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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第五十五話


 ヘパストル工房で蓮の装備を発注した翌日、蓮は昨日行けなかった冒険者ギルドへ来ていた。

 今日の付き添いはルーとレイヴィアの配下組。

 目的は依頼にあった素材の納品である。


 中に入った蓮はカウンターにいるマリナを見つけ、近づいていく。


「マリナお姉ちゃん、こんにちは!」


「あぁ、レン君、こんにちは。ルーさんとレイヴィアさんも。」


 マリナは蓮に挨拶を返し、ルーとレイヴィアに視線を向けると軽く頭を下げた。

 今日はチラチラと向ける視線がルーに向いているようだ。


「今日はこの間の納品依頼を受けに来たんだ。ルー、お願い。」


 蓮の後ろに控えていたルーは、一歩前に出てカウンターへ近付いた。


「素材はこちらで出しても構いませんか?」


「い、いえ、あちらのカウンターでお願いします。」


 そう言ってマリナは少し離れたカウンターへ案内した。

 そこは依頼の受付カウンターよりも机が広くとられており、買取・納品カウンターと書かれた札が置かれていた。


「こちらが納品の際に使っていただくカウンターです。素材の買取もこちらで行ってますので、今後はそのようにお願いします。」


 ルーは素材を取り出し机に置いた。

 マリナはそれを一つ一つ検分する。


「……はい。全て確認が取れました。……そう言えば、パーティー申請がまだでしたね。少しお待ちください。」


 そう言ってマリナは受付カウンターの方から一枚の紙を持ってきた。


「こちらにメンバーの名前とパーティー名をご記入ください。」


 ルーは全員の名前を書き、蓮に場所を譲った。


「パーティー名は蓮が決めてください。」


「パーティー名かぁー……。マリナお姉ちゃん、パーティー名ってみんなどんなのにしてるのかな?」


「うーん、一概には言えないけど、自分たちの特徴を示した言葉を入れてる人が多いかなー。」


「特徴かぁー……」


 蓮は悩みながらルーとレイヴィアをみる。


「あっ、そうだ。」


 蓮はそう呟くと、ペンを動かし始めた。


「これでよしっと……。マリナお姉ちゃん、これでお願い。」


「確認するね。……はい、全部埋まってるね。では、パーティー名【天魔の双翼】として登録させてもらいます。」


 マリナは蓮達にそう言うと、奥の部屋へと入っていった。


「蓮、パーティーの由来を教えてもらえますか?」


「ルーとレイヴィアの翼だよ。ルーの綺麗な天使の翼と、レイヴィアのカッコいい悪魔みたいな翼。その二つを合わせてみたんだ。かっこいいでしょ?」


 蓮は嬉しそうにルーとレイヴィアにそう告げる。


「ありがとうございます。」


「父よ、私も翼を出していた方がいいか?」


「好きじゃないんでしょ?無理に出さなくていいよ。」


 そんな会話をしていると、マリナが戻ってきた。


「パーティー登録が終わったので、依頼もパーティーとして受け付けました。こちらが報酬です。確認してください。」


「……確認しました。全て蓮のものとしてギルドに預けます。それと、これをパーティーのそれぞれに預けられますか?」


 ルーは口を紐で縛った袋を五袋取り出し机に置いた。

 マリナはルーの許可を取り、袋の中を確認してギョッと目を見開いたが、すぐに表情を戻した。


「……はい、こちらも預け入れで処理させてもらいます。」


「よろしくお願いしますね。」


 ルーはそう言って蓮達と共にギルドを後にした。


 ギルドを出た蓮達は大通りからそれて街の外れにやってきた。


「ここみたいだね。」


 蓮が見上げた先にはイーラス孤児院と書かれた看板があった。


「やはり金銭的な余裕はなさそうですね。」


「うむ、ぼろい家だな。」


「レイヴィア、そんな事言っちゃダメだよ。」


 中の様子を伺っているとレイヴィアがぼろいと評した家から一人の男からが出てきた。


「あのー、何か御用でしょうか……」


 ボサボサの薄汚れた金髪の男。

 ヒョロリとした細身で眼鏡をかけており、頬が少しこけている。

 身に付けている白い司祭服も黄ばんでしまっている。

 

「今日、冒険者ギルドでこちらの依頼を達成しまして。この子が見に行きたいと言うものですから来させてもらったのですよ。」


 男は驚いたように目を見開くと、こちらに向かって走り出し、途中躓きながらもルーの目の前までやってきた。


「い、依頼って、素材の納品ですか!?」


「えぇ、そうです。先程全て納品してきましたので、すぐに連絡が来るでしょう。」


「あ、あぁ……ありがとう、本当に、ありがとう……」


 男はルーの手を握り、目に涙を浮かべながら感謝の言葉を繰り返した。


 暫くして落ち着きを取り戻した男はルー達を孤児院の中へと案内した。

 そこに元気な子供達の声はなく、隙間風の入り込む音がよく聞こえてきた。

 男は奥の応接室へと案内すると、飲み物を入れてくると言ってそのまま部屋を出て行った。


「誰もいないね。」


「えぇ、子供の声すら聞こえません。何かあったのでしょうか……」


 そんな話をしているとドアがコンコンとノックされ、紅茶のセットを持った男が入ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。」


 男はソファに腰掛けたルー達の前にカップを置き、紅茶を注いでいく。


「どうぞ。」


 紅茶を注ぎ終えた男は対面のソファに腰掛けた。


「先程は取り乱してしまって申し訳ありませんでした。私はここイーリス孤児院の院長をしております、トルネウスと申します。改めて、依頼の件、本当にありがとうございます。」


「私はルー、そして蓮にレイヴィアです。この街に来たばかりの冒険者です。依頼の件は気にしないでください。報酬はしっかり受け取っていますので。」


 ルーは優しい微笑みでそう返答する。


「ですが、報酬も十分ではなかったですから……。何かお礼をと言いたいところなのですが、この有様でして……」


 トルネウスは古く薄汚れた室内に視線を向けた。


「いえ、お礼など結構ですよ。……実はこの蓮は親の顔を知らずに育ちましてね。受ける人がいないという依頼票を見てどうしてもと。」


「……そう、でしたか……。先程ここを見に来たと言っていたのもそれで?」


「ええ。自分と同じような子供達が困っているなら助けてあげたいと言いまして。……失礼ですが、子供達は?」


 ルーの質問にトルネウスは目を泳がして、ゆっくりと口を開いた。


「……別の街の孤児院に、送り届けました。」


「……理由を伺っても?」


 トルネウスは先程より激しく目を泳がせる。

 少しの間沈黙が続き、やがて諦めたように口を開いた。


「実は……借金がありまして……。」


「ふむ、孤児院には国から補助金が出ているはずですが?」


「それも全て返済に回しています……。」


「……どこにお金を借りているのですか?そこまでしなければならないなど真っ当な所とは思えないのですが。」


 トルネウスは俯き、消えそうな声で呟いた。


「冒険者クランの【月夜の旅人ナイトウォーカー】から、です……」


 ルーの片眉がピクリと動いた。



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