第四十七話
蓮達が冒険者ギルド出て人混みに消えていくのを窓から見ている者がいた。
冒険者ギルドのギルドマスターであるジョセフだ。
その手にはルーが渡したアリステラからの手紙が握られていた。
「敵対するな、か。あの人がこんな忠告をしてくるとはな……。」
その手紙には魔書を渡す事、アリステラを推薦者としてCランクに登録する事の他に、決して敵対するなと言う文言が書かれていた。
ジョセフはそれを読み返し、深いため息をつく。
「頼むから厄介事を起こすんじゃねぇぞ……」
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冒険者ギルドを後にした蓮達はその足で次なる目的地へとやってきた。
それは天秤を模した紋章の書かれた看板が掲げられた建物。
看板には紋章の他に商業ギルドと書かれている。
「中に入りましょうか。」
「うん、そうしよう!」
蓮達は早速中へと入る。
中は冒険者ギルドとは異なりかなり静かだった。
数人の商人らしき人物がカウンターで何やら手続きを行なっているがそれだけだ。
ルーは空いているカウンターへと進み、そこに座っている眼鏡をかけた小太りの男性に声をかけた。
「すみません、少し宜しいでしょうか?」
「はいはい、どうぞお座りください。」
ルーはカウンターに備え付けられた椅子へと座る。
「はいはい、本日はどういった用件で?」
「実は、とある方からこちらを渡すように言われてまして。」
そう言って取り出したのは先程ジョセフの手に渡ったものと同じアリステラからの手紙。
実は出発の直前に商業ギルドで渡すようにともう一枚預かっていたのだ。
ルーは受付の男性にその手紙を渡す。
「はい、はいはいはいはい、はい!?ちょっ、ちょっとお待ちくださいませー!」
手紙を受け取った男性はみるみるその顔色を変え、手紙を握りしめて慌ただしく奥にある階段を駆け上がっていった。
数分後、先程の男性の代わりに階段を降りてきたのは神経質そうな女性。
すらりとした細身で茶色い髪を後ろでキッチリと纏めている。
その女性はルーの待つカウンターにやってくると、丁寧にお辞儀をして椅子に腰掛けた。
「お待たせして申し訳ありません。私、ここ商業ギルドイーラス支部の副ギルドマスターを務めております、ジェシカと申します。よろしくお願い致します。生憎ギルドマスターは本日席を外しておりますので、私が代わりに担当させて頂きます。」
そう言って頭を下げるジェシカ。
「私はルーといいます。よろしくお願いしますね、ジェシカさん。アリステラさんから先程お渡しした手紙をこちらで渡すように言われたので持ってきたのですが、何が書かれていたのですか?」
「内容をご存知ないのですか?でしたらこちらをどうぞ。専用の魔道具を使って読めるようにしておりますので。」
ルーは手渡された手紙には視線を落とす。
そこにはイーラスの街にあるアリステラが所有する別荘を蓮達に譲渡する旨が書かれていた。
「……成程。ありがたい事ですが、流石に露骨ですね……。」
今度はイーラスの街を拠点とするように仕向けるアリステラに流石に露骨すぎると眉根を寄せるルー。
「何か不都合が御座いますでしょうか?」
そんなルーの様子にジェシカは不安そうな視線を向ける。
「いえ、問題はありません。早速ですがそちらに案内して貰えますか?」
「畏まりました。ではお預かりしている鍵を取って参りますので、こちらの用紙にお名前だけご記入ください。」
そう言って席を立つジェシカ。
ルーはカウンターに置かれた用紙に名前を記入した。
すぐに戻ってきたジェシカは用紙に名前が記入されているのを確認し、側に控えていた先程の小太りの男性に渡した。
「私はルー様達を物件へ案内してきます。後の処理は任せましたよ。」
「はい、はいはいはい。」
「ではルー様、お連れ様も、ご案内致します。」
ジェシカはカウンターを出て、ルー達を先導する。
商業ギルドを出ると、目の前に一台の馬車が停車していた。
「物件へはこちらの馬車で向かいます。どうぞお乗りください。」
