第五十話
ひとしきり笑った男は自己紹介を始めた。
「俺は小人のガルドンだ!この工房で鍛治師をやってる!よろしくな!」
「うん、よろしくね。ガルドンおじさん!」
その後、レイヴィア、クロ、アシュラの紹介も終えた蓮は、未だに男の腕をバシバシと叩いている少女に話しかける。
「ねぇ、君の名前を聞いてもいい?」
男を叩く手をピタッと止めて蓮の方を向いた少女は、コホンと小さく咳払いする。
「わ、私は……カレイアって、言います……。」
「僕は蓮。改めて宜しくね。」
蓮はそう言って手を差し出した。
少女は戸惑いながらもゆっくりとその手を握り返す。
その後ろではガルドンがニヤニヤとその様子を見ていた。
「クックック……。こらぁ鍛冶場の皆んなにも教えねぇとな!」
そう言ってガルドンは奥の鍛冶場へと戻っていった。
楽しい人だなと笑う蓮にカレイアは話しかける。
「あ、あの……ガルドンの言う事、は……気にしないで……ください……。」
「あははっ。それより、装備のことは誰に言えばいいのかな?ガルドンおじさん?」
「あ、いえ……。そ、その……わ、私が……聞きます……。」
蓮の質問にカレイアはそう返答する。
「うーん、そっか。じゃあお願いするよ!」
カレイアは机と椅子のある場所に案内するとそこに座る様に促した。
それに従い蓮とレイヴィアは椅子に座る。
「あ、あの……、装備の、話に入る前に……ひ、ひとつだけ……その、あの……お願いが、ありまして……」
「ん?何かな?」
手をもじもじとさせているカレイアの視線はレイヴィアの方にチラチラと向いている。
「そ、その……も、もし可能なら、レイヴィア、さんの、大太刀を見せて……貰え、ませんか……?」
蓮はレイヴィアに視線を向ける。
「む?どうした、父よ。」
「カレイアちゃんが大太刀を見たいんだって。いいかな?」
「うむ、構わんぞ。」
レイヴィアは自分の一部と言っていた割にあっさりと許可し、大太刀を机の上に置いた。
カレイアはキラキラとした目で机の上に置かれた大太刀をじっくりと眺めた後、レイヴィアに問いかける。
「ぬ、抜いても?」
「うむ、いいぞ。」
カレイアは椅子から立ち上がり、レイヴィアの大太刀に手をかけ持ち上げる。
「っ!お、重い……」
片手で待とうとしていたカレイアだったが、たまらず両手で大太刀を支える。
「む?そうか?父よ、私が抜いたほうがいいか?」
レイヴィアにそう聞かれた蓮がゆっくりと机の上に大太刀を戻したカレイアに視線を向けると、恥ずかしそうに頷いた。
「うん、そうしてあげて。」
「うむ。」
レイヴィアは軽々と大太刀を持つと、スラリと鞘から刀身を引き抜き机に置いた。
食い入る様に露わになった刀身を見るカレイア。
「……金属、でもない……魔物の素材?……竜の素材に似ているけど、それとも違う気がする……。新しい合金……かな……」
カレイアは小さな声でブツブツと呟いている。
蓮は鍛冶場の中を覗きながらゆっくりと待つことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
蓮達が冒険者ギルドに到着したのと同じ頃、ルー、ナクタ、メデュアの三人も家を出ていた。
「ここですか……」
「ひでぇ匂いだ。」
ルー達がきたのはゴミや汚物が散乱し、ぼろぼろの家が立ち並ぶ、所謂スラム街と呼ばれる場所。
ナクタが言うように酷い匂いが立ち込めており、メデュアは顔を顰めてハンカチを鼻に当てている。
ここに足を運んだのは昨日の侵入者が吐いた情報を調べる為。
大した情報は無かったが、依頼を受けたと言う廃屋を一度見ておくかと思いやって来たのだ。
「さっさと行こうぜ。こんな所に長居はしたくねぇ。」
ナクタの意見に二人も同意し、スラム街に足を踏み入れた。
ルー達は奥へ奥へと歩みを進める。
人の気配は多くあり、こちらに視線を向けてくる者いるが姿を見せるものはいない。
見慣れぬ人物に警戒しているのか、立ち並ぶ廃屋の中に篭っている様だ。
「ふむ、そろそろ話を聞きたいのですが……」
「誰も出て来ませんね。」
「チッ……。こそこそと鬱陶しい奴らだな。」
実は少し前からルー達を尾行している数人の気配を感じ取っている。
付かず離れずの距離を保ち、ずっと後ろを追いかけて来ているのだ。
その後も奥へと進むルー達。
「ようやく来やがったか。」
正面からこちらへ近づいて来る気配を察知し足を止めた。
「兄ちゃん達、こんな場所にいったい何の用だ?」
現れたのはがっちりとした体格の強面の男。大きな戦斧を背負っている。
頭部には丸い耳が付いており、男が獣人であると示している。
ルーは男の問いに答える。
「実は昨日、私達の家に侵入した人達がいましてね。その人達に聞いた所、このスラムの廃屋で依頼を受けたと言っていましたので、それを確認する為に足を運んだのですよ。普段からそう言うことに使われている場所らしいのですが、何かご存知ありませんか?」
獣人の男は押し黙り、ルーの目をじっと見つめる。
少し時間を空けて口を開いた。
「……ついてこい。話はそれからだ。」
踵を返し、来た道を戻る獣人の男。
ルー達は黙ってその後を追った。




