第四十九話
翌日、蓮はレイヴィア、クロ、アシュラと共に朝早くから冒険者ギルドにいた。
前の世界で蓮が好きだったアニメの中に異世界に転生して冒険者として活躍すると言うものがあった。
それもあって蓮は冒険者というのに強い憧れを抱いており、早速依頼を受けたいとやってきたのだ。
今日の蓮は珍しく完全武装。といってもいつもの服に木槍を持っているだけだが……。
早朝の冒険者ギルドは多くの冒険者で溢れかえり、喧騒に包まれていた。
依頼の貼られた掲示板ではより良い依頼を受けようと、争奪戦が行われていた。
蓮はカウンターにマリナの姿を見つけ、声をかける。
「マリナお姉ちゃん!おはようございます!」
「あっ、レンくん!おはようございます。今日は……依頼を受けに来たの?」
「うん!そうだよ!僕も冒険者だからね!」
蓮は胸を張ってそう返す。
が、マリナは苦笑いだ。
「レンくんは……先に装備を整えよっか?その格好じゃ流石に危ないから。」
マリナは側にいるクロとアシュラの姿から蓮は魔物を使役して戦わせる従魔師だと判断した。
が、それにしても布の服に木槍というのは流石に心許なさすぎる。
受付嬢としては無茶な依頼を受けない様に忠告するのも仕事なのだ。
装備を整えろと言われた蓮は自分の服装に目をやる。
確かに夢見た冒険者の姿とはかけ離れている。
「うーん。確かにそうだね……。よしっ、今日は装備を整えよう。マリナお姉ちゃん、装備ってどこで買ったらいいのかな?」
マリナにそう聞いた時、後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「おい、ガキ!いつまでくっちゃべってやがる!」
その瞬間、レイヴィアが動いた。
「レイヴィアっ!」
蓮の呼び声でピタリと動きを止めたレイヴィア。
レイヴィアの放った貫手が蓮に怒鳴った男の首を貫く寸前で止まっていた。
「レイヴィア、殺しちゃダメだよ。忙しい時間に受付で長居した僕が悪いんだから。」
蓮の言葉と気付かぬうちに目の前にいたレイヴィアの姿にようやく自分の状況を理解した男は顔を青褪めブルブルと震え出した。
「……あっ……あっ……」
蓮がレイヴィアを止めた叫び声で周りの注目が集まっていた。
「お兄さん、ごめんなさい。すぐに退くよ。……マリナお姉ちゃん、迷惑かけちゃってごめんなさい。装備は自分で探すよ。またね。」
「えっ、ええ……」
蓮はレイヴィア達を連れてそそくさとギルドを出て行った。
ギルドを出た蓮は大通りを当ても無く歩いていた。
「……父よ。すまない。迷惑をかけてしまった。」
珍しくしょんぼりと肩を落とすレイヴィア。
正直何が悪かったのかは理解していない。
蓮に悪意を持った奴を始末しようとしただけ、それがレイヴィアに考えだ。
だが、冒険者として依頼を受けるとウキウキしていた蓮に迷惑をかける結果になったことは理解していた。
「ううん、いいよ別に。どのみちこの格好じゃ依頼を受けられなかったしね。……でも、これからはちょっとした事ですぐに殺すのはダメだよ。」
優しく注意する蓮。
レイヴィアはすぐに復活した。
「うむ、理解した。殺さない様に注意しよう。」
蓮は〝殺さない様に〟と言う文言に一抹の不安を覚えたが、それ以上考えない様にした。
ふらふらと歩いていると一軒の店が目に入る。
そこはふくよかな女性が商いをしている果物や野菜などを売っている八百屋。
蓮はその店に向かった。
「こんにちは!」
「おや、こんにちは。お使いかい?」
「これ、四つ欲しいんだけどいくら?」
そう言って蓮が指さしたのは、お気に入りの林檎擬き。
「あぁ、アボンの実だね。銅貨二枚だよ。」
蓮はルーから貰っていたお金から銅貨を二枚取り出し手渡した。
「うん、丁度だね。毎度あり!」
蓮はアボンの実を受け取り後ろの三人にも渡して齧り付く。
次いでとばかりに鍛冶屋がどこにあるか聞いてみることにした。