そう言って馬車の扉を開けた時ジェシカ。
中に入ると、そこは見た目以上に豪華で広々とした空間が広がっていた。
「うわー!すごく広いよ!」
「空間魔法で広げているようですね。」
「ご明察でございます。この馬車自体が魔道具になっておりまして、15人程が座れるように設計されております。」
最後に馬車へと乗り込んできたジェシカはそう説明し、御者へ出発の合図を出した。
ガタゴトと馬車が動き出すが、中にいる蓮達は振動を全く感じない。
「すごい。全然揺れないや。」
「こちらの馬車は商業ギルドがギルドに登録している魔道具技師に特注で作って頂いている物でして、この馬車を引いている馬も実はゴーレムなのです。」
「えー!そうなの!?すごいね!」
その後、蓮は馬車の窓に齧りつき、外の景色を眺めていた。
あっ、声を出した蓮は思い出したようにジェシカに質問する。
「そういえば、アリステラお婆ちゃんって偉い人なの?」
質問を受けたジェシカはその顔に戸惑いを浮かべる。
「ア、アリステラお婆ちゃん?えっと、本当にご存知ないのですか?」
「うん、前にお世話になったんだけど自分はただの老人だって言って教えてくれなかったんだー。」
「そう、でしたか……。申し訳ありませんが、アリステラ様が隠していらっしゃるのでしたら私の口からお伝えすることはできません。申し訳ありません。」
ジェシカはそう言って頭を下げる。
「それなら大丈夫だよ!言えない事聞いちゃってごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。しかし、この街で生活していれば、いずれ耳に入ると思いますので。」
蓮は再び馬車の外に目を向ける。
流れていく景色を眺めていると、ゆっくりと馬車が停止した。
「到着いたしました。外へどうぞ。」
ジェシカは馬車の扉を開けて外へ出るように促した。
蓮が馬車を降りると装飾の施された大きな鉄の門が目に入る。
ジェシカはその門の前に立つとこちらへ振り返った。
「こちらがアリステラ様から譲渡するようにと依頼のあった物件で御座います。今鍵を開けますので少々お待ちください。」
そう言ってジェシカが取り出したのは小さな水晶のような球体だった。
「それが鍵なの?」
「はい。この門はアリステラ様が作られた魔道具になっておりまして、こちらの専用の鍵を使うと開くようになっております。」
ジェシカはその鍵を門へと翳す。
するとかなりの重量だと思われる鉄の門が音もなく開いた。
「わぁ……。自動ドアだ……。」
「このように門が開きます。この鍵を使用するためには魔力紋の登録が必要となってあるのですが、それは後程行います。先に屋敷の案内を致しますので、門の中へどうぞ。」
蓮を先頭に、門を潜って中へと入る。
目の前に現れたのは三階建ての大きな邸宅。
玄関へと続く道には噴水が設置されており、街の左右には綺麗な芝生が広がっている。
「屋敷内の清掃も外の芝の手入れもさせて頂いております。家具などもそのままの残っておりますで、すぐにでもお住み頂けます。」
すごいすごいとはしゃぎ回る蓮。
他の面々も流石の豪華さに呆気にとられていた。
ジェシカの先導で家の中に入ると高そうな絵画や壷などの調度品が置かれた玄関ホールが出迎えた。
その後もジェシカの案内で全ての部屋を回った蓮達は、一番大きな部屋で最後の説明を受けていた。
「最後に、門の鍵の譲渡を行います。先に説明した通り、魔力紋の登録が必要となりますので、一人ずつこの鍵に魔力を流してください。」
ジェシカの言う魔力紋とは、言うなれば指紋のような物。
全ての生物はその身に宿す魔力に特徴的な波長を持ち、それを魔力紋と言う。
ジェシカの指示に従い、一人ずつ鍵である球体に魔力を流していく。
「有難うございます。では以上でご案内は全て終了でございます。何かご質問はございますでしょうか?」
「いえ、丁寧な説明ありがとうございました。また何かあれば商業ギルドの方に伺いますね。」
「かしこまりました。では、私はこれで。失礼致します。」
ジェシカは一礼し、ギルドへと帰っていった。




