じゃが、そんな嘘をつくような連中にはみえんのぉ。」


「婆さんがそう言うなら本当なんだろうな……。」


 そんな話を交わすジョセフ達の前では、相変わらずルー達が魔物に猛威を振るっていた。


「あいつらが人間側で本当に良かったぜ……」


 ジョセフはもしもルー達が敵側だったらと考え、その恐ろしさに身震いした。


「馬鹿な事考えとらんでわしらも働くぞ。」


「……そうだな。このままじゃギルマスとしての面子が立たねえ。」


 アリステラの言葉でジョセフは魔物に向けて駆け出した。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「アルバート様!森から出てくる魔物が途切れました!」


「そうか、報告ご苦労。皆!あと少し!あと少しで大氾濫スタンピートも終わる!最後の一踏ん張りだ!残る魔物を殲滅するぞ!」


「「「「はっ!」」」」


 アルバートは大氾濫スタンピートの終わりが見えた事に安堵の息を漏らす。


「アルバート様。」


 アルバートは側に現れた黒い影の呼びかけに答える。


「何があった?」 


「奴が動きました。」


 アルバートはその言葉に苛立ちを露わにする。


「くそっ!彼の言っていた事は間違ってなかったのか。……それで?どこに向かってる?」


「救護テントの方に。」


「狙いはレン君か……。警戒を強化しろ。」


「はっ。」


 そう言って、黒い影は姿を消した。


大氾濫スタンピートも奴の仕業か?この街を危険に晒すなど、いったい何を考えているんだ……」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 救護テントの中で、蓮は最後の怪我人の治療を終わらせた。


「これで終わりっと。」


「ありがとう。君は命の恩人だ。」


「どういたしまして!」


 蓮はふぅ。と息を吐き出し額の汗を拭う。

 周りを見回すと、もう治療が必要な怪我人はいないようだ。

 蓮は外の空気を吸いにテントから出る。

 少し離れた場所では、大量の魔物の死体が転がっており、一箇所に集めて燃やして処理している様子が見えた。


「終わったんだね……。街に被害がなくてよかった。」


 そう思い。ほっと胸を撫で下ろした蓮。

 そんな蓮に声を掛けてくる人物がいた。


「おう、レンか。中の奴らの治療は終わったのか?」


「あっ……ゴルギオスさん……」


「あ?どうした?」


 話しかけてきたのはゴルギオスだった。

 蓮は先程の手紙を思い出し、警戒を強める。

 

「ううん。なんでもないよ。」


「……ならいいけどよ。お前さんに礼を言いにきたんだ。俺のクランの奴も治療してもらったようだからな。助かったぜ。ありがとな。」


 そう言って右手を差し出したゴルギオスに、蓮は警戒しながらも握手に応じる。

 ゆっくりと手を差し出す蓮。

 次の瞬間——


「その子から離れろ。」


 ゴルギオスの首元に二本のナイフが突きつけられていた。



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