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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第三十五話


 ナクタとアシュラが戦線を離脱し、ルーとメデュアは二人でケルキュースと残る二体の分身体を相手にする事となった。

 メデュアが足止めを、ルーが攻撃に専念するという形をとっていた。

 ケルキュースの近くに陣取る分身体は、既に倒した他のものとは違いケルキュースから直接魔力を受け取っており、何度メデュアが凍らせても内側から溢れ出るように毒液で飲み込み元に戻ってしまう。

 一方ケルキュース本体は、エウラから受けていた長年の呪いによる魂の損傷が激しく、理性なく無差別に暴れ回る怪物へと成り果てていた。

 

 毒と強固な鱗を持つケルキュースに近接戦は不利だと感じたルーは早々に魔法戦闘へと切り替えていた。

 が、最大火力である神炎を叩き込み、一気に蹴りをつけようと試みるも、ケルキュースの毒魔法に相殺され、あたりに猛毒の煙を撒き散らす結果となった為、他の属性魔法での戦闘を余儀なくされていた。

 着実にダメージを与えていくルー達だが、やはり火力不足が否めない。


 長期戦の様相を呈する中、突然津波のように水が押し寄せ、ケルキュースを飲み込むと共にそいつは現れた。


『あの忌々しい呪いを解いたのはお前達か。礼を言う。』


 四本足で立つ胴体にそこから生える九つに分かれた長い首。頭部は蛇のそれである。

 メデュアの話に出てきたケルキュースの側近中の側近であり警戒すべきだと言われていた相手、九頭蛇ナインヘッドスネークのボルドラである。


『メデュアよ、そして亜人の青年よ。色々と話したい所だが、今はケルキュースを殺すのに手を貸してほしい。彼奴はもう手遅れだ。せめて楽にしてやりたい。』


「はい、もちろん。こちらこそお願いしますね。」


 ルーは現状を打破する為、ボルドラの提案を承諾する。


『感謝する。攻撃は任せたぞ亜人の青年よ。』


 ケルキュースを飲み込んだ水は既に消え、再び活動を再開した。


『水よ縛り上げろ』


 ボルドラが魔法を発動する。

 水の鎖が2体の分身体もろともケルキュースの全身を縛り上げる。


 ルーは右手を上に掲げ、神炎を発動。

 更に魔力を練り上げ制御する。

 ルーの掲げた右手の先には黄金の剣が形成されていく。


 先に動き出したのはメデュア。

 縛り付ける鎖から逃れようともがくケルキュースに一足飛びに接近すると一瞬で凍り付かせる。

 その対象はケルキュース……ではなく、ボルドラの放った水の鎖。

 ボルドラとメデュア、二人の魔法により強固になった氷の鎖がケルキュースの動きを完全に停止させた。

 メデュアはすぐさまその場を離れる。


 ルーは掲げた右手を振り下ろす。


「安らかに眠ってください。」


 その手に導かれるように、振り下ろされた黄金の剣がケルキュースの首を両断した。

 切られた頭部が地面へと落ちる。


 戦闘が終わり、ケルキュースを縛る鎖が解かれた。

 自由になった胴体は、落ちた頭部の後を追うようにずしんと音を立てて地面に崩れ落ちた。

 黄金の炎に包み込まれるケルキュースの死体。

 メデュアとボルドラは静かにその様子を見守っていた。

 


 ルーは二人をその場に残し、蓮達のいる場所へと戻ってきた。

 そこには地面に腰を下ろした蓮と、その横で伏せるクロがいた。


「ルー、お疲れ様。」


「蓮もお疲れ様でした。アシュラとナクタはどこへ?」


「アシュラは『眷族の楽園サーバントハウス』で休んでる。ナクタはお腹が空いたって言って森の中に行っちゃった。メデュアはどうしたの?」


「メデュアは今、最後のお別れをしています。そのうち戻ってくるでしょう。」


「……そっかぁ。」


 蓮は徐に立ち上がると、どこかへ向かって歩き出す。

 向った先には膝を抱えて座り込むステナの姿。

 ステナのすぐ側までやってきた蓮は声をかけた。


「ねぇ、お姉さんも行っておいでよ。お母さんの所。」


 ステナははっと顔を上げ、一瞬蓮と目が合うが、すぐにまた俯き首を横に振る。

 蓮はそんなステナの様子にムッとした表情を浮かべ、ステナの両手を掴み引っ張り上げ、無理矢理立ち上がらせる。


「ほら!早く行くよ!」


 蓮はそのままステナの手を引いてケルキュースの遺体が横たわる場所へと連れて行く。


 蓮とステナが着いた頃にはケルキュースの遺体のあった場所は灰の山に変わっていた。


「ほら、着いたよ。」


 蓮はステナの背中をポンと押す。

 よろめくように一歩前に出たステナ。

 一旦はそこで立ち止まるが、少ししてゆっくりと足を踏み出した。


 二人の姿を捉えたメデュアは少し驚いた様子を見せたが何も言わずに視線を戻す。


 灰の山のすぐ前まで来たステナはゆっくりと両膝をつき、落ちている灰を両手で掬い取ると、ぎゅっと胸元で握り締めた。


 その様子を見ていた蓮は納得したように頷くと、後ろを振り返り少し遠くで見守っていたルーの元へと駆け寄った。


「邪魔しないようにあっちで待ってよ!」


 今度はルーと手を繋ぎ、先程の場所へと戻って行く。

 歩き始めた蓮達の背後からは嗚咽混じりの泣き声が聞こえていた。



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