第四十一話
アリステラの作った料理はどれもが美味しく、蓮は感動しながら貪りついた。
今までは碌な調味料も使わず、焼いただけの食事を取っていた蓮達には調味料をしっかり使ったアリステラの料理に感動するのも仕方がない。
そんな様子を見ていたアリステラは、今までどんな食事をしていたんじゃと憐れむような視線を向けていたが、蓮は一切気にせず食事に集中した。
食事を終えた蓮達は、アリステラから常識を教えてもらっていた。
蓮達が辿り着いたこの大陸は、ユークラッド大陸と呼ばれ、大小様々な国が存在する。
その中でも大国と呼ばれる国が六つ。
魔法・魔道具の発展が盛んな【アーグマギナ魔導国】。
世界最大の国土を持ち、多くの迷宮を抱える【クルザニス帝国】。
人族至上主義であり、教皇が治める宗教国家である【アルバラス聖教国】。
商業組合の本部があり、五人の代表による合議制を取る商業国家の【グレベール商業国】
自然に囲まれた豊かな土地を持ち、森人や小人をはじめとした多くの亜人達が住まう国【ミールヘルファ王国】。
国土は広くはないが、最強と謳われる精強な騎士団をもち、世界最大の迷宮が存在する為、冒険者ギルドの本部が置かれる【グランガリア王国】。
この六つの国が大国と呼ばれている。
「と、まぁ主な国はそんな所じゃ。」
「僕達がいるこの森はどこの国にあるの?」
「この森はグランガリア王国とミールヘルファ王国の緩衝地帯となっておる。じゃからどこの国にも属しておらんよ。」
「じゃあ僕達が行く街はミールヘルファ?グランガリア?」
「グランガリアに属する街じゃよ。ここから最も近いのがそこじゃからの。」
その後も蓮達は様々な事を教わり、夜を迎えた。
「さて、こんなもんじゃろ。明日からは各々やるべき事をやってもらうからの。……あぁそうじゃ。お主らの寝床が必要じゃな。」
そう言ってアリステラは家の外に出た。
「ここで良いか。」
アリステラは椅子を作った時と同様に、手に持つ杖でコツンと地面を突く。
地面からは数本の木が生え上部で絡み合う。
「これでいいじゃろう。ほれここで寝るといい。簡単なものじゃが、森で暮らしてたお主らなら充分じゃろうて。」
出来上がったのは簡素な小屋。
木が絡み合っただけに見えたが、ドアや窓も付いている。
「おぉー。お婆ちゃんの魔法便利だね。」
「植物魔法がこういったもんに向いてるだけじゃよ。今日はこの中で寝な。」
それだけ言い残し、アリステラは自宅へと入っていく。
残された蓮達は取り敢えず小屋の中へ入ってみた。
「何もないけど意外と広いね。」
「寝るには充分な広さですね。クロとアシュラは入れませんが……。」
「まぁ二人には『眷族の楽園』に入って貰えばいいよ。」
旅の疲れもあって早めに就寝する事となった。
蓮が寝静まった後、ナクタとアシュラは周囲の森の探索を行っていた。
「あの婆さんはこの森の魔物は比較的つえーって言ってたが大したことねぇな。」
チラリとアシュラに眼をやると、大型の猪のような魔物の頭を叩き潰している所だった。
小一時間探索し、数体の魔物に遭遇したが、どれも瞬殺していた。
故郷の島に比べると正直生温いと言わざるを得ない。
「こんなもんで充分だろ。アシュラ、そろそろ帰るぞ。ルーの旦那もそろそろ終わってんだろ。」
探索を終え、ナクタとアシュラは帰路についた。
二人が森の探索を行っている頃、ルーは再度アリステラの家を訪問していた。
「どうしたんじゃ?まだ何か聞きたいことでもあったかの?」
「えぇ、少し気になる事がありまして……。」
アリステラは、カップに注いだ紅茶一口飲み、続きを促した。
「周囲に張った隠蔽結界。あれは何かを隠す為でしょうか?それとも、ご自身が隠れる為、でしょうか?」
アリステラは再び紅茶に口をつけ、口を開く。
「いい眼を持っておるの。あれはワシが隠れる為のものじゃ。こんな老ぼれに仕事をさせようとする奴が居るもんでな。其奴らに見つからない為に張っておる。」
「成程。貴方が極悪人の指名手配犯でなくて良かったですよ。」
「ほっほっほ。ワシが極悪人に見えるかの?」
「極悪人ではありませんね。……覗き魔ではあるようですが。」
アリステラの手に持つカップがカチャリと音を立てた。
「……やはり、いい眼を持っておる。さっきも言ったがワシを探しとる奴がいるんじゃ。念の為の警戒じゃよ。」
「そうですか。では、私はこれで。夜分遅くに失礼しました。」
席を立つルーに、アリステラは困惑した様子を見せる。
「……解除せいとは言わんのか?」
「はい。今日あった者に警戒するのは当然です。それに……蓮に危害を加えるようなら貴方を消せば済む話ですから。」
ルーはアリステラに微笑みを向ける。
しかしその瞳は言い知れない狂気を孕んでいた。
「そう、か。監視は解こう。ワシはお主らに危害を加えるつもりは無いしのぉ。」
一礼し、アリステラの家を後にするルー。
それを見送ったアリステラは反射的に練り上げた魔力を霧散させる。
「(ふぅ。本当に何者なんじゃあやつは……。死を感じたのはいつ振りかのぉ。)」
小刻みに震える手を見てそんな事を思う。
「(レン、か……。あの少年、やはり何かありそうじゃ。)」
アリステラは震える手を押さえ込み、残った紅茶を飲み干した。




