第五十二話
「まいどありー!」
蓮は店の外まで見送ってくれたミーナに手を振り再び大通りへと出てきた。
装備ができるまでは依頼を受けることはできないが、どんな依頼があるかだけ見ておこうと思い、再び冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドについた蓮は扉を押し開け中に入る。
昨日と同じように右手側では数人が酒を酌み交わしていた。
蓮は真っ直ぐ依頼の貼られた掲示板へと近付き残り数枚となった依頼票を眺める。
「この時間だとやっぱり殆ど残ってないね。ふむふむ……」
残った依頼票を一枚一枚読んでいく蓮。
「うーん?これと、これとこれも、全部アリスお婆ちゃんが教えてくれた奴だ。ルーが待ってるやつだね。なんで残ってるんだろう?」
蓮が目を止めた依頼票には、植物が一つに魔物の素材が二つの納品依頼が書かれており、全てアリステラの家で世話になっていた時に近くの森の中で取れた物だった。
「あっ、レンくん!」
首を傾げる蓮に声を掛けたのは受付嬢のマリナだった。
蓮の名を呼び小走りに近寄ってきたマリナだったが、視線はチラチラとレイヴィアの方に向いている。
「あっ、マリナお姉ちゃん。さっきは迷惑かけてごめんなさい。レイヴィアにはちゃんとダメって言っといたから。」
「いえ、私の方こそごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって……。そうだ!装備、ちゃんと見つかった?」
基本的に冒険者には荒くれ者が多く、喧嘩なんて日常茶飯事。
だか、公衆の面前、それもギルドの中で殺しを行う者など皆無に等しい。
当たり前だが正当な理由の無い殺人は重罪であり、国に縛られず、多少の暴力には目を瞑る冒険者ギルドといってもそれに変わりはない。
怒号を上げた程度で即座に殺害しようとしたレイヴィアに、正直マリナはかなりビビっていた。
「うん!鍛冶屋街にいって注文してきたんだ!」
「よかった……。私が案内したかったのもそこだったんだ。」
ほっと息を吐き出すマリナ。
蓮は先程の依頼票について質問することにした。
「あ、そうだマリナお姉ちゃん。この依頼ってなんで残ってるの?」
「ん?あぁ、これ……。実は、難易度は高いんだけど報酬が少ないのよ。報酬次第では上の階に貼ってもいいんだけどね……。」
マリナは悩ましげにそう答える。
蓮は再び依頼票に目を向ける。
推奨ランクの欄にはB(A)と書かれていた。
「ねぇ、これって僕でも受けられる?」
蓮は依頼票を指さしマリナにそう聞く。
「えっと……、推奨ランクのBっていうのは報酬を加味したもので、実際の難易度は後ろの括弧にあるAランクなの。いくらアリステラ様の推薦でCランクとは言えちょっと難しいと思うな……。」
マリナの推測では蓮の本来のランクはCランクには程遠い。
本当に推薦されたのはレイヴィアをはじめとした蓮の周りにいた他の面々で、蓮は所謂オマケだと考えていた。
マリナの推測は決して間違ってはいない。
確かに蓮の戦闘能力は島での修行で上がったとは言え、よくてEランクといった所だ。
マリナも意地悪で言っている訳ではない。
実力に合わない依頼を受けさせ無い事で冒険者の命を守るのも受付嬢の立派な職務なのだ。
いくら周りに強者がいるからと言って何もせずに依頼を達成してしまうのは良く無いんじゃ無いかと、蓮が諦めるように話を進める。
しかし、次の蓮の一言で事情が変わった。
「ルーが全部持ってるんだけど、それを渡すのもいいの?」
「え?……え、えぇ。それは問題ないのだけど……。」
推奨ランクの示す通り、そこに書かれている素材の取得難易度は高く、普通に売るだけでもそこそこの金額が得られる。
蓮が見ている依頼に書かれた報酬は、それよりもかなり安い。
数ヶ月掲示板に貼りっぱなしになっているのもそれが原因であった。
その事も蓮に説明したが、蓮は別に良いと言って結局、後日実物を持ってきたら依頼を通すことになった。
「じゃあまた持ってくるよ。色々教えてくれてありがとう!」
そう言ってギルドを出た蓮達は帰路についた。
家につくと、ルー達も帰ってきており、蓮は夕飯を食べながら今日あった出来事を報告した。
「装備ですか。確かに失念していましたね……。」
「武器は作った方がいいだろうが、防具はその服で充分じゃねぇのか?」
ナクタの言うように、ナクタの糸で作られた蓮の服の強度はかなり高い。
防刃性に優れ、魔法に対する抵抗も備えている。
防御性能という点ではかなり優秀だが、それ以外の能力はない。
あくまでナクタの糸の性能そのままである。
蓮は隠密性などなど、自分に必要だと言われた効果をナクタに説明した。
「はー、なるほどなー。防具一個でそこまでできるもんなのか。」
魔物や魔人には防具というものに忌避感を覚えるものも多い。
ずっと、言うなれば裸の状態で過ごしていたのだからそうなるのも無理はない。
蓮の説明に興味が湧いたのか、明日ナクタも蓮についていく事になった。
続いて冒険者ギルドで見つけた依頼についての話になった。
「——で、それを納品する依頼なんだけど、いいかな?」
「使う予定もありませんし、それは構いませんが……どうしてそこまでしてその依頼を?」
たいした理由じゃないんだけど……、と蓮は話し始めた。
「書かれてた素材がね、全部特殊な薬を作るのに使うんだってアリスお婆ちゃんが言ってた奴なんだ。」
ふむ。と相槌を打ったルーは、蓮に続きを促す。
「でね、依頼者の所に、〝イーラス孤児院〟って書いてあって……。孤児院って僕みたいに親の顔を知らない子がいっぱいいるって前の世界のテレビで言ってたんだ。だから、困ってるなら助けてあげたいなって思って……」
「蓮様……」
メデュアはそっと蓮を抱きしめる。
ルーは目を瞑り、深く考え込んでいるようだ。
「ダメ、かな?」
不安そうにルーに聞く蓮。
ルーは瞑っていた目を開き、蓮の質問に答える。
「いえ、依頼は受けましょう。」
パッと表情を明るくする蓮。
そこに口を挟んだのはナクタだった。
「ルーの旦那、イーラス孤児院っつったら……」
「えぇ……。あの獣人の男、ベスターさんの話に出てきましたね。」
「ん?ベスターさんって誰の事?」
「実は——」
そう質問する蓮に、ルーはスラムでの事を話し始めた。




