第四十五話
「お婆ちゃん、お世話になりました!」
「元気でやるんじゃよ。」
アリステラにお礼として竜の素材を丸ごと渡し、別れを告げて早速街へ向かう事にした。
森の中を進む事一週間。
特筆すべき事は何もなく、順調に街への道のりを進んでいた。
「こんなに小さくなれたんだねー。」
蓮の前には一般的なサイズの猿と小型犬の姿があった。
「ウキッ。」
「ワンワン!」
蓮の目の前にいる猿と犬は、眷族であるアシュラとクロ。
アリステラから魔道具を借り、従魔の紋様を刻んだ二人だが、証明すれば問題なく入れるだろうが警戒はされるだろうなというアリステラの言葉を聞き、クロとアシュラは不必要な警戒を生むのは蓮にとって不利に働くかも知れないと考え、密かに小さくなる練習をしていたのだ。
この〝小さくなる〟という行為は存外難しい上、大きなデメリットがある。
魔物の身体は魔力と密な関係にある。
種族差も勿論あるのだが、多くの魔力を持つ魔物はそれに比例して身体も大きくなる傾向にあるのだ。
クロもアシュラも例に漏れず豊富な魔力をその身に宿し、その分身体も大きい。
その魔力を必要以上に抑え込む事によって体を無理矢理小さくしているのだ。
勿論、その分使える魔力も減り、身体能力も低下する。
これが小型化による大きなデメリット。
弱肉強食の殺伐とした世界に生きる魔物にとっては本来必要としない能力なのだ。
そんなクロとアシュラを連れて今日もどんどん森の中を進む一行。
歩いて一月かかると言われていたが、レイヴィアが蓮を背負い早足に駆け抜けてきた為、既に森の切れ目がみえてきた。
「あっ!もうすぐ森が終わりそう!」
「森を抜ければあと少しと言ってましたね。街までもうすぐでしょう。一気に抜けますよ。」
全員、スピードを上げる。
それは急いでの事ではない。
「ちょっ!まちやがれ!」「あいつら気付いてやがるぞ!」「弓を打て!逃がすんじゃねぇぞ!」
そんな声が聞こえる中、ルー達は全て無視して駆け抜ける。
「アリステラさんの言った通りですね。」
「森の浅い所では盗賊が居るから気を付けろって言ってたもんね。」
そう、先程の声は森の中に身を潜めていた盗賊達の声。
ずいぶんと前からその存在には気付いていたが、面倒だったので放置していたのだ。
何やらぞろぞろと人数を増やし始めたので、囲まれる前に一気に駆け抜ける事した。
無事、盗賊達を振り切り森を抜け、轍の跡が残る街道に出た。
アリステラによればこの街道を道なりに進むと街に入るための門が見えてくると言っていた。
「あっ。あれじゃない?」
蓮が指さした先、そこには街を取り囲む立派な塀と大きな門が見えていた。
しかしその門は閉じられており、二人の門番の姿は見えるがそれ以外に人の姿はない。
速度を落とし歩いて近づく蓮達に気付いた門番が手にもつ槍を構え警戒する。
「すまない!そこで止まってくれ!」
門番の声に従い、少し離れた場所で足を止める。
「……何か身分を証明する物は持っているだろうか?」
「身分証になるかは分かりませんが、私達はある人物に仕事を頼まれこの街にやって来たのです。これがその証明です。」
ルーが取り出したのはアリステラに冒険者組合で渡すように言われていたあの手紙。
門番は警戒しながらそれを受け取ると、中身を確認する。
「す、少しお待ちください!すぐに確認して参ります!」
態度を一変させ、門の横にある小さな扉から街の中に入っていく門番。
もう一人の門番も蓮達に向けていた槍を降ろし、定位置に戻った。
「お婆ちゃんってもしかして凄い人なのかな?」
「そうでしょうね。でなければこんな手紙一枚でこうも対応が変わる事はないでしょう。」
なかった門番からチラチラと視線を受けながら、少しの間その場で待っていると、中に入っていった門番が一人の大男を連れて戻ってきた。
がっちりとした体付きに身長は二メートルを超えている。
スキンヘッドで顔には沢山の傷が刻まれており、見た目は完全に盗賊のそれである。
しかし、それ以上に目を引くのは男の左腕。
肩から先が機械義手になっているが、その動きに違和感は感じない。
「おう、お前らか。婆さんからの手紙を持ってきたのは。俺はジョセフ、気軽にジョーって呼んでくれや。」
ニカッと笑い右手を差し出すジョセフ。
ルーはその手を握り返す。
「はい、アリステラさんからの手紙を持ってきたのは私達です。私はルー。よろしくお願いしますね、ジョーさん。」
「おう、よろしくな!ルー。……取り敢えず中に入ろうや。詳しい話はギルドで聞くぜ。」
ついてこいと言うジョセフの後を追い、蓮達は遂に人間の生活する街へと入る。
「うわー……。人がいっぱい……。」
大通りの左右には沢山の店が立ち並び、多くの人々が買い物や飲食を楽しんでいる。
辺境の街故か、武装した人が多いようだ。
中には森人や小人、獣人といった亜人種の姿もあった。
蓮は目をキラキラさせながらあたりをキョロキョロと見回りながら進んでいた。
「うしっ、ついたぞ。ここが辺境の街イーラスの冒険者組合だ。」
そう言ってジョセフが入って行ったのは、剣と盾の紋章が書かれた看板を掲げた、周りと比べて一際大きな建物だった。
蓮達もそれに続いて両開きの扉を押し開け中に入る。
「凄い……。アニメみたいだ……。」
入ってすぐ左側には昼間から酒を酌み交わす冒険者らしき人達の姿。
右側に視線を向けると紙が張られた掲示板がある。
「突っ立ってないで早く来いよ!」
ジョセフは正面にある受付カウンターの横にある階段を登りながら、足を止めている蓮達を呼ぶ。
蓮はハッとトリップしかけていた意識を戻し、ジョセフの後を追った。
階段を登るとそこには一階と同じような造りになっていたが、そこには数人の姿しかない。
しかし、全員が下の者とは違う、所謂強者の風格と呼べるものを醸し出していた。
「上位の冒険者の場所、といった所でしょうか……。」
ルーの呟きを聞いたジョセフは振り返り、それに答える。
「流石に婆さんが仕事を任せた連中だな。お前さんの言う通り、2階は上位の冒険者専用の場所だ。難易度の高い依頼や特別な依頼なんかは此処でしか受けれねぇようになってんだ。」
ジョセフは更に上の階に登っていく。
「ここだ。話は中で聞く。入ってくれ。」
辿り着いたのは三階の一番奥にある部屋。
扉にはギルドマスターと書かれた札が付けられている。
中は広く、執務机に来客用のソファとテーブルが置かれているがそれ以外の物は殆どない。
「そこに座ってくれ。」
ジョセフは奥にあるソファに座ると、向かい合うように置かれたソファを指してそう告げる。
蓮、ルー、レイヴィア、ナクタは言われるがままソファへと腰を下ろし、メデュアはその後ろに立った。
クロはソファの隣で丸くなって目を瞑り、アシュラはソファの背もたれの上に立っている。
「改めて自己紹介しておこうか。さっきも言ったが、俺はジョセフ。ここイーラスの街の冒険者ギルドでギルドマスターなんてもんをやってる。よろしくな。」
ニカッと笑うジョセフ。
ルーは先程は紹介していなかった蓮達の事をジョセフに紹介した。




