第三十九話
全員の準備が整い、遂に島を出る事となった蓮達は、お世話になった拠点にお別れを告げ海岸へとやって来ていた。
そこはまだルーと二人きりだった時に来たあの崖の上。
「ここに来るのは本当に久しぶりだね。あの時は諦めて帰っちゃったし。やっと行けるんだね。」
「そうですね。あれからもう三年ほど経ちましたか。早いものです。」
ルーとレイヴィア以外の面々は既に『眷族の楽園』の中に入っている。
蓮はレイヴィアに向き直ると龍化を頼む。
「うむ、任せておけ。『龍化』」
レイヴィアは青い光に包まれる。
その光はどんどんと膨張して行き、そして弾けた。
中から現れたのは濃紺の鱗に包まれた龍。
四つ足で立つ竜ではなく、長細い体を持つ龍であった。
二本の枝分かれした綱を持ち、背中にはコウモリのそれに似た一対二枚の翼が生えている。
大きさはかなりの物。もしかしたらケルキュースを超えるかもしれない。
『父よ、私の頭に乗るといい。』
「うん、ありがとう。じゃあ行こっか、ルー。」
「ええ、行きましょうか。」
ルーは蓮を抱き上げ翼を広げると、頭部を蓮達のいる場所に近付けてくれているレイヴィアに飛び乗った。
ルーは自分達を囲む様に結界を張り、風除けを作る。
「しゅっぱーつ!」
蓮の元気な掛け声と共に、空の旅が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
島を出てから約ニヶ月が過ぎた。
レイヴィアが面白がってワイバーンの群れに突っ込んだり、途中で見つけた小島で休憩しているとクロが不気味な本を拾ってきたりという事もあったが、概ね順調に進んでいた。
鼻息荒く興奮している蓮の視線の先には視界いっぱいに広がる海岸線が見えていた。
「ねえ、ルー!あれってそうかな!?」
「ええ、恐らくは。あれだけの広さならば島という事はないでしょう。」
グングンと真っ直ぐ海岸線に近づいて行く。
そこは奇しくも蓮達が出発した場所と同じく、切り立った崖の上に広大な森が広がっていた。
「レイヴィア、あそこで一旦降りよう!」
『うむ、承知した!』
レイヴィアは蓮の指示を受け、切り立つ崖で停止した。
「着きましたね。では、降りましょうか。」
ルーは蓮を抱き上げ地面へと降り立った。
レイヴィアも龍化を解除し、蓮の隣に並んだ。
「森だねー。」
「うむ、森だな。」
「森ですね。あの島とあまり景色は変わらない様ですが……。」
あたり一面に広がる森。
出発前と景色は殆ど変わりはない。
しかし、それでも蓮は楽しそうにはしゃいでいる。
「うわー。ここが大陸かー。人が沢山いるのかなー?」
「蓮、先に皆を出してあげましょう。」
「あっ!そうだね!皆んな、着いたよ!」
蓮の声を聞き、眷族組が姿を表した。
「ここが人間の住む大陸ですか……。」
「んだよ、島と何も変わんねぇな。」
やはり誰が見ても島と変わらない。
島では見なかった植物を眺めてはしゃぐ蓮だったが、突然ルーに呼ばれて振り返る。
「……蓮、こちらへ。」
素直に従いルーの側に駆け寄った蓮は森の中を見つめるルーに問いかける。
「どうしたの?」
「誰か来ます。念の為警戒を。」
ルーのその言葉に即座に全員が警戒体制を取る。
「お主ら、何者じゃ?こんな森の奥深くで何をしておる。」
ルーが向けた視線の先、森の中から声が聞こえた。
そして姿を現したのは一人の老婆。
つば広のとんがり帽子に黒いローブ。大きな捻れた木の杖を持っており、いかにも魔法使いと言った出立ちである。
かなり歳を取っているのか、杖を握る指輪の沢山ついた手は深いシワが刻まれている。
しかし、ルー達を見つめるその眼光は獲物を狙う猛禽類の様に鋭い。
お互いに魔力を練り上げ臨戦体制。
そんな一触即発の空気を破ったのはルーの背後からピョコッと顔を出した蓮であった。
「お婆ちゃん、こんにちは!僕達海の向こうから来たんだ!」
「ぬっ!?子供!?それに、海の向こうからじゃと?」
ルーの背後に隠された蓮に気付いていなかった老婆は突然の挨拶に驚き戸惑っている。
「もしかして、ここってお婆ちゃんのお家だったりするのかな?だったら僕達はすぐ出て行くよ。勝手に入っちゃってごめんなさい。」
蓮はルーの背後に隠れるのをやめ、頭を下げる。
その様子を見た老婆は魔力を霧散させた。
「……いや、ここはワシの土地でも何でもないただの森じゃよ。ワシの家は少し先にある。少しお主らと話がしたい。ついて来なさい。」
そう言って老婆は踵を返す。
蓮はどうしようかとルーを見上げる。
「……取り敢えず行ってみましょう。私達も有益な情報が得られるかもしれませんし。」
蓮達は老婆の後を追うことにした。




