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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第四十八話


 アリステラの思惑に乗せられる形で拠点を確保した一行は、持ってきた荷物の整理などをして街に来てはじめての夜を迎えた。

 メデュアが作ってくれた夕食を食べ、団欒スペースとした一番大きな洋室で寛いでいた。

 すると、来客を知らせる呼び鈴が鳴る。


「あれ?誰か来たみたいだよ。」


「私が見て参ります。」


 メデュアは来客を迎えに部屋を出て行った。


「一体誰だ?この街で知り合いなんざジョセフとジェシカしかいねぇが……」


「二人では無さそうですね。魔力が違います。」


「うむ?敵か?」


「だったらわざわざ呼び鈴なんて鳴らさないよ。」


 ルーは魔力感知により、メデュアと客人の動きを追う。


「どうやら応接室へ案内したようですね。念のため私一人で行ってきます。皆はここでくつろいでいてください。」


 ルーは部屋を出てメデュアが客人を案内した応接室へと向かう。

 道中にあったメデュアに紅茶を入れるように指示し、一人で応接室へと入った。

 そこで待っていたのはいかにも貴族といった出立ちの金髪碧眼の青年だった。


「夜分遅くに申し訳ない。私はここイーラスを領都とするキールラント領の領主、アルバート=キールラントだ。よろしくね。」


 爽やかな笑顔で挨拶をするアルバートにルーもいつもの微笑みを携え挨拶を返し、ソファに座るように促した。

 すぐにメデュアが準備を整え部屋へとやってきて、アルバートとルーに紅茶を注ぐ。


「うん、美味しいね。この茶葉はアリステラ様からの頂き物かい?」


 アルバートのその質問に答えたのはルーだった。


「ええ、そうですよ。アルバートさんは「アルでいいよ。」……アルさんはアリステラさんの関係者か何かで?」


「んー。関係者と言えば関係者なんだけど、血縁者というわけでは無いね。」


 アルバートは再び紅茶に口をつける。


「アリステラ様は、この街をつくった一人だよ。〝万魔の魔女〟なんて異名で呼ばれてたりもするね。」


「この街をつくった、ですか……。」


「うん、そう。まぁ詳しくは本人に聞いてよ。私も伝聞でしか知らないからね。」


「そうですか。……それで、御用件は?」


 ルーはアルバートに本題に入るように促す。


「そうだね。単刀直入に言おうか。……君が持っている魔書をこちらに渡して欲しい。」


 ルーはカップを持ち、紅茶を一口飲む。


「ふむ……。魔書、ですか?」


「そう。君が今日、冒険者ギルドで受け取った魔書だよ。」


「渡せませんね。」


「……なに?」


 アルバートの顔から笑顔が消える。


「渡せないと、そう言いました。用件がそれだけなら話は終わりですね。メデュア、出口まで案内してあげてください。」


 ルーは立ち上がり、部屋を出るために扉に向かう。

 アルバートはバンっと机を叩きながら立ち上がった。


「君は!……君は、あれがどれ程危険な物か理解しているのか?」


 ドアノブに手をかけていたルーは振り返り、こちらを睨みつけるアルバートの目を見てはっきり告げる。


「私はアリステラさんに頼まれて受け取っただけです。貴方には関係ないでしょう?」


 ルーはそのまま部屋を後にした。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 半ば追い出される形で家を出たアルバートは門前に待たせていた馬車に乗り自宅への帰路についていた。

 険しい顔で目を瞑り、腕を組むアルバート。


「いるか?」


「はっ。」


 アルバートの声で現れたのは黒い人影。

 黒い靄のようで輪郭もはっきりとせず存在感もかなり薄い。


「あの家を見張れ。何かあれば報告を。」


「はっ。」


 人影は霞のように姿を消した。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 部屋を後にしたルーは蓮達の待つ洋室へと戻り、アルバートとの会話を皆に報告した。


「ふーん。魔書が欲しかったんだ。」


「そのようですね。何故かは分かりませんが、冒険者ギルドにある時に手を出していなかった事を考えると、私達の手にある現状に何か不都合があるのでしょう。」


「なんだっていいだろそんな事。奪いに来るなら消せばいいだけだろ?」


 ナクタはソファに寝転びながらそう言い放つ。

 それに同意したのはソファに座り、膝の上に乗せた蓮を抱きしめているレイヴィアだった。


「うむ。父の敵は私が斬ろう。」


 カチャリと扉が開き、メデュアが入ってきた。


「アルバート様はお帰りになりました。」


「そうですか。案内ありがとうございました。」


 メデュアは一礼し、レイヴィアの膝の上にいる蓮に問いかける。


「蓮様、お風呂の準備が出来ていますが、入られますか?」


「うん、入る!僕お風呂ってはじめてなんだ!」


「うむ、私もいくぞ。」


 レイヴィアは蓮を抱えたまま立ち上がり、そのまま風呂場へと向かった。


 蓮がお風呂に入って少し経った頃、寝転んでいたクロがピクリと何かに反応して立ち上がる。


「早速来たようですね……。」


 ルーは読んでいた本から視線を外し、門のある方を向いた。


「こっちから行くか?」


「塀を越えたら行きましょうか。今はまだ外に居るようですから。」


 そう言って再び手に持つ本に視線を戻した。

 再び本を読み始めて数分後、外からこちらを除く気配は十人程に増えていた。

 そして、遂にその時が来る。


「来ましたね。」


 ルーは本をパタリと閉じた。


「行くか?」


 ナクタの問いに頷き、部屋を出る。

 その瞬間、塀を越えて侵入してきた数人の気配が消えた。


「……レイヴィア?」


 侵入者の気配が消えると同時にレイヴィアの気配が現れた。

 どうやら先に出て侵入者を排除したようだ。


「急ぎましょう。」


 情報源がなくなる事を危惧したルーは、急ぎ外へ向かった。


 玄関を開けて外へ出る。

 そこにはバラバラになったおそらく数人分の死体と、四肢を凍らされ身動きの取れなくなった四人の男が転がっており、メデュアが尋問を行なっている。

 そのすぐそばにはびしょ濡れのまま全裸で立つレイヴィアとバスタオルで必死にそれを隠そうとしている蓮の姿があった。


「レイヴィア!体!体隠して!」


「む?何故だ父よ。私は見せられないような体はしてないぞ?」


 そう言って腰に手を当て胸を張るレイヴィア。

 普段はサラシで押さえつけられている豊満な胸がそれに合わせてブルンと揺れる。


「そうかもしれないけど、知らない人に見せちゃダメなんだよ!」


 ルーはそんなやり取りをしている二人を無視して尋問を行うメデュアの元へ歩み寄る。


「何か吐きましたか?」


「どうやら雇われただけの小物の様です。依頼者はスラムにある廃屋に依頼を書いた紙と前金の金貨を置いていたそうで、実際に会ったことはないと。」


「……それでよく依頼が通りますね。」


「その廃屋は普段からそういった使われ方をしている様でして、スラムの荒くれ者が依頼を受けるのだとか。」


「今回の依頼内容は?」


「ここに侵入して本を一冊盗んで来い、だったそうです。」


「ふむ……。」


 ルーは顎に手を当て思考を巡らせる。


「依頼者ってのはさっき来てたあいつか?」


「どうでしょうか……。可能性はありますが、断定はできません。ジョーさんが魔者を狙う裏の者がいると言っていましたので、そちらの線もあるでしょう。」


「この者達はどうしますか?」


「これ以上聞いても無駄でしょう。処分します。」


 転がっている肉片も、四肢を凍らされた男達も、黄金の炎に包まれ跡形もなく燃え尽きた。



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