第五十四話
「——という訳です。」
話を終えたルーは、メデュアが入れた紅茶に口をつける。
「ふーん……。それじゃあ僕達もそのゴルギオスさん達に協力するの?」
「いえ、提案はされましたが、お断りしました。」
「?どうして?」
ソファに寝転がっているナクタが口を開く。
「こっちにメリットがねぇんだよ。ゴルギオスぐらいしか使えそうな奴がいなかった。そんな連中と協力しても、こっちの負担が増えるだけだ。」
「そっかぁー……。なら仕方ないね。そのなんとかって悪いクランは、僕達で潰すの?」
デザートのケーキにフォークを突き刺し、蓮はそう質問する。
「また此方に手を出してくるようならと、思っていたのですが……」
ルーは蓮としっかり目を合わせて言葉を続ける。
「……とにかく、一度イーラス孤児院に行ってみましょう。本当にそのクランの人間が出入りしているのかも定かではありませんから。」
「ま、それもそうだね。」
その後、たわいもない会話を交わし、その日は就寝した。
翌日、朝からナクタと槍の鍛錬を行い、汗を流した蓮は昼食を取り終えると、ルー、レイヴィア、ナクタの三人と共にヘパストル工房へと足を運んだ。
「こんにちはー!」
扉を開け、元気に挨拶をする蓮。
椅子に座り、うつらうつらと船を漕いでいたカレイアは蓮の元気な挨拶に驚き、椅子ごとひっくり返ってしまった。
「だ、だいじょうぶ!?」
蓮はすぐに駆け寄り、立ち上がるように手を貸す。
「あたたた……。あ、あ、だ、だいじょうぶ、です……。あり、がとう……ご、ござい、ます……」
カレイアは顔を真っ赤にして蓮の手を借り立ち上がった。
「お、おまち、してました……。ず、図案を、取ってき、ます……!」
パタパタと奥の部屋へと入っていくカレイア。
蓮はとりあえず椅子に座って待つことにした。
「今のが昨日言ってたカレイアさんですか?」
「うん、そうだよ。僕と同じくらいの歳なのにちゃんと働いてて偉いよねー。」
ルーが口を開こうとした時、ガルドンを連れたカレイアが戻ってきた。
「お、おまたせ、し、しました……。」
「おう、坊主!待ってたぞ!」
そう言ってガルドンは手に持っていた数枚の紙を机の上に広げた。
「さて、早速説明と行きたいとこなんだが、そっちの二人は初めましてだな。」
ガルドンはルーとナクタに視線を向けている。
「俺はガルドンだ。この工房で鍛治師をやってる。隣にいるのがカレイア。この工房の工房長だ。」
頭を下げるカレイア。
蓮の頭には沢山のハテナが浮かんでいる。
ルーはやはりと呟き、ナクタ口を抑え、必死に笑いを押し殺していた。
「私はルーと言います。隣にいるのがナクタ。よろしくお願いします。……ところで、カレイアさんは小人ですよね?」
ルーの質問にカレイアはコクコクと首を縦に振り肯定する。
「……はぁ。そうですよね。蓮が失礼な事を言いませんでしたか?」
キョトンとして首を傾げるカレイア。
ルーは大丈夫だったかと安堵する。
と、ガルドンが言いたい事を察して笑い出した。
「ガッハッハッハッ!坊主!姉御は60歳の立派な成人女性だ!人族で言うと25歳ってところだな!」
蓮はガルドンの言葉で自分の勘違いに気付き、カレイアに平謝りする。
「ごっ、ごめんなさいっ!てっきり僕と同じくらいだと!」
「い、い、いえ……!だ、大丈夫、です……!なれて、ますから……!」
両手を前に突き出して手を振り大丈夫だと繰り返すカレイア。
ガルドンはその様子を見て更に笑い声を上げる。
「……ヒィー、涙目出ちまったぜ。まぁ姉御はドワーフの中でも背が低いからな。特に人族にはよく間違えられんだよ。」
その後、ガルドンとルーが二人を無理矢理椅子に座らせてなんとか落ち着かせた。
二人とも顔を真っ赤にして俯いている。
