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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第三十八話


 レイヴィアを家族に迎えてから早一ヶ月が過ぎた。

 レイヴィアは蓮がどこに行くにもついて歩き、片時も側を離れようとしなかった。

 メデュアの様に蓮の世話を焼くわけではなく、産まれたての雛鳥が親鳥について行くようにただただ蓮の後ろをついて行くのみ。

 特に害があるわけではないので蓮は好きなようにさせていた。

 トイレについてこようとした時は流石に遠慮してもらったが……。


 そんなこんなでここ1ヶ月、平和な日常を過ごしていた。

 朝食を終え、皆が雑談に興じる中、蓮がまた突然声を上げた。


「島を出よう!」


 突然の大声に蓮の隣で鼻ちょうちんを膨らましていたレイヴィアはビクリと肩を揺らして目を覚まし、メデュアから差し出されたハンカチで口元に垂れた涎を拭いた。


「どうした父よ、突然大きな声を出して。もう少しで最後の一体を狩れるところだったのに、目が覚めてしまったではないか。」


 レイヴィアの頓珍漢な発言にはこの一ヶ月で慣れたもの。

 さらりと流すと本題に入る。


「あはは、びっくりさせてごめんねレイヴィア。そろそろこの島を出ようと思うんだ。」


「突然どうしたんだ?別に反対するわけじゃねぇんだ。まぁ人間の蓮にとっちゃ多少不便かも知れねぇが、今でも十分生活できてんだろ?」


 ナクタは不思議そうな表情で蓮に問いかける。


「僕はね、色んな場所を見て回りたいんだ。」


 蓮は今まで話していなかった自身の過去に付いて話し始めた。


 両親の顔を知らない事、不治の病でずっと病院のベットから出られなかった事、ルーと名付けたぬいぐるみと共に突然この世界に飛ばされた事。

 蓮が一通り話し終えると、その場はしんみりとした空気に包まれていた。


「でね、さっきも言った通り僕は外に出られなかったから、色んな所を旅するのがずっと夢だったんだ。だから、その夢を叶える為に島を出て新しいところに行きたいんだ。……僕の我儘だって分かってるんだ。だから無理強いはしないよ。でも、僕はみんなと一緒に行きたい。一緒に来てくれるかな?」


 不安そうに聞く蓮に、ルーはいつもの微笑みを携えて即答する。


「ええ、勿論です。蓮がどこへ行こうとも私はついて行きますよ。」


「私も、蓮様について行きます。旅の雑用はお任せください。」


「グォォォ。」


「ワォンワォン。」


「……ズズッ。俺も一緒に行ってやるよ。槍の稽古も付けてやらねぇといけねぇしな。」


「無論、私も行くぞ。父と離れるなど考えられん。」


 全員が蓮と共に島を出る事を選択した。


「みんな、ありがとう!」


 蓮は弾ける様な笑顔でお礼の言葉を告げる。

 明るい雰囲気に戻った所で、ナクタが蓮に問いかける。


「島を出るのは良いんだが、どうやって行くんだ?何かあてはあんのか?」


「ボルドラからこの島にきた人たちがどの方角から来たのか聞いたんだ。だから取り敢えずその方角にまっすぐ進んでみようと思う。方法は、レイヴィアにお願いしようと思ってるんだ。お願いできるかな?」


