第四十六話
全員の紹介を聞き終えたジョセフは早速本題へと入った。
「婆さんの手紙は読ませてもらった。魔書の受け渡しって話なんだが……」
探るような視線を向けるジョセフに、ルーは問いかける。
「……何か問題が?」
「いや、問題はねぇ。こちらとしても受け取ってくれるなら喜んで渡そう。あれを狙ってくる裏の連中も面倒だったしな。だが、あの婆さんの事だ。今更わざわざ欲しがるとは思えねぇ。……あれを欲してるのはお前さんの方だろ?一体何をする気だ?」
ジョセフの目に真剣さが宿る。
「何のことでしょうか?私達はただ、アリステラさんから頼まれて来ただけですよ。」
ルーは何食わぬ顔でそう答えると、ジョセフに微笑みかける。
が、目の奥は笑っていない。
視線をぶつけ合う二人。
折れたのはジョセフの方だった。
「……すまねぇ、どうやら俺の思い違いだったらしい。婆さんからの手紙もあることだし、素直に渡すとしよう。」
「ありがとうございます。思い違いなど誰にでもあることです。お気になさらず。」
ふんっと鼻を鳴らしたジョセフは、物を取ってくると言い残し部屋を出ていった。
「見た目と違い、頭のキレる男でしたね。」
「だな。それに人間のくせにかなり強ぇ。流石に戦闘集団の長をやってるだけはあるな。」
珍しくナクタが素直に称賛する。
「うむ。なかなかの強者だな。斬りごたえがありそうだ。」
「レイヴィア、斬っちゃだめだよ?」
そんな会話をしながら待っていると、少ししてジョセフが鍵の付いた箱を持って戻ってきた。
「こん中に魔書が入ってる。ここで管理してるのはこの一冊だけだ。」
そう言ってジョセフは箱の上に手を置いた。
その様子を見て、蓮は質問する。
「鍵は開けないの?」
「あぁ、ここに付いてる鍵はダミーだ。こいつは俺の魔力にだけ反応して開くようになってる魔道具なんだよ。」
蓮の質問に答えたジョセフは箱に魔力を流した。
すると、箱の表面に魔法陣が浮かび上がり、それが消えると同時にカチャリと音が鳴った。
「よし、開いたな。こいつの扱いには充分注意しろよ。狙う連中も少なくない。警戒を怠るな。」
真剣な表情でそう告げながら中に入っていた魔書を差し出すジョセフに、ルーは頷いて魔書を受け取る。
ソファにどかっと腰を下ろしたジョセフは再び口を開いた。
「うし。これで一つ目の要件は終わりだな。」
「え?一つ目?まだ何かあったっけ?」
「何って、冒険者登録だよ。婆さんの手紙に登録してやってくれって書いてあったぞ。」
蓮はルーの方に視線を向けるが、ルーにも心当たりがないようだ。
「本当に聞いてねえのかよ……。まあいい。お前さん達は特例でCランクからスタートだ。婆さんの推薦だからな。話は既に通してある。一階の受付でギルドカードを受け取ってくれ。ギルドに関する具体的な説明もその時にされるはずだ。……あぁ、そうだ。最後に一応きいておくが、婆さんの居場所は教えてもらえるか?」
ジョセフの質問にルーは首を横に振る。
「だよなぁ……。うし、これで話は終わりだ。ここは辺境の田舎だがいい街だ。存分に楽しんでくれ。」
ジョセフに礼を言い、蓮達は部屋を出て一階のカウンターへと向かった。
「お姉さん、こんにちは!」
レイヴィアに持ち上げてもらった蓮はカウンターで作業をしていた長い金髪をポニーテールにした女性に声をかける。
蓮に気付いた女性は作業の手を止め、レイヴィアに持ち上げられた蓮に微笑ましそうな笑顔を向ける。
「はい、こんにちは。本日はどの様な御用件ですか?」
「ジョーおじさんにここに寄るように言われたんだ。あっ、僕、蓮って言うんだ。よろしくね!」
「ふふっ。レン様ですね。私は受付嬢をしているマリナと申します。こちらこそよろしくお願いします。話はギルドマスターから聞いておりますので、少々お待ちください。」
マリナは一礼して奥の部屋へと入っていく。
すぐに戻ってきたマリナはカウンターの上に五枚のカードを置いた。
「こちらが皆様のギルドカードです。ご自身のカードに魔力を流して頂けますか?」
それぞれの名前が書かれたカードを受け取り魔力を流す。
すると、表面に書かれたそれぞれの名前とランクを示すCの文字が消えていった。
「はい、ありがとうございます。そちらで登録は完了です。もう一度魔力を流して頂ければ、先程消えた名前もランクも浮かび上がるようになっておりますので、街の出入りなどに使用する際はそのようにお願いします。」
その説明を聞き、蓮は自分のギルドカードに魔力を流してみると、しっかりと名前とランクが浮かび上がった。
「そのカードは身分証になると共に、ギルドに預けたお金から支払いを行えるようになっております。ほぼ全てのお店で使用できますので、是非ご利用ください。」
「へぇー。便利なカードだねー。」
「はい。そのカードがあるので、依頼の報酬は受け取らずにそのままギルドに預けてしまう方が殆どですね。」
カードをじっくりとみる蓮をよそに、マリナは説明を続ける。
「では、続いて冒険者についての説明をさせて貰います。冒険者とは——」
マリナの説明を要約すると、冒険者とは冒険者ギルドに出された依頼を受け、それをこなして報酬を得るというのが主な仕事内容になる。
傭兵とは違い、主に魔物に関する依頼が冒険者の仕事である。
冒険者には冒険者ランクというものが存在し、最低のFランクから始まり、E、D、C、B、Aと順に上がっていき、最高はSランクとなっている。
依頼の達成数や成功率などを加味して審査され、試験を経てランクが上昇していく。
依頼にはギルドが定めた規定によりランクがつけられ、自分のランクに応じた依頼を受ける事ができるようになっている。
特殊な依頼として指名依頼や強制依頼といったものが有り、強制依頼はその街に大氾濫などの魔物による危機が迫った時に出されるものであり、Cランク以上の冒険者が対象となっている。
「——となっております。説明は以上になりますが、何か質問はございますか?」
「いえ、ありません。」
ルーはそう返答するが、どこか浮かない顔をしている。
「ルー、どうしたの?」
「何故、アリステラさんが私達に特例まで出して冒険者登録をさせたのか疑問だったのですが……、おそらく説明にあった強制依頼の件がその理由でしょうね。」
強制依頼により、街を護る責務が生じるのが蓮達が登録されたのと同じCランクから。
ルーの言う通り、アリステラの狙いはそこにあった。
「あの婆さん、俺たちに街を護れって言ってんのか?」
「そうでしょうね。まぁどのみち冒険者登録はするつもりでしたし、良しとしましょう。マリナさん、でしたね。説明ありがとうございました。また依頼を受ける際もよろしくお願いしますね。」
ルーはマリナにお礼を言い、微笑みかける。
マリナの頬は一瞬にして真っ赤に染まった。
「はっ、はい!その時は是非、私に声をかけてください!」
蓮もありがとうとお礼を言い、冒険者ギルドを後にした。