「いやー、この街のやつはみんな知ってるからな。久しぶりに面白いもん見せてもらったぜ。……さて、そろそろ本題といこうか。」
ガルドンはそう言うと、机の上に広げた紙を蓮達が良く見えるように近づけた。
「本当は姉御から説明して貰うつもりだったが、この状態だから俺が代わりに説明するぞ。」
そう言って一枚ずつ説明を始めるガルドン。
蓮も気持ちを切り替え真剣に話を聞いた。
「——ってな感じだな。これで全部だ。」
「うーん……。これもいいけど、こっちもいいなー……。」
蓮はペラペラと図案の書かれた紙をめくり、見返していく。
ルーは何かを言いたそうに口を開いては閉じを繰り返しているカレイアに気付き問いかけた。
「カレイアさんは、何か補足などありませんか?」
そう問われたカレイアは、蓮が見ている紙から三枚引き抜き、それを広げた。
「わ、私の、おすすめは、この三つ、です。まず、これは——」
そう言って勧める理由を説明し始めたカレイア。
口調のたどたどしさはすぐに消えた。
「——なので、レン君にはこの三つの中のどれかが良いと思います。」
一気に説明し終えたカレイアは、ほっと息をつき椅子に座り直した。
「なるほどねー。すごく参考になったよ!ありがとう!」
「あ、あの、その、よかった、です……」
蓮に笑顔を向けられたカレイアはまた顔を赤くして俯いた。
蓮はカレイアに勧められた三枚に絞り、じっくりと眺める。
すると、今まで黙っていたナクタが口を開く。
「こいつは使えるか?」
そう言って机の上に置いたのはナクタの糸。
蓮の服を作った時よりも力を増したナクタが作り出したその糸は、以前よりも強靭になっている。
カレイアはその糸を持ち上げじっくりと見る。
「使え、ます……。うちにある、物より、とても良い、素材です、ので……。」
カレイアに続き、ガルドンも口を開いた。
「こりゃかなりの上物だな……。俺たちは専門じゃねぇから服飾担当の奴にきかねぇと詳しい事は分からねえけど、これ程の物なら充分すぎるぜ。量はあるのか?流石にこれだけじゃ足りねぇぞ。」
ナクタは二人から視線を受け、あらかじめルーに預けていた糸を出してもらった。
「これだけあれば足りるか?」
床に置かれたのはナクタの糸で満タンになった麻袋。
それが10袋。
「え、あ、あの……こ、これだけ、あれ、ば、じゅ、充分、です……」
「おうよ。こんだけありゃ足りるどころか余っちまう。お前さんらはパーティーか?それならお揃いの外套でも作らねぇか?」
ガルドンの提案を聞いて、図案を眺めていた蓮はガバッと顔を上げる。
「作ろう!絶対作ろう!いいよね!?」
目を輝かせてナクタに詰め寄る蓮。
ナクタはあまりの圧に同意した。
「よしっ、決まりだな。……ちょっと聞きたいんだが、他にも珍しい素材とか持ってたりするか?」
その後、ガルドンの一言で始まったルーの在庫紹介により、工房内で作業していた全員が集まってきてお祭り騒ぎとなった。
あの島で取れた魔物の素材はどれもが珍しいらしく、カレイアも目をギラギラとさせて次々に素材を手に取っていた。
暫くして漸く落ち着きを取り戻したカレイアとガルドンと相談し、提示された図案のどれでもなく、ルーが取り出した素材の中から選び抜いた素材使って蓮の装備を作ることに決まった。
「うしっ、こんなもんだな……。じゃあこれで作られて貰うぜ!姉御、どれぐらいだ?」
「えっと……い、一週間……。一週間、く、ください……!必ず……さ、最高の、物に、仕上げ、ます……!」
フンスッと胸元で両の拳を握りしめ、気合の入った様子を見せるカレイア。
「うん、わかった!よろしくね!」
ルーは先に料金を全て支払い、店を後にした。
「良い物ができそうでよかったですね。」
「うん!ルーもナクタもありがとう!」
鼻歌を歌いながらスキップする蓮。
ルー達は嬉しそうな蓮の様子を優しく見守りながら帰路についた。