「ん?私か?うむ、任せてくれ。……で、私は何をすればいいんだ?」


「レイヴィアには龍化して僕とルーを運んで欲しいんだ。他のみんなは『眷族の楽園サーバントハウス』に入ってて貰えばレイヴィアの負担も少ないでしょ?」


「成程。無論、問題ないぞ。では、早速行くとするか。」


 立ち上がり、龍化を開始しようするレイヴィアを蓮は慌てて止める。


「ま、待って!まだ早いよ!みんなの準備が終わったらお願いね?」


「ふむ、そうか。ならそれまで待っておこう。」


 レイヴィアはそう言って再び席につく。


「では、早速準備に取り掛かりましょうか。荷物は私の空間魔法で収納しましょう。少し時間をもらえますか?」


「うん、荷物はルーにお願いするよ。僕はメデュアと一緒にボルドラさん達にお別れの挨拶に行って来るね。」


「無論、私は父と一緒に行くぞ。」


「そんじゃあ俺はクロとアシュラと一緒に食料でも調達して来る。いつ着くかもわかんねぇし、食料は多いに越した事はねぇだろ。」


 早速とばかりに各々が仕事に取り掛かった。



 メデュアとレイヴィアを引き連れた蓮はボルドラの元へ訪れていた。


 蓮の手首には銀色の腕輪が付けられている。

 これはステナからお詫びとして貰った解毒の腕輪。

 ケルキュースが自ずから作り上げた魔道具で、殆どの毒を無効化できるそうだ。

 これのおかげで魔法を使わず毒沼の森を抜けることができるようになっていた。


「——と言うわけで、この島を出る事にしたんだ。」


『そうか。人間の其方にはこの島は暮らしにくいだろう。それが最善であろうな。』


「僕はこの島には不満は無いんだ。魔物に囲まれてるし、危険な事はいっぱいあったけど、僕には新鮮で楽しいことばかりだったしね。」


『ふむ、そうか。いつでも帰って来るが良い。その時は是非会いに来てくれ。』


「うん!そうするよ!」


『……メデュアの事、頼んだぞ。』


「ボルドラ様。私はもう子供では有りません。心配は無用です。」


「もう。メデュアも素直になれば良いのに……。」


 ボルドラを冷たく突き放すメデュアに蓮は苦笑いを浮かべる。


『う、うむ。我の失言だった。取り消そう。……それはそうと、其処な女性は新たな仲間か?以前は居なかったと思うのだが……。』


「あっ、そうだよ!新しく家族になったレイヴィアって言うんだ!レイヴィア、この人がメデュアのお父さんのボルドラさんだよ。」


 紹介を受けたレイヴィアは一歩前に出て挨拶をする。


「父の自慢の娘であるレイヴィアだ。よろしく頼む。」


『父?……まぁ良い。我はボルドラ。お主の仲間には世話になった。こちらこそよろしく頼む。』


 レイヴィアの紹介が終わった所で、丁度ステナの姿が見えたので蓮は声をかけた。


「おーい!ステナさん!こっちこっち!」


 大きく手を振りステナを呼ぶ蓮に気付いたステナは一緒に居た配下に一言二言指示を出すとこちらにやってきた。


「蓮、それにお姉様もお久しぶりですわ。わざわざこちらに足を運ぶなんて、何かあったのですか?」


 蓮はレイヴィアの紹介を行い、島を出る旨を伝える。


「そう、ですか……。」


「またいつか帰って来るよ!」


「ええ、お待ちしておりますわ。お姉様の事、お願いしますわね。」


「ステナまで……。」


「あははっ。ボルドラさんと同じこと言ってる。うん!任せてよ!」


 和やかな雰囲気でお別れの挨拶を終え、蓮達は拠点に戻ることとなった。


「じゃあ僕達は行くよ。またね!」


『うむ、達者でな。』


「ええ、お元気で。」


 拠点に向かい歩き出す蓮達。

 少し進んだ所でメデュアが立ち止まり振り返る。


「ステナ、これを。」


 ポンと投げられたそれをステナは慌ててキャッチする。


「ネックレス?」


 それはシンプルなチェーンのネックレス。

 一粒の小さな黒い宝石が輝いている。


「ルー様にお手伝い頂き作成しました。魔法の制御を補助する魔道具です。貴方は魔法の扱いが雑ですから、それでいくらかましになるでしょう。」


 ステナは受け取ったそれをぎゅっと握り締め目を潤ませた。


「妹の事、頼みましたよ。お父様。」


『うむ、うむうむ!我に任せておけ!我は其方らの父親だからな!わっはっはっはっはっ!』


 メデュアはそれだけを言い残し先に進んでいる蓮達を追いかけた。


「早かったね、メデュア。言わなくてよかったの?」


「何をですか?」


「あのネックレスだよ。あの宝石、お母さんの魔石でしょ?」


「ああ、その事ですか。別に構いません。」


「ふーん、そっか。まぁメデュアがいいなら良いけど。」


 途中襲って来る魔物を狩り、珍しい毒草や木の実を採取しながら、蓮達は拠点へと戻った。



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