「うん、美味しい!あっ、お姉さん、鍛冶屋さんって何処にあるのかな?」
「あらまあ、お姉さんだなんて!嬉しい事言ってくれるねぇ。鍛冶屋はこのまま大通りを真っ直ぐ行ってから少しそれて中に入るとあるよ。ほら、あっちに煙が上がってるのが見えるかい?あの辺りが鍛冶屋街になってるよ。」
八百屋の店主が指さした方を見ると、確かに奥の方にモクモクと上がる煙が見えた。
蓮は店主にお礼を言い、鍛冶屋街に向けて歩き出した。
色々な店に目移りしながらしばらく歩き、ようやく鍛冶屋街にやってきた。
そこら中からカンカンと鎚を振るう音が聞こえてくる。
武装した人が行き交う中、蓮はふらふらと店を見て回っていた。
「うーん……。何処がいいのか全然わかんないや……。」
そもそも今までちゃんとした武器や防具に縁がなかった蓮に、並べられた装備品の良し悪しを判断するなど無理な話。
唯一武器を持っているレイヴィアもこれは自分の一部の様なものだと、他の武器についてはわからないと言われてしまった。
どうしようかと悩む蓮に、声をかけてきた人物がいた。
「あ、あの……」
声の方を向くと、そこには蓮と同じくらいの身長の女の子が、自信なさげに手をモジモジとさせていた。
分厚い大きな丸眼鏡をかけた茶色い髪のおさげの少女。
黒い瞳が左右にゆらゆらと揺れている。
「えっと……僕、かな?」
「は、はい……。あの、その……。」
声を詰まらせるその少女に蓮は優しく問いかける。
「どうしたの?迷子?」
「あ、いえ、そうでは無くて……。そ、装備をお探しかと……思い、まして……。」
少女の思わぬ問いかけに、蓮はキョトンとしてしまう。
「あ、いや、ご、ごめんなさい……。勘違い、ですよね……。」
少女は先程以上に激しく瞳を揺らし、遂には俯いてしまった。
「あっ、ごめん!ちょっとびっくりしちゃって。君の言う通り、装備を探しにきたんだ!」
蓮の言葉を聞き、少女はガバッと顔をあげる。
「よっ、よかったら!う、うちに……きません……か?」
段々と小さくなっていく声。
蓮はしっかり聞き取り同意する。
「君のお家は鍛冶屋さんなの?どのお店がいいのか全然わからなくて困ってたんだ!もちろん行くよ!」
少女はぱっと表情を明るくし、ついてきてと蓮達を案内する。
そして辿り着いたのは、鍛冶屋街の奥地にあるかなり大きな工房だった。
掲げられた看板には〝ヘパストル工房〟と書かれている。
「おっきいところだねー。」
「ど、どうぞ。」
少女に促され中に入ると、奥では十数人ほどの屈強な男達が作業をしていた。
いや、中には女性もいるようだ。
炉の中では轟々と火が燃えており、皆汗を流しながら作業しているが蓮のいる場所は全く暑さを感じない。
「向こうはすごく暑そうだけど、ここは暑くないんだね。」
「あ、はい……。こ、こちら側は、魔道具で、その……暑くならない様に、管理、してます、から……。」
へぇーと蓮は感心する。
蓮がキョロキョロと工房内を見ていると、奥で大きな箱を運んでいた一人の男がこちらに気付き、近寄ってきた。
「姉御!帰ってきたか!」
ずんぐりむっくりとした小柄な体躯に顔の半分を隠してしまうほどの髭。
その男は種族的に鍛治を得意とするものが多い小人である。
「大口の納品分は殆ど終わったぞ!今打ってるやつで全部だ!」
小人の男は姉御と呼んだ少女の後ろに目を向ける。
「んで?そっちの坊主達は客か?それとも、姉御にも遂に春がきたか?」
ニヤリと笑う男に少女は顔を真っ赤にして慌てて否定する。
「ちっ、ちがっ!違います!お、お客さん、ですよ!」
あわあわと慌てふためく少女を見かねて蓮は男に挨拶をした。
「おじさん、こんにちは!僕は蓮!僕の装備を作ってもらいたくて連れてきてもらったんだ!」
「そうかそうか!姉御が連れてくるなんて珍しい!」
バシバシと真っ赤な顔で腕を叩く少女を無視して男はガッハッハッと豪快に笑った。




